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中孝介、最新作で挑んだ“海外ミュージックとシマ唄の融合” 「自由である感じがすごく通じるものがある」

音楽

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リアルサウンド

 平穏な未来を見通すことが難しい時代の中で、心を癒すように魂を諭すように、確かな希望の灯りをともしてくれる歌声がここにある。中孝介、1年半ぶりのニューアルバム『あなたがいるだけで』。15年前にリリースされたインディーズ盤『Materia』の全曲リマスタリングを軸に、オリジナル新曲と新録音カバーを加えた全13曲は、コロナ禍の今こそ強く響くメッセージを持つ新曲「新しい季節」をはじめ、カバーにはTHE BOOM「島唄」、安全地帯「悲しみにさよなら」、BUMP OF CHICKEN「花の名」など名曲がずらりと揃った。シマ唄の心をJ-POPの世界に持ち込み、前人未到の道を歩み続ける中孝介の原点と現在地が見渡せる、最高のアイテムがここにある。(宮本英夫)

シマ唄とブラックミュージックとの共通点

――まずは、「ステイホーム期間中はどんなふうに過ごしていましたか?」という質問から始めたいと思います。

中孝介:そうですね、ひたすら料理を作ってました(笑)。

――あはは。確かに、この期間に料理にハマった人は多いですね。

中:もともと自炊はするほうなんですけど。包丁さばきは上手になりました。

――歌の面、音楽の面はどうですか。

中:なるべくスタジオに入るようにはしていました。歌わなさすぎもやっぱり駄目なので。同じ歌手の知り合いに会うと、みんなそう言いますね。

――もう少し深い話をすると、コロナ禍の中での歌の存在意義とか、そういうことも考えたりしましたか。

中:そうですね。やっぱり、なくてはならないものだと思います。日常的に、気づいたら鼻歌を歌っているような人なので。電車の中でも、飛行機の中でも、自然と出ちゃうので、変な目で見られたりしますけど(笑)。なくてはならないですよね。

――世の中的に、音楽の優先順位が低く見られがちな時期だったので。アルバム制作の間も、いろんなことを考えたんだろうなと思います。

中:音楽は絶対に、なくてはならないものだと思いますね。音楽がない世界って、想像できないじゃないですか。自粛となったら真っ先に音楽が排除されがちですけど、確かに、なくなって生きてはいけるかもしれないですけど、心の支えというか、生きていく上でのバロメーターというか、ちょっとしたワンフレーズに励まされる瞬間とか、泣いてしまうとか、誰でも絶対にあると思いますし。

――中孝介の歌は、その力が特に強いと思います。そして今回のニューアルバム『あなたがいるだけで』、まず構成が面白いですね。オリジナルの新曲2曲、新録音カバー5曲、そしてインディーズ時代のミニアルバム『Materia』6曲を丸ごとリマスタリングして再収録した、全13曲。そもそも、どんなふうに始まったんですか。

中:インディーズ時代の『Materia』というアルバムから今年で15年ということもあって、その作品と今の自分の心境を合体させて出そうと思いましたね。あらためて聴き直すと、15年前の25歳の声と、今の声と、「こんなに変わったんだな」と思います。15年前はシマ唄しか歌っていなくて、初めてシマ唄ではない、いわゆるポップスというジャンルを歌いたいと思って歌いだした頃なんですけど、シマ唄は感情の起伏なく、のぺっと歌う感じなんですよ。民謡の場合、抑揚をつけちゃうとかえって違和感があるので。だから初めてポップスを歌うことになった時に、どう表現したらいいんだろう? ということがまったくわかっていなくて、それがまた逆に良かったりもするんですけど、のぺっと歌っているんだけど声が艶っぽくて、今聴くと「若いな」と思います。

――当時は、どんな気持ちで歌っていたんですか。

中:新しいことがやれる、ということがすごくうれしかったですね。それまでずっと民謡しか歌ってこなかったので、これから違う歌の世界に入っていけるんだ、ととてもワクワクしながら歌っていました。今でこそ民謡とか、三味線とか、邦楽系の人たちがたくさん活躍していますけど、2005、6年にこういうスタイルで歌を歌う人はそんなにいなかったと思います。その後はいろんな方々と一緒に歌ったり、聴いたり、お話ししたりして、感性がどんどん変わってきて、昔と今とでは歌い方が全然違う。歌の抑揚も、年をとるにつれてどんどん形成されてきたのかな? ということを感じます。

