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日系人強制収容所で少年はどんな日々を過ごした? 『スタートレック』出演俳優が明かす〈敵〉と呼ばれた過去

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リアルサウンド

 23世紀、差別がない時代。アメリカ人、アフリカ人、スコットランド人、ロシア人、アジア人など多様な民族、人種が乗組員として宇宙船エンタープライズ号で広大な宇宙を調査していた。その乗組員の一人にアジア系アメリカ人のヒカル・スールー(ミスター・カトウ)がいた。SFテレビドラマ『スタートレック(宇宙大作戦)』で彼を演じていたのが日系アメリカ人2世のジョージ・タケイだ。

 『〈敵〉と呼ばれても』はジョージ・タケイが幼少期に日系人強制収容所で過ごした3年間を綴ったグラフィックノベルだ。日本の真珠湾攻撃によって太平洋戦争が勃発。ロサンゼルスに住んでいた当時5歳のジョージ・タケイと家族は突如として財産と住まいを没収され内陸の強制収容所へ送られた。1942年から1946年の期間、アメリカ人であろうとも「日本人を祖先に持つ者」すべては敵性外国人として自由を奪われ約12万人が強制的に隔離施設へ収容された。その内6万人以上が子供だった。日系アメリカ人は自分の国に裏切られたのだ。

 彼の父は日本生まれだがアメリカで育ち教育を受けた。母はアメリカ生まれで日本の教育を受けた。また弟にヘンリー、妹にナンシー・レイコがいる。1942年春、家族はバスでサンタアニータ競馬場に連れてこられ住まいとして馬の糞の臭いがする馬小屋が割り当てられる。数カ月後にはさらに東にあるアーカンソー州のローワー収容所に移送され、そこは重装備の兵士が監視する鉄条網で囲われたまさしく収容所だった。

 しかし5歳の少年ジョージの目から見た強制収容所の思い出は好奇心と冒険心に満ち溢れ、どんな状況でも順応する子供のたくましさに溢れている。汽車での移動に心を躍らせ、収容所では蝶を追いかけ、初めて見る砂漠に目を輝かせる。まるで冒険しているかのように。そんな屈託のない少年の描写と同時に全てを奪われてしまった日系移民たちの悲壮感やアメリカへの不信が差し込まれる。

 印象に残るのがアメリカ陸軍からの忠誠登録書の二つの質問だ。開戦当初、若い日系人たちはアメリカ人として戦うことを選び兵役に志願したが敵性外国人として拒否された。しかし人的資源が不足してくると政府は手のひらを返して日系アメリカ人にも入隊が認めたのだが、そこで提出を義務付けられたのが忠誠登録書だった。

 そこには幾つかの質問があったが、中でも“進んでアメリカ軍の命令を遂行するか”、“アメリカに対して無条件に忠誠を誓い日本の天皇への忠誠と服従を拒否するか”という二つの質問が物議を呼んだという。全てを奪った国が自分たちに忠誠を誓えるかと聞いてくる身勝手さ。国家とはここまで厚顔無恥になれるのかと驚いた。そんな国を信じ続けることができるだろうか。

 その答えはジョージ・タケイの父の言葉にある。

アメリカの民主主義は参加型の民主主義であり政治プロセスに積極的に関わる人民に依存している。

 そしてその人民は偉業を成すことができるとも。ジョージ・タケイの父が信じたのは国家ではなく、民主主義であり、それに関わる人々だった。

 民主主義とは参加することだ。抗議や批判、不満や訴えの声を上げることですぐに変化は訪れない。とても時間がかかるものが民主主義であるが、絶えず人々が声を上げていくこと、その政治プロセスこそが民主主義の最も大切なことなのだと本書は教えてくれる。

 『〈敵〉と呼ばれても』は戦時における国家的な人種隔離の体験談であるが、ジョージ・タケイの物語には差別や偏見の問題とともにアメリカ民主主義への深い問いが描かれているのだ。

 アメリカ大統領選挙、人種、肌の色、移民、ジェンダー、セクシャリティなどへの偏見と差別や、言論や行動の自由が脅かされている現在(ジョージ・タケイも2005年にゲイであることをカミングアウト)、まさに今読まれるべき本と言えよう。

■すずきたけし
ライター。ウェブマガジン『あさひてらす』で小説《16の書店主たちのはなし》。『偉人たちの温泉通信簿』挿画、『旅する本の雑誌』(本の雑誌社)『夢の本屋ガイド』(朝日出版)に寄稿。 元書店員。

■書籍情報
『〈敵〉と呼ばれても』
著者:ジョージ・タケイ
画:ハーモニー・ベッカー
訳:青柳伸子
出版社:作品社
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