ChouChoが語る、『灰色のサーガ』に込めた前向きな気持ち 「今まで以上に寄り添える楽曲を作っていけたら」
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ChouChoがニューシングル『灰色のサーガ』をリリース。表題曲はアニメ『魔女の旅々』(AT-Xほか)のエンディングテーマで、異国情緒あふれるスケールの大きな雰囲気のなかに、変拍子や民族楽器を取り入れるなど様々なアイデアが込められ、彼女らしい一筋縄ではいかない楽曲に仕上がった。またカップリング曲「hide and seek」には、自粛期間中に感じたファンへの思いが、新たな挑戦と共に歌われており、彼女の歌詞やサウンドに向けた情熱が感じられる。自ら作詞作曲も手がけるChouChoの制作におけるこだわりと、自粛期間に感じた思いを語ってもらった。(榑林史章)
魔女の呪文も取り入れたミステリアスな楽曲
ーー今回の「灰色のサーガ」は、アニメ『魔女の旅々』のエンディングテーマですが、アニメタイアップで気をつけているのは?
ChouCho:アニメ作品の世界観や雰囲気を、大切にすることを心がけています。今回は魔女の女の子が主人公でファンタジー感あふれる世界観なので、青春ものアニメを手がける時とは違ったスケールの大きさ、ファンタジーならではの広がりみたいなものを、サウンドからも感じてもらえたら良いなと思って作りました。
ーー具体的には、どういうところに表れていますか?
ChouCho:たくさんの種類の楽器を重ねていて、世界観というところで民族的な音もたくさん入っています。あと魔女という存在のミステリアスな感じを表現するのに変拍子を使っていて、基本的には8分の6拍子なんですけど、イントロとBメロなどで8分の5拍子が出てきます。
ーー拍子が途中で変わると、歌いづらかったりしないですか?
ChouCho:それが、意外とすんなり歌えるんです。きっと自分で作曲しているからだと思います。鼻歌で作っている時は拍子を気にしないで作っているので、それがあたかも当然かのように自然と歌えます。みなさんがカラオケで歌おうとすると難しいかもしれませんが、そこは何度も聴き込んで挑戦してもらえたらうれしいです。
ーー今回作詞だけでなく作曲もされていて。曲先ですか?
ChouCho:私が作る場合は、それが多いですね。最初は鼻歌を歌いながら頭で考えて、その鼻歌をスマホのボイスメモにどんどん溜めていって。良いなと思うメロディが浮かんだら、それを聴きながらキーボードでコードを付けて、それをパソコンに落とし込んでいくという流れです。
ーー今回はアニメ側から、明るすぎず暗すぎずというオーダーがあったそうですね。
ChouCho:はい。先ほどお話しした通りお話のテイストが様々で、放送回によって明るかったりダークだったりして、毎回いろいろな気持ちになると思うんです。その流れでエンディングテーマが流れるので、どの回で流れても違和感のない楽曲にしたいと思って作りました。
ーー明るさと暗さというのは、単純にメジャーコードとマイナーコードと言い換えることができると思いますが、それが1曲に混在しているという。
ChouCho:そうですね。この楽曲はすごくわかりやすくて、Aメロの1回し目がマイナーコードで、2回し目が同じメロディだけど、メジャーコードになっているんです。作品の持っている両面性みたいなものが、こういうところでわかりやすく表現しています。
ーー楽器もいろいろな種類を使ったと。
ChouCho:シタールとかマンドリンとか、イントロからいきなり使っていて。そういう民族楽器の音によって、異国情緒を感じてもらえるように狙いました。アニメの舞台が美しい自然のある世界観で、そこを旅するということで、レコーディングの時にどんどん重ねてもらいました。
ーーシタールとマンドリンは生で?
ChouCho:生で弾いてもらいました。いつもライブなどでギターを弾いてもらっている、ギタリストの佐々木“コジロー”貴之さんに弾いてもらいました。とても器用な方で、ギター以外も演奏できてしまうんです。
ーーでもメインはピアノの音で。
ChouCho:ピアノの雰囲気は、最初から頭のなかで構想していました。ピアノの音はバンドやストリングス、民族楽器などどんな音とも合うし、自分の声との相性がすごく良くて。それで自分のアコースティックライブでは、グランドピアノを入れています。私の楽曲には欠かせない楽器のひとつです。
ーーあと、この曲のポイントとして、コーラスをたくさん重ねているところも重要ですね。
ChouCho:そうですね。コーラスを重ねることで、世界観の広がりとか空気感を表現しました。特に間奏はすごくたくさん重ねていて、ウーアー系のコーラスをウィスパーボイスで歌っています。
ーー間奏では、ベースのソロが出てくる。普通はピアノやギターのソロを選びそうですが、ベースなのが意外で印象に残りました。
ChouCho:そこだけ急に雲が晴れたかのようなイメージになるので、私も好きなところです。音数が少なくなって、すごくベースが引き立っていて。ベースのアイデアは、編曲をしてくださった村山☆潤さんからの提案です。
ーーコーラスは英語っぽいですけど、何と歌っているんですか?
