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Netflixオリジナル、良作でも打ち切りのワケ 背景には“3つの指標”とテック企業としての野心が

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リアルサウンド

 劇場公開の大作が軒並み延期となり、アメリカにおいて一部の映画は動画配信サービスでの公開となって数カ月。映画が動画配信サービスへ移行し、パイオニアであるNetflixにはさらなる追い風だと思われて久しい2020年は、Netflixオリジナル作品のファンにとって悲しいニュースが続いている1年でもある。直近ではデヴィッド・フィンチャー監督自ら手がけたドラマ『マインドハンター』の新シーズンキャンセルを示唆。SNSはファンたちの悲しみの声で溢れた。それ以外にもこの数カ月で、エミー賞ノミネートの『GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』『ダーククリスタル:エイジ・オブ・レジスタンス』『ハサン・ミンハジ:愛国者として物申す』、ファン層の厚い『オルタード・カーボン』『ノット・オーケー』など数多くの作品がシーズン打ち切りを発表された。一部はコロナ禍における撮影の困難から打ち切りとなっているが、それを除いてもほとんどの作品が決して駄作ではなくむしろ素晴らしいにも関わらず、なぜ打ち切りとなってしまったのか。改めて紐解いて行きたい。

人気があるように見えても打ち切られるのはなぜか

 Netflixのオリジナル作品の打ち切りは今回に限らず、これまでも毎年多くの作品でその判断は下されてきた。打ち切られた作品のほとんどは、クリフハンガーで終わっているような中途半端な状態であっても打ち切られたままNetflixで配信され続けているが、新シーズンが製作されることはない。昨年打ち切られた『ワンデイ -家族のうた-』はCBSに移籍し、新シーズンを順調に放送しているが、そういったケースは稀だ。ただ、『ワンデイ -家族のうた-』のような、移籍後も順調に放送しているような作品であっても打ち切りとなったのはなぜか。『ワンデイ -家族のうた-』に関しては、過去放送されたシットコムのリブートでありながら、スパニッシュ系家族の今を映し出す作品としてファンを多く獲得。それでも、打ち切られてしまった。Deadlineによれば、そこにはNetflixが設けている最低でも3つの指標があるという。

 作品が配信開始されて最初の7日および28日以内のデータで確認される1つ目は「スターター」と呼ばれるシーズンの1つのエピソードだけ観るユーザー、2つ目はシーズン全体を観終わった「コンプリーター」と呼ばれるユーザー、そして最後は「ウォッチャー」と呼ばれるNetflixの視聴者総数だ。上記の期間内で、製作費に対して視聴数が少なかったと判断された場合打ち切りになる。好きな作品の打ち切り背景についてこれを聞かされると、なんと非情なと反射的に思わなくもないが、従来のテレビの視聴率と同じと考えると、ビジネスとしてはまっとうである。さらに、これに加え、『ワンデイ -家族のうた-』の場合、視聴数は限りなくシーズン更新に近かったが、エミー賞ノミネートしなかったことも要因であったのではないかと報じられている。残念ながら、昨今のピークTV時代に置いてコメディ部門は他の動画配信サービスも含め戦国時代の様相を呈しており『ワンデイ -家族のうた-』が主要部門でノミネートすることはなかった。

 直近で言えば、『GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』もやむを得ずの打ち切りだ。『GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』は女子プロレスのドラマであり、プロレスを通して多様性やフェミニズムを描き、多くのエミー賞を獲得しシーズン更新も予定されていたが、題材ゆえに身体的接触も多いことからコロナ禍でのシーズン更新は断念せざるを得ない状況になってしまった。パンデミックが収束するまでは、これまでの基準に加えコロナ禍での撮影規定を守り予算内に撮影できるかも重要な要素になってきている。そう考えると、仮に今後Netflixで打ち切りになったとしても、他の配信サービスにおいても視聴数評価やコロナ禍での状況はさして変わらないとすると、視聴数とコストをかけ合わせて買い取るに相応しいかジャッジされるはず。そのため『ワンデイ -家族のうた-』のような移籍事例はやはり稀であろう。

Netflixが見据えるライバルとは

 近年では平均2シーズンと言われるNetflixオリジナル作品。Netflixは「コストプラスモデル」と言われる手法を採用しており、番組全体の製作費に加え30%のプレミアムを支払う。そうすると、シーズンを重ねるごとに製作費がかさむのは自明であり、シーズン更新へのハードルはどんどん上がってしまう。ユーザー目線で考えても、シーズンを重ねている作品を新規で観始めるにはそれなりの時間が必要であることをイメージすると、シーズンを重ねる=新規ユーザーの獲得に一役買う影響力は下がっていく。全ての作品に『ストレンジャー・シングス 未知の世界』級の人気を求めるわけではないが、批評家評価だけではなく現実的にユーザーの多くが観たのかどうか欠かせないことは変わらないだろう。もっと言えば、どれだけの人がNetflixに時間を割いたかだ。

