森七菜の表情と演技を堪能できる! 『恋あた』は“本物”であることを証明する主演ドラマに
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“逃げ恥”こと『逃げるは恥だが役に立つ』を皮切りに、“ぎぼむす”こと『義母と娘のブルース』、そして今年1月期に話題を集めた“恋つづ”こと『恋はつづくよどこまでも』と、そうでなくとも良質な作品が目立つTBS系列の火曜ドラマは、公式な略称が授けられるとたちまちに何らかの旋風を巻き起こしてくれる。そんな同枠で10月20日から放送されている『この恋あたためますか』も、すでに“恋あた”という略称が与えられているようで、それだけでこの2020年の鬱屈とした雰囲気を一蹴してくれる傑作になるような予感がひしひしと漂っている。
その“恋あた”で、意外にも連ドラ初主演を飾るのが現在19歳の森七菜だ。昨年の1月期にブレイク候補の若手俳優たちが大挙として集まった『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)の生徒役のひとりとして存在感を発揮し、その後は新海誠監督の『天気の子』でヒロインの声を務めるなど充実一途。2019年だけでもかなり密度の濃いフィルモグラフィとなり、筆者は以前「2019年最大のブレイク女優」と少々早とちり気味に紹介したわけだが(参照:森七菜、なぜ2019年最大のブレイク女優に? 小学生から結婚する女性まで演じた大躍進を振り返る)、この2020年にその当時の想定を大きく上回る活躍を見せてくれるとは。少なくとも、「この先数年間の若手女優界のトップを走る逸材」と評した(参照:森七菜、『3年A組』で一躍ブレイク 『東京喰種2』『天気の子』話題作にも出演するその魅力とは)ことは正解だったようだ。
2020年における女優・森七菜の代表作をまず挙げるとするならば、それはやはりNHK朝の連続テレビ小説『エール』であろう。二階堂ふみ演じるヒロイン・音の妹である梅役を演じ、放送再開後の第14週から第17週にかけては岡部大演じる五郎との純真な恋模様が日本中に大きな癒しを与えたことは言うまでもない。朝ドラに出演するということは、必然的に多くの世代の視聴者の目に留まり、一気に知名度が上がることにつながる。その効果もあってか、今年は「オロナミンC」や「フジパン」など、CMへの出演も相次いだほどだ。
これまでも繰り返し語ってきたことではあるが、森の演技の持ち味は画面を独占せんばかりのモーションの大きさにある。しかもその大半が徹底した“陽”の空気に包まれていて、そこに時折すっと落ちるように“陰”の演技が現れると、たちまち視線を奪われてしまう。そんな力が著しいまでに発揮されていたのが、今年1月に公開された岩井俊二監督の『ラストレター』だ。松たか子演じる主人公の裕里の高校生時代役と、裕里の中学生の娘・颯香の二役。それだけでもキャスティングの妙に唸ってしまいたくなるわけだが、その出演シーンのほとんどが、いまや20代前半の若手女優界でトップに君臨する広瀬すずとの共演シーンであったことは重要なポイントである。
現代パートでは利発的で明るく朗らかな少女に徹し、古民家の縁側を飛び回るように走る。広瀬が演じる鮎美の影を帯びた雰囲気をより顕著にさせながら、明るい方へ明るい方へとどんどん引き込んでいく力がスクリーンの中を縦横無尽に巡っていく。そして回想パートでは、こちらも広瀬が演じている姉の未咲に想いを寄せる神木隆之介演じる鏡史郎に、淡い恋心を抱く複雑な心情を控えめな動きとともに体現。広瀬や神木といった、とにかく上手くて存在感のある共演者相手に一寸の引けも取らない、それどころか“食う”ほどのスクリーンスティーラーぶりを発揮しただけでなく、極め付きには主題歌という大役をも務める。新海作品につづいて岩井作品でもその作家性の強い世界観との親和性を見せつけ、改めてその“特別さ”を感じさせたわけだ。
さて、そんな森がこの“恋あた”で演じるのは、無気力なコンビニアルバイトの井上樹木役。アイドルグループをクビになり、コンビニスイーツを食べてSNSで感想を投稿していたところで、中村倫也演じるコンビニチェーンの社長と出会い、スイーツ開発を手掛けることになるのだ。本物のアイドルグループukkaに混ざっても遜色のないオーラを放つアイドル時代の回想シーンに、さまざまなスイーツを美味しそうに頬張る姿。そしてなんといっても、先日放送された『あのコの夢を見たんです。』(テレビ東京系)でも見事なコンビネーションを見せた仲野太賀と一緒にシュークリームの開発に熱心になる姿。どのシーンにおいても、期待通りの森の表情と演技を堪能できるドラマになっていることが第1話からうかがえる。
今後もV6の井ノ原快彦となにわ男子の道枝駿佑が親子役を演じる『461個のおべんとう』や、SixTONESの松村北斗とダブル主演を務め、ギャルメイクにも挑戦した『ライアー×ライアー』と出演作が続いている森。『3年A組』で頭角を現し、『エール』でその名が全国区に知れ渡ったところで迎える“恋あた”が、彼女を“本物”であると証明する作品になることだろう。
■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■放送情報
『この恋あたためますか』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:森七菜、中村倫也、仲野太賀、石橋静河、飯塚悟志(東京03)、古川琴音、佐藤貴史、長村航希、中田クルミ、佐野ひなこ、利重剛、市川実日子、山本耕史
脚本:神森万里江、青塚美穂
プロデュース:中井芳彦
演出:岡本伸吾、坪井敏雄
主題歌:SEKAI NO OWARI「silent」(ユニバーサルミュージック)
製作著作:TBS
(c)TBS