ChouCho:魔女のお話なので、そこは呪文的な感じを入れたいなと思って。英語ですけど、特に意味はないんです。聴いた時の語感で、耳障りが良くて音にハマる英単語を選んで歌っていて。だから、歌詞カードにも表記していないんです。
ーー歌詞は、シナリオを読んで感じたことにChouChoさん自身の気持ちも重ねながら書いている。ここに込めた、いちばん感じ取ってほしいメッセージは何ですか?
ChouCho:楽曲はミステリアスな部分がありますけど、歌詞はけっこう普遍的で前向きなことを歌っています。いろいろな国を旅する主人公の魔女・イレイナについて書いてはいますけど、この旅というのは人生の旅にも置き換えられるわけで、〈出会い 学び 選ぶ道で〉という歌詞も、誰もが経験することだと思います。何か具体的なメッセージを込めているわけではありませんが、何となくでいいので前向きなものを感じ取っていただけたらうれしいです。
もっと知りたいと思う奥深い作詞の世界
ーーイレイナは幼いころに読んだ本から影響を受けて、魔女になって旅をしますよね。イレイナのその一冊の本のような、ChouChoさんにとって原点となるものは何ですか?
ChouCho:すごく印象に残っているのは、アラニス・モリセットが1995年にリリースした「You Oughta Know」という曲です。『MTVアンプラグド』という番組でそれを歌っている映像を見たことがきっかけで、アラニス・モリセットが好きになりました。『MTVアンプラグド』のライブ映像が本当に素晴らしくて、いつか自分もこんなライブがしたいと思うようになって。その憧れが今も続いていて、実際にアコースティックライブを定期的に開催していますし、私にとってはとても大きなきっかけの曲ですね。
ーーそれを見たのはいつぐらいですか?
ChouCho:学生の時です。当時はロックバンドを組んで、学園祭に出たりしていて。そんな時にその映像を見て、「こういうサウンドもあるんだ」と知って。当時はまだ学生だったし、音楽の知識もまだそんなになかったんですけど、アコースティックの空気感に惹かれて「良いな」って。
ーーアコースティックは歌が引き立って、その人の根源にある音楽性が浮き彫りになるような感じがありますね。
ChouCho:はい。自分は歌が好きなので、たぶんその時も歌にフォーカスして見ていたと思います。歌がより魅力的に聴こえるのは、アコースティックならではの良さだなって思います。
ーーChouChoさんは、定期的にアコースティックライブをやって、アコースティックアルバムも出しています。憧れていたアコースティックサウンドを、今こうして体現できていることについてはどう思いますか?
ChouCho:すごくありがたいことだと思います。でも当時の自分からは想像もつかなかったことなので、やっぱり不思議な感覚もありますね。でもまだまだ理想には届いていないので、もっともっと磨いていきたいなと思います。
ーーアラニス・モリセットの『MTVアンプラグド』が理想型?
ChouCho:理想ではあるけど、最初のインパクトがとても大きなものだったので、それを越えることはできないでしょうね。でもずっと大好きなサウンドですし、その理想を追い求めていくと思います。
ーー歌詞に〈ただ「知りたい」から〉というフレーズも。ChouChoさんが今知りたいことや好奇心を持っていることは?
ChouCho:今は作曲も作詞もやらせていただいていますが、意外と作詞のほうが難しく、奥が深いなと思っています。すごく言葉に迷ってしまうことが多いんです。今回の「灰色のサーガ」はわりとすんなり書けたほうですけど、カップリング曲「hide and seek」も作詞作曲をしているのですが、こちらは作詞にすごく時間がかかってしまって。なので知りたいと言うか、もっとたくさん歌詞を書いて、作詞の能力をどんどん上げていきたいなと思っています。
ーー作詞の能力を上げるのに一番なのは、たくさん書くこと?