 Netflixのコンテンツ最高責任者であるテッド・サランドスは直近のVariety紙でのインタビューで、視聴者がどれだけ集中したか、つまりエピソードをどれだけの速さで観たかにも注目していると発言。いわゆるビンジウォッチしたことが、ある種ユーザーがのめりこんだ指標でもあり、良いストーリーにはその要素があるとしている(この良いストーリーとは当然コストに見合った、ということでもある)。新規ユーザー獲得と並行して、いかにNetflixに時間を使ってもらえるかもテーマであるからこそ、グローバル戦略においてのライバルとして、他の動画配信サービスに加えYouTubeにも必ず言及するのだろう。The Vergeは「Netflixは誰にとっても、いつも”何か”そこにあるから機能する」と述べている。そもそも海外テレビシリーズの大ファンからすると、いかにエミー賞にノミネートされたか、批評家の評価がどうだったか、作品として面白かったかどうか、SNSで(もっと言えば自分のタイムラインで)流行っているかどうか、自分の好きな俳優が出演しているかなどに注目してしまいがちだが、Netflixが向いている方向はもっと広い。先ほどのようなファンとしての目線は、実はNetflix全体のユーザーからすればほんの一部なのかもしれない。より多くのユーザーにどれだけ常にNetflixを使ってもらうか、コンテンツ製作だけでなく、テックカンパニーとしてのコメントだなと改めて感じる。

キャンセルが続く中での新しい動き

 大好きな作品がキャンセルされる一方で新しい動きもいくつかある。『LUCIFER/ルシファー』などかつては拾う神だったNetflixは直近で捨てる神になっているようで、実は「数字になるコンテンツ」は拾っているし、ポテンシャルがある作品やクリエーターには投資している。キャンセルする作品が続出する中でYouTubeがドラマ製作から撤退したのを機に『コブラ会』を買い付け配信。視聴数も上位にランクインし無事シーズン更新となっている。YouTubeではいまいち認知度に限界があった『コブラ会』もNetflixというプラットフォームであれば数字が取れると判断したのだろう。また、今年自宅隔離中にTikTokでトランプ大統領の口パクものまねを配信し一躍スターになったサラ・クーパーと早々に契約し、『ロシアン・ドール:謎のタイムループ』で成功を収めたナターシャ・リオンとコメディエンヌとして確固たる人気を誇るマーヤ・ルドルフを製作陣に加えコメディスペシャルを配信開始した。TikTokはYouTubeと同じように動画のジャンルとして、特にスマホやタブレット視聴するユーザー層におけるNetflixライバルとも言える。そこで数字をとったコメディアンを起用するところにもNetflixの先を見据えた動きを感じる。

 『ハウス・オブ・カード 野望の階段』や『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』を輩出してきた長年の役員シンディ・ホランドが退任し、『アンブレイカブル・キミー・シュミット』や『マスター・オブ・ゼロ』などを後押ししたベラ・バジャリアが新たにグローバル部門のトップに就任したことも影響がありそうだ(今後のビジョンを考えたときに、彼女しかいないとテッド・サランドスもインタビューで述べている)。直近の総合視聴数ランキングでも第7位に『ペーパー・ハウス』のシーズン4がランクイン。シーズン3以降のオリジナル作品でのこの視聴実績はなかなかない。非英語圏のコンテンツ製作も、Netflixが他社よりも先んじて進めているグローバルTVネットワーク化には欠かせない。ファンからすれば、大好きな作品の打ち切りほど悲しいものはないし、それは製作陣も同じだろう。ただ、一営利企業と考えたときに、まだまだ世界目線では伸びしろがあるNetflixとしては、英語圏の作品は特に「アメリカ国内だけでなく、世界でも数字が取れるかどうか」も一つの鍵になるのかもしれない(そしてその点においてはおそらくDisney+が強力なライバルになるはず)。キャンセルに心を痛める日常は変わらないかもしれないが、Netflix存続のターニングポイントと考えると、ファンとしては今楽しめるものを思い切り楽しむ、くらいの割り切りが必要なのかもしれない。

参考記事

Netflix has replaced broadcast TV as the center of American culture — just look at the viewership numbers|CNBC
Feeling The Churn: Why Netflix Cancels Shows After A Couple Of Seasons & Why They Can’t Move To New Homes|DEADLINE
Is Netflix actually making the cultural equivalent of billion-dollar movies?|THE VERGE
Why Netflix Keeps Canceling Shows After Just 2 Seasons|WIRED
Here’s Why Netflix Cancels Shows So Quickly Now|IGN
Money to burn; why Wall Street loves NFLX
Disney should worry about this new report on streaming TV viewership trends|FAST COMPANY
Disney should worry about this new report on streaming TV viewership trends|cnet
What Cindy Holland’s Exit and Bela Bajaria’s Rise Mean for Netflix|Variety
Ted Sarandos on Netflix’s Five Years of Global Growth, Controversy Over ‘Cuties’ and Management Changes
https://theorg.com/org/netflix/team/bela-bajaria

■キャサリン
Netflix、Amazonプライムビデオ等のストリーミングサービスで最新作を追いかける海外テレビシリーズウォッチャー。webメディアなどで執筆。noteTwitter

■配信情報
Netflixオリジナルシリーズ『GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』
Netflixにて独占配信中