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もう子供じゃない、でも大人でもない19歳のふたりだからできる演奏がここに! さくらしめじ配信ライブレポート

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さくらしめじ配信ライブ「それでも進むから、少しの勇気を。」

2014年、中学生フォークデュオとして結成した当時は、あどけない笑顔がずいぶんと幼く見えた「さくらしめじ」の高田彪我と田中雅功。2020年、彪我の19歳の誕生日である10月23日に開催された配信ライブ「それでも進むから、少しの勇気を。」は、なんと21時スタートという、さくらしめじ初の夜ライブ。もう子供じゃない、でも完全な大人でもない繊細な、そして貴重な時期を駆け抜けつつあるふたりの、「今」をレポートしてみよう。

配信時間の少し前にログインすると、モニターには暗い散歩道の画像。しばらくすると、いきなりムービーが始まった。明るい日差しだが、どうやら小雨が降っている中、傘をさした彪我が歩いている。どこかの山の中といった風景で、カメラマン役らしい雅功が姿を見せぬまま「次はどこに行くの?」と語りかけると、「食料調達をしに狩りへ行きます……あ、キノコ! 食べれるやつかなあ。食べれなそうだね」と彪我。「本当に食料調達をするつもりなんだ!」とからかい半分な声の雅功。そして始まったときと同じくらい唐突に終わるムービー。これは何かの前振り?

約束の時間になると、モニターには暗闇の中でライトアップされる、猫じゃらしなどの野草があらわれた。今回のライブは、自然の中でのパフォーマンスになる様子。リリリリ……という虫の声をバックに、ふたりの声が響く。「さくらしめじ、夜の配信ライブ。『それでも進むから、少しの勇気を。』」──。

暗闇に輝くキノコのライトと、星のように見える無数の小さなライトが可愛い、屋外のステージ。茶系のシャツにボタニカル柄のベスト、えんじのパンツの雅功。衿と袖口がボタニカル柄な黒系シャツと、茶色いパンツの彪我。フォークロア調のふたりの衣装が、周りの雰囲気としっくりと合っている。1曲目はアコースティック・バーションの「きみでした」。甘さと力強さが混じるふたりの声、心に直接響くようなギターが心地よい。「夜の配信」を意識してか、高すぎないテンションがじんわりしみる。

曲終わりでキノコ柄のアクリル板をはさんで、向かい合うふたり。ギターの音だけを合わせスムーズに2曲目「まよなかぴくにっく」へ。高音を聴かせる彪我、それを支える雅功の低音。「大好きカバンに詰め込んで 一番星を見つけだそう おっきなハシゴをひっかけて 目指すは三日月 夜空を歩こう」……まさに特別な夜にピッタリな、可愛らしい歌詞だった。

2曲続けて思い切りパフォーマンスした後で、「どうも、さくらしめじです! 皆さんこんばんは~」とMCが始まった。そして今日はキャンプ場からのライブですと、彪我が発表。なるほど、開始前のムービーは、昼間のキャンプ場だったのか。それにしてもモニター越しとはいえ、大自然の中でのライブは抜け感があって気持ちいい。しかし「いつもだったら、『こんにちは~!(ハイテンション)』で始めるけど、今日は夜だから、ね。いつも9時って何してる?」と雅功が振ると、「何していると思う?」と返す彪我には笑ってしまった。「彼女か!」とすかさず突っ込む雅功に、ファンも頷いていたことだろう。

「僕たちさくらしめじが、今日は画面越しではありますが、色んな気持ちを皆さんと共有したい、1つになりたいと思います」と雅功がMCを締めくくり、3曲目「届けそこねたラブソング」が始まった。初めてのキス、初めての別れの曲なのに、ネガティブな感情がない、力強く明るい失恋ソング。自分よりも大切なものを見つけた相手のきらめきを、素直に受け入れいるいさぎよさがまぶしい。さくらしめじの、何があっても明日は今日より素敵なはずと信じる世界観は、初恋真っただ中の10代はもちろんだが、いくつかの恋を経た大人の心に、更に刺さるかもしれない。

続けて演奏された「きのうのゆめ」は、勇気を出したい「僕」の片思いの切なさを描いた曲だが、ふたりの気持ちが乗っているのがわかる。ファンの心をわしづかみにするハーモニーに、学生は共感し、大人は忘れていたものを思い出しそう。上手いだけではない、雅功の言っていた「色んな気持ちを皆さんと共有したい」を、まさに実感できる1曲だった。