ChouCho:そうだと思います。作詞に関してはすでに相当数を書いてはいるんですけどね。それでもまだまだだなと感じます。アニメタイアップ曲で、作品の世界観を上手に表現できたと思う時はあるんですけど、やはりプロの作詞家の方が書くよりも時間がかかりますし、まだまだ成長段階だなと思っていて。
ーー作詞家で好きな人や憧れるような人はいますか?
ChouCho:作詞家さんというよりは、自分で作詞をされているアーティストさんですね。好きな歌詞は、やっぱりアーティストさんが書かれたものが多いです。たとえば松任谷由実さんは、いつ読んでもすごいと思うし、自分が作詞をする上での勉強にもなります。あとバンドをやっていた時代に椎名林檎さんの曲をよくコピーしていて、林檎さんの歌詞もすごいなって。そもそも視点が違うなと思うので、マネできない独自の世界観を持っています。そういうみなさんの曲を聴いたり歌詞を読んだりすると、作詞には人生の経験値もやっぱり必要だなと思います。いろんなことを経験することが大事だなって。
ーー経験を重ねるごとにより深みが出るということですね。
ChouCho:そうですね。書けば書くほど成長しているなと、自分でも実感します。もちろんその時に書くからこその感性や良さもあるのですが、それを前提にしたうえで最初のころに書いた歌詞よりも、最近書いた歌詞のほうが、自分では良い歌詞が書けていると思います。書けば書いたぶんだけ返ってくるので、その点でもやりがいを感じますね。
ーー自分に期待が持てるし、だからもっと知りたいと思う。
ChouCho:書いている時は、大変なんですけどね(笑)。
ーー次にカップリング曲の「hide and seek」ですが、これはサウンド的に、今までやっていなかったものにチャレンジしていますね。
ChouCho:はい。カップリング曲はタイアップがないので、毎回新しいことにチャレンジしています。今回は、R&Bっぽいサウンドで言葉数が多いメロを作ったことがなかったので、作ろうと思いました。R&B系は楽曲提供でいくつか歌ってはいるんですけど、それでもすごく少ないので。
ーーR&Bを聴いて研究して?
ChouCho:そうですね。今どんなR&Bが流行っているのか、主流なのか勉強して作りました。でもR&Bにくくられていても、サウンド感はすごくいろいろなので、難しいジャンルだなって思いました。
ーービートが独特で、R&Bはビートとかドラムの音に今っぽさが表れますよね。
ChouCho:確かにそうなんです。なのでそこは、アレンジャーの村山さんが、こだわって作ってくれました。メロが細かいので、ビートはタイトでクールにしたいと思っていて、私からはそういう方向性を示したみたいな感じで、細かい音色についてはおまかせしました。
インスタライブはニコニコ動画時代を思い出した
ーーファンの反応も楽しみですね。
ChouCho:けっこう苦労して作ったので、たくさん聴いてほしいです。声をサンプリングして楽器のひとつのように使っていて、それも初めての試みだったので、自分でも面白いものができたなって。それに、歌詞もすごく悩んで書いたので。自粛期間中にファンのみなさんとなかなか会えなくて、物理的に距離が離れてしまったことに対しての思いが強かったから、それを歌詞にしようと思って。
ーー自粛期間でいちばん辛かったのは、ファンの人と会えなかったこと?
ChouCho:やっぱり心のなかをいちばん占めていた思いだったので、そういう言葉が自然と歌詞に表れて。〈会えなかったら 生きる意味も無いし〉とか〈自分のためには歌えない〉とか。ファンの方には、そういう私の思いが伝わったらうれしいですし、フラットに聴いた場合でもいろいろな意味に受け取れるように書いていて、恋愛の歌詞にも見えますし。偏り過ぎないように心がけて書いています。
ーー歌詞に時間がかかったのは、いちばんはどういう部分ですか?
ChouCho:いろいろな意味を含ませられる言葉を選んだのもそうですし、普段作る曲とはメロディのリズム感がちょっと違って、音数も多いので。なおかつ音とのハマりがすごく重要な曲かなと思って。リズムにしっかり乗っているメロディなので、歌詞でそのリズムを崩したくなくて。だから言いたいことはたくさんあるんだけど、リズムにハマっていないと意味がないので、そこがいちばん苦労しました。この独特のメロディが生きて、なおかつ言いたいことも言えるようにする。語感が重要で、いちばん良い言葉を探すのに苦労しました。
ーー自粛期間に作ったということで、自粛期間に入っていちばん最初はどう思いましたか?
ChouCho:今までの世界って、なんて幸せだったんだろうって思いました。普通にライブができて友達と会うとか、当たり前にやっていたことが、急に当たり前ではなくなって。なんて幸せな世界で、私たちは生きていたんだろうって。怖くも感じたし、不安も渦巻いていました。
ーーどういう部分で不安や怖さを?
