愛猫の最期を看取るために……飼い主だからこそできる「ターミナルケア」とは?
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筆者を猫好きの道に引きずり込んだ愛猫が、今年8歳になった。ツヤツヤしていた被毛に目立つようになった、白い毛。それが年々増えていくたび、一緒に過ごしてきたこれまでを尊く感じると共に、あとどのくらい同じ時を刻めるのだろうかと、どうしても思ってしまう。
かけがえのない存在が老い、生よりも死に向かうようになったら、医療に明るくない私たち飼い主にはなにができるのだろうか。
そんな不安に寄り添ってくれたのが、『まんがで読む はじめての猫のターミナルケア・看取り』(猫びより編集部:著/古山範子:監修/西村知美:監修・編集/ななおん:絵/小野崎理香:絵/日東書院本社)。看取り本というと、医療ガイドやハウツー本であることが多い。しかし、本作には飼い主だからこそしてあげられるターミナルケアが漫画で描かれている。
長年共に暮らしてきた愛猫がリンパ腫になって……
主人公の鈴木は「もすけ」というオス猫と、14年間共に暮らしてきた。もすけはリンパ腫患い、完治が難しい状態。病気が発覚した時、鈴木は絶望したが、生きることに前向きなもすけの姿に励まされ、抗がん剤治療や投薬を行い、共に病気と闘う決意を固めた。
そんな時出会ったのが、ボランティアで猫の保護活動をしているダリヤさん。彼女は、獣医師とはまた違ったアプローチで猫のケアに精通していた。
鈴木はダリヤさんの力も借りつつ、もすけの生活環境を見直したり、投薬や食事選びに悪戦苦闘したりする。この奮闘記には、シニア&老猫との生活に役立つ知恵がたくさん描かれており、学ばされることも多い。
その後、鈴木の頑張りが功を奏したのか、もすけの腫瘍は小さくなった。もしかして、奇跡が起こるかも……。鈴木はそう思ったが、現実は甘くない。
抗がん剤治療を始めて1カ月が経つと、もすけの体には副作用が表れ始め、いつしか帰宅後のお迎えもできなくなった。獣医師から聞かされたのは抗がん剤が効きにくくなっていることや、腫瘍が大きくなっているという悲しい事実。治療の選択を迫られた鈴木は、積極的な治療を一旦やめ、緩和ケアを選ぶことに。有休を使って、もすけのケアに全力を注ぐことにした。
結論を言ってしまえば、病気が突然治るなどの奇跡的な回復は起こらず、もすけは天国へ旅立ってしまう。こうした点が現実に近いからこそ、本作はより心に刺さる。成す術がもうない時、自分は飼い主としてどんな選択をすべきなのかと考えさせられるのだ。
愛猫の命が消えそうな時、私たち飼い主は重大な選択を余儀なくされる。命の全権が自分にゆだねられているように感じるから、ひとつひとつの判断を振り返っては「正解だったのだろうか」と考えては後悔したり、苦しくなったりすることもあるだろう。
だが、私たち飼い主には命を助けることよりも、もっと重視すべきターミナルケアがあるのではないだろうか。それは、「間違えることのないように愛猫の死を見届けること」だ。この場合の間違いとは、どんな治療を選び、どんな結果になったかではない。飼い主としての責任を放棄しないことだ。
愛猫は何が好きで、何が苦手か。どんな時に喜び、怒るのか。それを1番よく知っているのは、飼い主である私たち。そんな飼い主から最期まで愛情を注いでもらえたら、愛猫も安心して老い、“その時”を迎えられる。
命を紡ぐための投薬や治療はもちろん大切だ。だが、愛猫の気持ちを鑑み、寄り添うという飼い主にしかできないターミナルケアはより大切なように思う。いつもの声で名前を呼び、笑顔を向けてくれ、ぬくもりも感じられる。それはもしかしたら、愛猫にとって一番嬉しいターミナルケアだと言えるのかもしれない。
なお、本作には獣医師や猫先輩によるコラムも収録されており、そちらも心強い味方となってくれる。火葬やペットロスの乗り越え方など、「死の先」にも触れているため、ただ「悲しい物語」ではなく、飼い主が前を向くための看取り本であるともいえる。
あの子は、どんな最期を望むだろうかーー。そう考えてみると、無力なように思えた自分にしかしてあげられないターミナルケアが見えてきそうだ。
■古川諭香
1990年生まれ。岐阜県出身。主にwebメディアで活動するフリーライター。「ダ・ヴィンチニュース」で書評を執筆。猫に関する記事を多く執筆しており、『バズにゃん』(KADOKAWA)を共著。
■書籍情報
『まんがで読む はじめての猫のターミナルケア・看取り』
著者:猫びより編集部
全体監修:古山範子
医療指導:西村知美
ケア指導:武原淑子
まんが:ななおん
イラスト:小野崎理香
構成:粟田佳織
出版社:日東書院本社
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