――僭越な感想ですけど、15年前の歌は「一生懸命」で、現在の歌は「自然体」という感じがします。

中:ああ、そうですね。歌詞に対して、メロディラインに対して、イメージがしっかり湧くようになりました。そこはガラッと変わりましたね。

――今の耳で聴いて面白いと思ったのは、マライア・キャリーのカバー「HERO」です。洋楽とシマ唄の融合という、新しい試みにチャレンジしている。

中:めちゃめちゃかっこいいブラックミュージックですけど、ある意味こういう人たちもシマ唄だと僕は思います。この人たちは、日によって歌のフレーズが変わったりするじゃないですか。シマ唄にもそれがあるんですよね。今日はこういう気分だからこの歌詞で歌おうとか、メロディラインを多少崩して歌ったりとか、自由である感じがすごく通じるものがあると思っていて、当時はシマ唄と同じようにかっこいい音楽だなと思って聴いていましたね。マライア・キャリー、ホイットニー・ヒューストン、スティービー・ワンダーとかを。当時は日本でもブラック系の歌を歌う人がいて、宇多田ヒカルさんとか、「日本語でこういう表現ができるんだ」って、すごい衝撃的でした。その前から久保田利伸さん、平井堅さんとか、ああいう人たちにはすごく感化されていました。

――山崎まさよし「HOME」のカバーも入っていますけど、彼もブラックというか、ブルースのルーツがある人です。

中:曲の作り方が、もろにそうですよね。日本語でそういうことができる人たちがすごく魅力的で、刺激をもらっていました。

「日本人にしかできないものを大事にしていきたい」

――この『Materia』というアルバムは、中孝介の民謡からポップスへの第一歩であり、その後の進化の原点になった作品だと思います。

中:日本人にしかできないものを大事にしていきたいなということを、この世界に入ってからは思うようになったので、あらためて、日本人だからやれることを今後もやっていきたいなと思います。歌詞で言うと、直接的な言葉ではなく、何かに例えて、聴けば聴くほど大事なことがどんどん自分に近づいてくるような、ゆっくり諭していくというか、そういうことを大事にしていきたいなと思いますね。

――それは今回選ばれた、新録音のカバーにもよく出ていると思います。BUMP OF CHICKEN「花の名」も、比喩をうまく使った歌詞ですし。

中:この曲は素晴らしいですね。僕自身も「花」という曲を歌っていますけど、別の切り口の花の歌で、でも言っていることは同じで、「あなたしかいない」「あなたがいるから僕がいる」ということだと思います。直接的な言葉ではなく、押し付ける歌詞じゃないので、すごく共感しましたし、いつか歌ってみたいなと思っていた曲です。

――この曲はアレンジも素敵で、ゴスペルっぽいピアノが入っていたり。

中:黒木千波留さんという方に弾いてもらっているんですが、かれこれ15年以上の付き合いで、僕がまだシマ唄を歌っていた頃から一緒に演奏していたので、僕の歌をよくわかってくれている。今回はたくさん黒木さんにアレンジしていただきました。

――安全地帯「悲しみにさよなら」はどうですか。

中:玉置浩二さんみたいに歌えたらいいなといつも思います。玉置さんは、年々すごくなっていると思いますね。当時から大好きな曲だったんですけど、そこに近づけるというよりは、自分にできることをやろうと思って、今回この曲を選ばさせてもらいました。

――そして奄美大島の新民謡と呼ばれる「奄美小唄」もカバーしていますね。

中:シマ唄とは別に、奄美の新民謡というジャンルがあるんです。奄美風演歌という扱いですね。田端義夫さんが歌ってらっしゃったオリジナルはもろに演歌風アレンジなんですけど。

――今回は、ピアノとバイオリンでスタイリッシュに仕上げています。

中:これは奄美の人にぜひ聴いてもらいたいですね。こういう切り口のアレンジがあるんだって、ぜひ知ってもらいたい。この曲は、運動会の時に踊ったりする曲なんですよ。このカバーは踊る感じではないですけど(笑)。

――そうかと思うと、サン・サーンスの「白鳥」のメロディを使った「寒月」のようなクラシック調の曲もある。幅がすごいです。これはどんなふうに?