雅功がギターを調整している間に、MCに入る彪我。「この自然の中で、僕らさくらしめじがライブをできるのを、光栄に思っています。そして自然に見まもあられら????……噛んだね?」ととぼけてみせる。歌っているときのカッコよさと、天然MCのギャップは、やっぱり彼の大きな魅力。

次の曲「かぜいろのめろでぃー」では、畳みかけるような歌詞のコーラス部分をさらりとこなし、デビュー以来着実に積んできたキャリアを垣間見せるふたり。子供から大人になっていく過程の不安、好きな人を応援したい気持ち──今の年齢の彼らを、象徴するような歌詞だった。

曲終わりでモニターが暗くなり、たき火の映像が入り、雅功のナレーションが重なる。「自分を出せば、仕切りたがり、出しゃばりだと言われる。何も言わなければ、消極的だ、人任せだと言われる──」。モニターはステージ上のライティングのアップや、キノコのライトのアップなどに切り替わり、その間にも雅功のナレーションは続く。「いつからだろう、そんなことを気にし始めたのは。いつからだろう、欲しいものがあっても、駄々をこねず諦めるようになったのは──」。誰かに話しているというよりも、自分に言い聞かせるような語り口である。「きっと、ここに生い茂る木々たちは、そんなことをちょっとも考えたことないんだろう。不思議と、ここにいると、音楽を聴くと、自分が自分でいられる気がする。明日もまた、変わらない日常が、移り変わる街の景色が、訪れるんだろう。せめて、今日くらいは、自分が自分として、いられるように……」。

そして暗闇をはさんで、モニターはステージへ。激しいギターから始まった曲は「でぃすとーしょん」。バックバンドも入った立体的な音の激しい曲調に、ふたりの歌い方も変わる。声に太さが加わり、巻き舌も駆使し、高音も交え、腹に響いていく。「さくらしめじ=優しい曲」と思っていた人は、足元をすくわれた気分になるかもしれない。先ほどのナレーションは、この曲のバックグラウンドとなるフラストレーションを表現したのか。戸惑う年齢のイライラを叩きつけるような曲だった。

7曲目となる「青春の唄」は、ふたりのギター、ふたりの声だけのパフォーマンスに再び戻るが、力強い方向への歩みは止まらない。後悔をしたくない、思い出になる前にやりきりたいという、若さゆえのもどかしさや焦りを歌う。後半、ふたり笑顔で一瞬目を合わせ、そして歌に戻るところに、曲への思い入れが見えた気がして、ライブ配信の醍醐味を感じた。

キャンプファイヤーのような炎の前で、ギターを奏でながら始まったMCは、彪我のノンビリおしゃべりから。「僕らさくらしめじは、心はいつでも、この炎のように燃え上がっております、いえーい!」「非常に楽しい、こんなに楽しい。いいねえ本当に」と崩さないマイペースに、横で雅功が大きな笑顔を見せる。「失敗したときってさ、結構、落ち込むじゃないですか。そんなときに、僕たちから皆さんに届けたい言葉があるんです」と彪我──そして始まる「ケセラセラララ」。どんな悩みも飛んでいきそうなポジティブさが、見えないファンに対して惜しみなく与えられる。

そして曲中で再度、彪我のMCが挟まれたが、ここでも期待を裏切らない。「『ケセラセラララ』、この言葉がどんなに便利なのか、僕は思い知らされました。先ほどですね、僕はある過ちを犯してしまいました。リハーサルの終了時に、キノコのアクリル板を、もう1つあったのを、足を滑らせて割ってしまいました」。笑いながらギターを弾き続ける雅功。それをしり目に天然トークを続ける彪我が「この言葉を知ってるからこそ、このステージに立っていられる! その言葉は、『ケセラセラララ』!」──曲に戻ってまた歌うふたり。始まってしまえば力強いハーモニーは美しく、心を打つ。

「ああ、お気に入りのボードを割ったのは取り払えない! そんなときに、これを歌えばいいんだ!!!!!」との彪我の振りから入るのは、ギターを置いてハイテンションで歌う「Bun! Bun! BuuuN!」。雨のしたたる中で走りながら歌う雅功。モニター前のファンも一緒にはしゃげるようなテンション。手を振り回しながら歌う、張りのある各々のソロパートが、お祭り感を盛り上げる。「回せ、回せブンブンブンブーン!」──ふたりピッタリくっついて、モニター=ファンに目線を合わせて歌ったりと、ファンサービスもバッチリ。〆の「よっほーーーい!!!!」の後は、顔を見合わせて「ありがとうございます!」。そして夜の雨が降る中、ゆらぐ炎の前の演奏が、幻想的だねと嬉しそうなふたり。

