芸人が綴る初単独メモリーズ Vol.11 日本エレキテル連合・中野「言葉がなくても繋がれた気がした」不器用な2人の自主ライブ
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日本エレキテル連合が今年9月に開催した単独公演「Neo Doki-Doki」より。
初めてのことに緊張や戸惑いはつきもの。期待に胸を膨らませて臨んだのに、想定外のハプニングに見舞われて大失態を犯してしまうこともある。そんな初々しい経験の中から「初単独ライブ」の記憶を芸人たちが綴るこの「芸人が綴る初単独メモリーズ」。第11回ではライフワークとして毎年開催している単独公演でその魅力を発揮し続ける日本エレキテル連合の演出担当、中野聡子を書き手に迎えた。
文 / 中野聡子
テーマは「初めまして、これが日本エレキテル連合です。」だった。
初めての単独公演は「日本エレキテル連合が何をしたいのか解っていただきたい」その一心でした。今から8年ほど前です。当時、お客様や、これから支えいただくスタッフにいまいち自分たちを理解してもらえてないんじゃないかという苦しみがありました。ネタについてあれこれ解釈するのも野暮だし、「こういうことなんです、こうしていきたいんです」なんて言える器用さも可愛げもなく、ただトゲトゲしていくばかりでした。私たちのしていることは面白いと思っていましたし、コントに対する情熱は持っていたので、常に「ちきしょう」が心を支配していました。コウメ太夫先生のとは訳が違う陰鬱極まりない「ちきしょう」です。
でも、私たちは二人揃って不器用です。生の言葉を操れません。コミュニケーション能力も低いです。それではどうしたら良いのか、もう選択肢は一つしかありませんでした。行動です。言葉がないなら行動で示そう。感じてもらったものそれが全てだ。そうして自主で単独ライブをすることにしたのです。それが2012年のバレンタインデーに行った『パラレル電報~キネマ編~』という公演です。
結果から言うと成功でした。この時点での私たちが何をもって成功と捉えたかというと、無理やりチケットを押し付けて招待したお客様やスタッフ、芸人仲間とライブ後、距離が縮まった気がしたのです。言葉がなくても繋がれた気がしたのです。少しは伝わったんだなと。丁寧に物を作るとちゃんと自分たちに還ってくることもわかりました。やってよかった。
ただ、それはそれはとても大変でした。小屋を自分たちで押さえて、会場作り、フライヤーの作成、プロモーションも当然自分たちだけです。コントはその人物になりきることが当時も今も変わらない私たちの持ち味なので、8本コントを披露するとなると×2人で16人分の洋服を頭(カツラ)から足先まで用意しなければなりません。好きでもないおじさんのズラやスラックス、便所サンダルに始まり友達になってくれなさそうな小生意気なギャルなど16人に貢ぎました。
また、テレビコントが大好きだったので、幕間はカット割りや場面転換をふんだんに使った映像コントも作りました。今でもこの手段はやっていますが、コントとコントの幕間を映像でつなぐ単調な演出は時折ご意見いただくことがあります。ただ、今の所「うるせー、私はこれが好きなんだ。今はこれでいいんだよ」というお返事をとても丁寧な言葉に換えてお伝えしています。
もしあの時、腐ったまま『パラレル電報~キネマ編~』を開催していなかったら、言葉を操れない上に表現することさえも失ってしまっていたかもしれません。今ではお客様をはじめ多くのスタッフの皆様に支えていただいておりますし、形にしたいことを相談できる人も増えました。あの時、「ちきしょう」と嘆いてばかりいた私たちを抱きしめてあげられるのは現在の私たちしかいません。彼女たちを常に心に置いたまま、これからも単独公演はやっていきたいと思っています。
中野聡子(ナカノソウコ)
1983年11月12日生まれ、愛媛県出身。2008年に橋本小雪と日本エレキテル連合を結成。コントや幕間映像のクオリティはもちろん、演出や舞台美術、小道具に至る細部までこだわった単独公演をライフワークとし、多くのファンを獲得している。ラップユニットJ-GODS「HARAETAMAE KIYOMETAMAE」、声優アイドルユニットにゅ~じんじゃあ「JIN☆JIN☆じんじゃあ」、フォークデュオけんいち&じゅんこ「火炎瓶の唄」など、キャラに扮して楽曲もリリース。2013年に開設したYouTubeチャンネル「感電パラレル」でも新作コント、新キャラクターを続々と発表している。今年10月には中国最大級の動画共有SNS「bilibili」にチャンネルを開設した。タイタン所属。