中:これは同じ事務所のLE VELVETSのカバーなんですけど、ピアニストの角野隼斗さんというすごいピアノを弾く子がいて、彼と一緒にできることになって、この曲をやってみようと思いました。僕もクラシックピアノをやっていたんですけど、クラシックの歌はやったことがなくて、今回カバーさせてもらって、クラシックの人たちってこんなにすごい歌を歌っているんだなって、あらためて思いましたね。クラシックも、西洋音楽のシマ唄的なものだと思っているんですけど、また全然違う世界を見せてもらいました。この曲はぜひ、ピアノの演奏にも注目してほしいです。ダイナミクスのつけかたが尋常じゃなくて、ピアノと一緒に録音すると、演奏を聴いちゃうんですよ。それで歌詞が飛んじゃって(笑)。こんなふうに自由に弾けたら、すごく気持ちいいんだろうなと思いました。

――そしてTHE BOOMの「島唄」。あまりに有名すぎる曲ですけど、カバーするのは初めてなんですね。

中:コンサートではやっていましたけど、録音は初めてですね。この曲はたぶん中学に入ってすぐぐらいに出たのかな。8センチシングルを買って、歌を練習していました。当時は歌詞の意味も全然考えずに歌っていましたけど、この曲は反戦歌ですよね。「二度と同じ過ちを犯してはいけない」ということを、宮沢(和史)さんのコンサートに初めて行かせていただいて、じかに聴いて、すごいなとあらためて思いました。それと、この「島唄」と奄美で言う「シマ唄」では意味がちょっと違っていて、奄美の島唄は「シマ唄」と書くんですよ。それはなぜかというと、「アイランドソング」という全体のことをシマと言うのではなくて、自分の生まれた村のことをシマと言うので。山一つ越えるとメロディが違っていたり、方言が違っていたり、大きく分けると北と南の歌のスタイルがあるんです。面白いのは、地形とすごく似ているんですよ。北部のほうは平地が多くて、南部は山の起伏が激しくて、歌のスタイルもそうなんです。北の人の歌を聴くと、なだらかに歌う感じなんですけど、南の人が歌うと、同じ曲でもアップダウンが激しいので、歌を聴くとどこの人かすぐわかる。僕は南部の歌のスタイルですね。

――THE BOOMの「島唄」は、もっと大きな概念ですよね。

中:そうですね。もともと島唄というのは奄美民謡のことで、沖縄の人はただの民謡か、ウチナー民謡か、そういうふうに言っていたのを、奄美と沖縄の歌い手が交流を持つようになってから、「島唄という表現はいいね」ということで、沖縄でも使うようになった。そしてTHE BOOMの「島唄」が大ヒットしたことで、島唄という言葉が一気に全国に定着したんですよね。

――あらためて今、みなさんに聴いてほしい曲、歌詞だと思います。どんな世代にも響く歌詞とメロディだと思うので。

中:今回、奄美の三味線で沖縄の島唄を弾いているんですよ。沖縄の三線とはちょっと音色が違って、奄美の三味線とはバチが違うんです。奄美では竹の皮を割いて削って作るのが本来のバチで、沖縄だと水牛の角とか、自分の爪で弾く人もいます。そして沖縄の三線は爪弾く感じなんですけど、奄美の三味線はバチを当てるアタック音が強くて、そこは津軽三味線に似ているんです。

――ああー。確かに。

中:そこが奄美と沖縄の違いなんですね。音階も違うんです。だから奄美の人と沖縄の人が一緒にやろうとすると難しいんですよ。今回は奄美の三味線で沖縄の音階を弾いているので、沖縄の人からすると「邪道だ」と言われちゃうかもしれない(笑)。

――いやいや。すごく平和的なチャレンジだと思います。そして、今回オリジナルの新曲が2曲ありますね。一つが、アルバムの冒頭を飾るバラード「新しい季節」です。これはどんなふうに?

中:これは、愛する人と一緒に歩んでいきたいんだけどもそれが叶わないという、切ない思いを持ちつつ、これから見えてくる新しい明日へ一歩踏み出そうという曲です。同じように一歩踏み出そうという気持ちに、聴く人がなってもらえたらいいなと思います。

――恋愛の曲でもあり、今の世の中を歌った歌だとも思います。

中:ああ、そうですね。まだ闇は続いていて、年が明けて来年になっても、いつ平常に戻るかは誰にもわからないので。でも、止まない雨はないですし、明けない夜はないですし、絶対に良くなることを僕自身も信じて、少しでも歌える場所があれば歌っていきたいなと思いますね。