最後の曲前には、雅功がリードするMCが入った。「あと2ヵ月したら2020年が終わります。もちろん僕としては、生でライブをやりたい熱量は変わらないんですけど、同時に、この配信ライブっていうものへの熱さも、どんどん上がってきていて。『配信でもいろんなものを届けられるんじゃないか』って、彪我と話してきました」。確かにライブ配信の完成度は上がり続けているし、独自の良い点もある。生ライブのできないもどかしさはあれど、腹をくくって今できることを盛り上げていくのは、まさにライブタイトル「それでも進むから、少しの勇気を。」そのままだ。

「これからも僕らさくらしめじは、いろんなことに挑戦したいし、その挑戦した先で皆さんが笑顔になってくれれば、幸せです」(彪我)、「(今日のライブは)一瞬だったけど、その一瞬を最後の最後までみんなと心の底から楽しめたらなと思います」(雅功)。こんな印象的な言葉から続いたのは、未発表曲「天つ風」。過去に1回だけ公演で演奏したことあるとはいえ、ほぼ知られていないこの曲。「天つ風 この曇った空の その先にいる君の元へ」「響けもっと 歌おうもっと この手のひらの雪が溶けないように」という歌詞の部分は、まるでさくらしめじとファンの関係のよう。ふたりの絡み合う歌声が、このライブがもうすぐ終わってしまうという残念さと、めいっぱい楽しんだとい う喜びを盛り上げてくれた。

「天つ風」の余韻に浸っていると、モニターでは火のそばでふたりがしゃがみ、マシュマロを焼く、アンコール・ムービーが始まった。そこで初めて、雅功が「お誕生日おめでとうございます」とお祝いを言い、彪我は「あら、あららららら! ありがとうございます!」とちょっと照れ気味でお礼を返す。そして「カメラに向かって豊富でも」と促す雅功に応えて、「あと1年で20歳になるということで、自立した人間になれるよう、身の回りの整理整頓をしていきたい」と、彪我式ナゾ理論の本領発揮! 思わず「ちっちゃ! 自立イコール整理整頓なの?」と突っ込む雅功だが、その後はふたりで仲良くマシュマロを食べ続けるのであった。

「お腹も満たされて、心も温まりました」(彪我)、「最後に、皆さんのアンコールにお応えして……」(雅功)。雅功の顔についたマシュマロを取るなどしながら、ふたりで相談。そして決まったアンコール曲は、2017年のファーストアルバム「さくら〆地」に収録されている「みちくさこうしんきょく」。さくらしめじの王道、悩んで回り道をしても、横道にそれてしまっても、目指した未来に進んでいこうという人生応援ソング。しかしふたりの表現力がどんどん伸びてきているため、曲自体も成長し、説得力が増している気がする。

「さあ、キャンプの会場に来ているみんな、歌おう!」と煽る雅功、「こうしてみんなで歌ってる瞬間を、辛いときほど思い出してください!」と彪我。突然のウィルスでいろんなものが厳しく、キツい状況になっている今、回り道も横道もいつもよりきっと多い。でもひと休みをはさんで、すべて楽しむ覚悟で歩けば、きっとたどり着ける未来があるはず──そんな気持ちでモニターを見つめていたら、いつのまにか曲の終わりに。そして万感の思いを込めたであろう、ふたりのシンプルな挨拶が。「ありがとうございましたー!」「さくらしめじの田中雅功と」「高田彪我でした」「みんなまた会いましょう、ばいばーい!」。

エンディングのムービーは、キャンプ場で楽しむふたり。火を熾す彪我。コーヒーをひく雅功。雨の中で歩くふたり。そして手書きのメッセージ。「少しの勇気で、みんなとすすめるんだ。だから、また会おう」──そう、私たちは何度でも、またふたりに会いに行く。

【setlist】
M1.きみでした(Acoustic Version)
M2.まよなかぴくにっく
M3.届けそこねたラブソング
M4.きのうのゆめ
M5.かぜいろめろでぃー
M6.でぃすとーしょん
M7.青春の唄
M8.ケセラセラララ
M9.Bun! Bun! BuuuN!
M10.天つ風
EN1.みちくさこうしんきょく

撮影/鈴木友莉、取材・文/中尾巴

※高田彪我の「高」は、「はしごだか」。

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