『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』彩る音楽世界 言葉にならない感情も表現した、劇場版サントラ&ボーカルアルバムを聴いて
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現在公開中の『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のオリジナルサウンドトラック『VIOLET EVERGARDEN : Echo Through Eternity』、そして主人公・ヴァイオレット・エヴァーガーデンを演じる石川由依が歌うボーカルアルバム『Letters and Doll ~Looking back on the memories of Violet Evergarden~』がリリース&サブスク解禁された。京都アニメーションが手がけた精細な映像と胸を打つストーリーは、それを彩る美しく普遍的な音楽世界も話題となっている。
宝石のような透明度を持つ石川由依の歌声
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、暁佳奈の小説を原作に京都アニメーションが2018年にアニメ化。全13話が放送され、同作のBD/DVD第4巻には未放送の「Extra Episode」が収録されたほか、2019年には『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 – 永遠と自動手記人形 -』が劇場公開された(現在Netflixほかで配信中)。そして現在公開中の『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、シリーズのフィナーレとなる作品ということでも注目を集めている。
同作は、戦争で兵器として扱われ、戦うことしか知らなかった少女・ヴァイオレット・エヴァーガーデンが、自動手記人形と呼ばれる手紙の代筆屋として、さまざまな人と交流しながら愛を知っていく物語。豊かな色彩と繊細なタッチで描かれた、南北戦争後のアメリカを彷彿とさせる牧歌的な風景は、まるで絵画のような美しさだとアニメファンの間で大絶賛を浴びた。
その主人公・ヴァイオレット・エヴァーガーデンを演じる石川由依は、アニメ『進撃の巨人』のミカサ・アッカーマン、『けものフレンズ2』のキュルルなどを演じて知られる。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』では、芯のある凛とした声質ながら、無垢であるがゆえの危うさを孕んだ繊細な演技でファンの心を掴んだ。歌手としては、数多くのキャラクターソングを歌うほか、声優ユニットTrefleのメンバーとして2013年から約4年にわたって活動した。
石川が歌うボーカルアルバム『Letters and Doll ~Looking back on the memories of Violet Evergarden~』は、テレビシリーズのエピソードを元に各曲が制作された。「言葉の向こう」という曲では、第2話で人の言葉には裏表があることを知った、その時のヴァイオレットの気づきが、ピアノをメインとするしっとりとしたサウンドと共に歌われている。「月下の庭園で」は、第5話でヴァイオレットがドロッセル王国に出張に行った際のエピソードが歌われ、王女と王子の恋のときめきが、チェンバロのクラシカルな音色と共に、軽やかなポップス調のサウンドで表現されている。歌と共にテレビシリーズを追体験でき、歌詞を読むほどに印象に残るさまざまなシーンが脳裏に甦るだろう。
また同作のラストに収録されている「Dear Violet」は、石川自身が作詞、作曲・編曲をEvan Callが手がけた。テレビシリーズの最終話となる第13話では、ヴァイオレットが追い求めてきた、「愛している」という言葉の意味を少しだけ理解するシーンが描かれた。石川の詞と歌は、そんなヴァイオレットを新しい世界へとやさしく送り出すような、深い愛情が感じられる。美しく奏でられるピアノとストリングスに重なる、石川の歌声はまるで宝石のような透明度で、曲・歌詞・歌声のこれ以上ない三位一体を聴くことができる。
ヴァイオレットの言葉にならない感情も表現
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を彩る音楽は、実に特別なものであると感じさせる。その劇伴を手がけるEvan Callは、バークリー音楽大学映画音楽作曲科を卒業した才能の持ち主だ。アニメの音楽や声優への楽曲提供に止まらず、昨年公開された高橋一生と川口春奈のW主演映画『九月の恋と出会うまで』など、近年は実写作品も担当。また、今年12月25日公開予定の中川大志と清原果耶が声優としてW主演を果たす映画『ジョゼと虎と魚たち』も手がけている。
Evan Callの音楽は、美しく壮大なシンフォニックサウンドが特徴で、水樹奈々「アヴァロンの王冠」では、オーケストラとコーラスによる壮大なシンフォニックロックを聴かせた。シンフォニックメタルやオペラなども好み、オーケストラとコーラスを使った重厚なサウンドメイクは、アニメ音楽界においては他の追随を許さない存在だ。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、手紙というものを通して、人々のさまざまな思いを描き、主人公はその思いに触れることで成長していく。手紙に書かれる文字(言葉)が何よりも重要だが、語彙の少ないヴァイオレットは、しばしば言葉を詰まらせる。Evan Callの音楽は、単にシーンに合った音楽というだけでなく、そんなヴァイオレットの言葉にならない感情も表現してくれている。アルバムを聴き終えこみ上げてくるのは、劇中でヴァイオレットが感じたであろう、愛や慈しみといった気持ちだ。切なくて儚い、でも実に愛おしい気持ちが溢れてくる。
サウンドトラックのサブタイトルの『Echo Through Eternity』には、「永遠に響く」という意味がある。物語に込められた未来への希望や願いが、コロナ禍を生きる我々の心を癒やし、きっと聴く人の心に火を灯してくれる作品だろう。
■榑林史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。