――〈全てを受け入れて進むのさ〉という歌詞は、そういう決意だと感じます。もう一つの新曲、アルバムタイトルにもなった「あなたがいるだけで」はどうですか。

中:これは、歌謡曲好きの僕としては、本当に素敵な曲に巡り合えたと思いましたね。作曲のジオさん(Gioacchino Maurici)はイタリア系フランス人で、セリーヌ・ディオンにも楽曲提供をしている人ですけど、なんでこんなに日本人の心がわかるんだろう? と。ジプシーの楽曲の雰囲気ですけど、日本の歌謡曲にも聴こえてしまう、こういうマイナー調の曲を歌うのが一番好きなんです。明るいだけではなく、闇があるほうが、歌っていてしっくりくるんです。最初は暗いけど、「でも未来がある」みたいな。

――〈見えない未来に 一歩踏み出す〉という歌詞が印象的です。

中:そうなんです。ネガティブな気持ちになることは誰にでもあって、“沈むこともあるけど、暗いけど小さな光が見えてくる”という世界観が好きなので、そういう歌をもっと歌っていきたいですね。歌詞の中で「スマホ」とか「LINE」とか、初めて歌いましたけど、最初は違和感があって。でも実際に使わない人はほとんどいないじゃないですか。ましてやコロナ禍になって、それがより大事なツールになったと考えると、しっくり来る歌詞だなと思うようになりましたね。

――こうして15年の時を超えて、一つの作品にまとめられた曲たちを聴くと、その間に変わったことと変わらないこと、両方が見えてくるような気がします。

中:そうですね。15年前に「LINE」とかなかったですし(笑)。それと、僕は基本的に詞曲を書かないスタイルを貫き通しているんですけど、自分にはその裁量がないというか、自分がこうだろうああだろうと言うよりは、誰かが伝えたいなと思ったことを俯瞰から見て伝えていきたいということを、大事にしたいと思っているんですね。なぜそう思うようになったかというと、ここに入っている「家路」という曲をプロデュースしてくれた羽毛田丈史さんがおっしゃってくれた、「あなたは歌う伝道者だ」という言葉がすごくうれしかったからなんです。だから今後もそれを貫き通していきたいと思います。

――それが15年間ずっと変わらない、中孝介の歌い手としての哲学。

中:本当は詞曲を書いたほうが、いろんな意味でプラスになるんでしょうけど、そんなに多くを求めないという感じです。元レベッカのNOKKOさんに詞曲を書いていただいたことがあって、その時に「今どきシンガーだけでやっていくって潔いですね」と言ってもらえたのも、すごくうれしかったですね。

――思いを伝える伝道者だからこそ、中孝介の歌はいろんな世代に普遍的に響くんだと思います。

中:そうかもしれない。普遍的なものをやっていきたいんです。

――このあとは、久しぶりにお客さんを入れたコンサートで、アルバムの曲たちを体感したいです。『中孝介コンサート2020 あなたがいるだけで』は、12月に名古屋、京都、東京の3公演が予定されていますね。

中:いろんな制約があると思いますけど、その中でも精一杯歌いたいと思います。ぜひ来ていただきたいと思います。

■リリース情報
『あなたがいるだけで』
10月28日(水)¥3,300(税込)
1.新しい季節
2.悲しみにさよなら
3.花の名
4.あなたがいるだけで
5.奄美小唄
6.家路
7.すべてに意味をくれるもの
8.HERO
9.moontai
10.砂の城
11.Home
12.寒月
13.島唄
2005年「Materia」リマスター楽曲(M6〜M11)

■ライブ情報
『中孝介コンサート2020 あなたがいるだけで』
2020年12月5日(土)
開場18:00/開演19:00
名古屋・三井住友海上しらかわホール
料金:全席指定 ¥7,000(税込)※未就学児入場不可
お問い合わせ先:キョードー東海 052-972-7466

2020年12月17日(木)開場17:30/開演18:30
京都・ロームシアター京都サウスホール
料金:全席指定 ¥7,000(税込)※未就学児入場不可
お問い合わせ先:BSフジイベント event@bsfuji.co.jp

2020年12月20日(日)開場15:15/開演16:00
東京・日本橋三井ホール
料金:全席指定 ¥7,000(税込)※未就学児入場不可
お問い合わせ先:ホットスタッフ・プロモーション 03-5720-9999

■関連リンク
中 孝介オフィシャルサイト