ChouCho:見えない恐怖という感じで、それがすごく怖かったです。情報も最初のころはすごく曖昧で、どれくらい危険なのかもわからなかったし。それに東京はすごく危ないという話だったから、外に出ることが本当に怖かった。マスクの効果も最初はいろんな意見があって、買い占めもあったし。
ーーそういうなかで、どうやって平静を保っていましたか?
ChouCho:コロナ禍になるちょっと前に、猫を飼い始めたので、猫に癒やしてもらっていました(笑)。マンチカンという足が短い種類で、ほたるちゃんという名前の女の子です。人と会えなかったぶん、生き物と触れ合うだけでも、かなりの癒やしをもらっていたと思います。あとは、ゲームが好きなのでゲームをやっていました。これも動物なんですけど、『あつまれ どうぶつの森』にも癒やされました。自粛期間中にすごく流行っていたじゃないですか。リアルでは外に出られなかったので、『どうぶつの森』でほかの人の島を見に行ったり、お出かけしていました。でもそのあと、すぐ飽きちゃったんですけど(笑)。
ーー2〜3カ月しか、もたなかったんですか(笑)
ChouCho:でも自粛期間中は毎日の日課になっていて、木を揺すって果物をゲットしたり魚を釣って売ったりするのが、毎日の楽しみでした。外に出られない不安やストレスがあったなかで、そのなかの世界はすごく平和で。私はゲームでしたけど、人によってはアニメだったりドラマや映画などをネットでたくさん見たという話も聞きますし、その一瞬だけは平和な日常へと気持ちを引き戻してくれるのが、こういうエンタメ作品の力だなって。
ーーゲームやアニメは非日常を楽しむものだったけど、リアルの日常が非日常になったことで、ゲームやアニメが日常を取り戻させてくれるものになったのは、面白い現象だなと思いました。
ChouCho:そうですね。その時は幸せな世界を取り戻せるというか。『どうぶつの森』のなかで結婚式をあげたカップルもいたとニュースで聞きましたし。どっちが現実でどっちがリアルなのかわからない、そういう不思議な感覚の時期でした。
ーーそういう時期を乗り越えた今、ChouChoさんが携わるアニソンやアニメの世界、音楽の存在意義についてどう思いますか?
ChouCho:リモートでの仕事のスタイルが一般的になったことで、おうちにいる時間がすごく増えて。そういう時に、心に寄り添ってくれるアニメやアニメソングって、今まで以上にみんなのなかで大きな存在になっているんじゃないかって思います。だからこそ作る側の意識の持ち方も大切で、今まで以上に聴いてくれる方の心に寄り添える楽曲を作っていけたらと思います。先ほどお話ししたように、当たり前のことが当たり前じゃないと気づいたのは音楽に対してもそうで、CDをリリースさせてもらえることや聴いてもらえることが、当たり前という時代ではなくなっている。そのことで、自分のなかで音楽の存在が、今まで以上に大きなものになったと感じています。聴いてくれる人、応援してくれる人に、会いたいという気持ちがもっともっと強くなりました。だからライブで、前みたいに会えるようになる日がくることを楽しみに待っています。
ーーChouChoさんはインスタライブもやっていましたが、ネットを介してのファンとの交流はどう感じていますか?
ChouCho:技術が進歩していて本当に良かったと思います。ネットがなければ何も発信することができなかったから、発信できる場があったのは救いでしたね。それに私はデビュー前にニコニコ動画で活動していた時代があって、インスタライブは新鮮さもありましたけど、ニコニコ生放送をやっていた時の経験とリンクする部分がたくさんあって、少し懐かしい感覚もありました。リアルタイムでコメントをいただけると目の前にみんながいて直接会話しているようで楽しかったですし、配信したあとはとても幸せな気持ちになりました。猫がいてゲームも楽しいけど、やっぱり直接の会話は孤独を忘れさせてくれます。
ーーいずれは配信ライブも考えていますか?
ChouCho:普通のアコースティックライブを生配信したことはありますけど、無観客ライブを配信するのはやったことがないので、ちょっと想像が付かないですけど……。このまま普通のライブができない状況が続けば、それも考えたいと思います。でも、できればお客さんと直接顔を合わせる、普通のライブをやりたいのが本音です。
■リリース情報
「灰色のサーガ」
発売:2020年10月28日(水)
TVアニメ『魔女の旅々』エンディングテーマ
価 格:¥1,200(税抜)