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史上最速!公開10日で興行収入100億円を越えた『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』、歴史的大ヒットの要因を掘り下げる

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『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編鬼滅の刃』 (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

文:大高宏雄(映画ジャーナリスト)
ぴあアプリ版連載「大高宏雄 映画なぜなぜ産業学」から転載

10月25日、公開10日目で興収100億円を突破した。日本で公開された作品として、史上最速の達成だ。社会現象化していたアニメーション『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(以下、『鬼滅の刃』と表記)である。ここで改めて、興行について整理する必要にかられるが、その前に一つ言っておきたい。今回の歴史的な大ヒットに対して、前例のないほど取材を受けた当方が言うのも何だが、少し騒ぎ過ぎの印象も持ち始めている。メディアの反応が尋常ではないのだ。ただ、そうは言いながらも、興行的に具体的な数字を上げて記述しておくことは、公開2週目段階ではあるが、今後のためにも重要と考える。騒ぎ過ぎず(難しいが)、冷静かつ客観的に少し掘り下げてみよう。



まず、すでに広く知れ渡っている確認事項をしておく。スタート成績が歴代最高であった。公開初日の10月16日(金)から18日(日)までの3日間で、全国動員342万0493人・興収46億2311万7450円を記録した。上映館数は403で、スクリーン数は明らかではない。シネコンにより、スクリーン数は毎日変更される。国内のスクリーン数は3883(2019年)。どの時点で、どう計算するかは難しいが、相当な数のスクリーンを占めたことは間違いないだろう。記録に残す意味から、各日の成績も書いておこう。16日=91万0507人・12億6872万4700円、17日=127万0234人・17億0172万3350円、18日=123万9752人・16億5266万9400円である。金曜初日、平日、スタート3日間(土日含め)、すべて歴代新記録だった。

これを促したのが、各シネコンの常識を覆す上映回数の多さだ。都内・TOHOシネマズ新宿は初日(16日)、全スクリーン12のうち、11スクリーンを占める42回という記録的な上映回数を敷いた。何と、朝の7時台から上映が始まった。他のシネコンも、10数回、20回以上というところが目立った。ちなみに、都内・池袋地区では、前例のない4サイト(館)で上映され、この4サイトでの初日の全上映回数は90回近くになった。

ここまで各シネコンが回数を多くできたのは、コロナ禍における特殊事情が大きい。何本かの邦画の大ヒット作が、ほぼ興行を修了する時期であったこと。洋画の大作、話題作が相次いで公開延期になり、全国公開規模の作品が、『TENET テネット』(すでに日数を経ている)などを除いてなかったこと。このような背景のもと、シネコンは『鬼滅の刃』を多スクリーン、多上映回数という編成を比較的スムーズにすることができたのである。もちろん、同時期に公開されている作品は多い。コロナ禍ゆえにできた超拡大上映だったとはいえ、本来、もう少し上映回数があってよかった作品も、当然あったことだろう。その点は、指摘しておきたい。

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編鬼滅の刃』(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

注目は『千と千尋の神隠し』が持つ歴代興収1位(308億円)を越えるか、どうか

さて、このような歴史的なスタートを切って以降、早くも公開2週目を迎えた。冒頭の100億円突破の数字を具体的に言えば、25日時点で動員798万3442人・興収107億5423万2550円である。100億円突破のこれまでの最速記録は、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』がもっていた25日。15日も上回った。2週目(10月24、25日)の数字に驚愕した。動員が227万2836人・興収30億4144万8750円。これは、1週目の土日(10月17.18日)興収の90.7%だったのである。『鬼滅の刃』は、話題性が抜きん出ていたイベント・ムービーであり、普通のイベント・ムービーであるなら、最初に盛り上がり、2週目の数字は確実に落ちる。それが、ほとんど落ちなかった。これが驚愕の理由だ。イベント・ムービーにして、クォリティムービーという稀有な作品として立ち現れたと言っていい。邦画と洋画を合わせた国内の最終的な歴代興収トップは、『千と千尋の神隠し』(308億円)だが、この数字にどこまで迫るか、あるいは抜いてしまうのかに、これからの関心が移ったと言えようか。

映画興行とは、ある水準まで数字が伸びると、その先は未知の領域に入る。『千と千尋の神隠し』は、1年間の長きにわたる上映を通して歴代トップになったが、公開の1週間、2週間あたりでは、当事者でも最終的な興収は全く推定できなかった。『鬼滅の刃』も、その領域に入ってきたと言えるだろう。10月27日時点の推測を言えば、近い時期に動員1000万人に達成する。その時点で、興収140億円近いとみられる。それから先は、3週目(10月30日~11月1日)の成績いかんとなろう。3週目の時点で2週目のような落ちの少ない興行が展開できれば、『千と千尋の神隠し』のような未踏の領域に入りこんでいく可能性が、一段と高くなる。

コロナ禍における歴史的なメガヒットとして、興行史を超えて映画史に刻みつけられることだろう。内容面には一切触れず、今回は興行面のみ、その推移を追ってみた。長年、映画業界はじめ、映画館、各作品の興行をウォッチしてきたが、このような記述をしたのは初めてである。予想だが、今後の展開次第では、また新たな別の分析ができるかもしれない。

「興行は生きもの」との認識をもっている。生きものだから、息をしている。その息は、肉体と精神からほとばしる。『鬼滅の刃』。内と外に突出する切れ切れの鋭い刃のなかに、生きものの息吹が溢れ返っている。

プロフィール
大高 宏雄(おおたか・ひろお) 映画ジャーナリスト。1992年から独立系作品を中心とした日本映画を対象にした日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を主宰。キネマ旬報、毎日新聞、日刊ゲンダイ(デジタル)などで連載記事を執筆中。著書に『昭和の女優 官能・エロ映画の時代』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(鹿砦社)など。

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