自分の人生を振り返らずにいられない 『PLAY 25年分のラストシーン』ビデオ映像の演出が生む効果
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携帯が一台あれば写真も動画も簡単に撮れる現在。インターネットを開くと様々な映像が溢れているが、90年代にホームビデオが普及して、誰もが手軽に映像が撮れるようになったのは画期的なことだった。人生を記録するメディアとなったビデオ。それを大胆な形で使ったのが、アントニー・マルシアーノ監督の映画『PLAY 25年分のラストシーン』だ。パリで生まれたマックスという少年が大人に成長し、そして、父親になるまでの25年間が、ホームビデオの映像を通じて描き出されていく。
大人になったマックス(マックス・ブーブリル)が、スマホで自撮りしながら25年間撮りためたビデオの映像を整理するところから物語は始まる。いちばん古い映像は1993年、13歳の時。クリスマスのプレゼントでもらったビデオカメラで、マックスは早速、家族を撮影する。優しいパパとママ、気の強い姉との一家団欒のクリスマスの風景は幸せそうだ。すぐにビデオはマックスにとって手放せないものになり、幼なじみのマチアスやアルノー、エマたちがビデオに登場するようになる。思春期になると異性のことを意識したり、進学に頭を悩ませたり。映画に描かれているのは誰もが経験するようなことだ。成長していく4人の幼なじみたちを、13歳から15歳、16歳から20歳、21歳から現在と、時代ごとに別の役者が演じているが(エマだけは16歳から現在までアリス・イザーズが演じている)、違和感なく4人が成長しているように見える。
そんななか、次第にマックスとエマの関係に焦点が当たるようになる。お互いに意識しながらも、幼なじみなので気持ちを伝えるのが気恥ずかしい。エマはマックスの告白を持っているけど、お調子者のマックスははぐらかしてばかり。結局、お互いを意識しながら、二人はそれぞれに別のパートナーを見つけることに。そんなマックスとエマのすれ違いのラブストーリーを、断片的なエピソードを積み重ねながら自然に浮かび上がらせていくあたり、マルシアーノ監督の巧みな語り口が光っている。両親の離婚、役者を夢見ながらのフリーター生活、うまくいかない夫婦生活など、大人なるにつれてビターな出来事も出てくるが、マックスの明るい性格は変わらない。マルシアーノ監督はマックスが撮る映像を通じて、ありふれた日常を優しい眼差しで見つめ続ける。
マルシアーノ監督はビデオ画像というディティールにこだわり、ワンシーンワンカットはもちろん、ビジュアルや音声もビデオのクオリティを再現。役者の演技も、セリフがかぶったり、カメラ目線をしたりと普通はNGなことを取り入れている。そうやって、素人が撮った映像を意識した絵作りをする一方で、映画的な演出も忘れない。例えばある二人がファースト・キスをするシーン。ボートに乗った二人に思わぬアクシンデントが起こった後、地面に置かれたカメラがキスをしている二人の足を映し出す。監督は偶然を装いながら、恋愛映画の王道ともいえるショットをさらりと入れて、ビデオ画像に映画の息吹を吹き込んでいる。
また、家電製品やファッションなど、小道具にもこだわることで時代の空気を伝えているが、なかでも重要な役割を果たしているのが音楽だ。レニー・クラヴィッツ「Fields Of Joy」、アラニス・モリセット「ironic」、ジャミロクワイ「Virtual Insanity」など、ヒット曲が映画の随所に登場。パリのストリート・ミュージシャンたちがこぞって演奏し、マックスたちが車の中で合唱するオアシス「Wonderwall」は、世界的に90年代ロックのアンセムだったことを実感した。
また、90年代を代表するフランスの人気アイドル、エレーヌ・ロレ「Pour l’amour d’un garcon」の使い方もうまい。少女だった頃のエマが、部屋でブラシをマイクがわりにしてこの曲を歌い、その横でマックスがエマの服を着ておどける。時は流れて20代になったエマ。パーティーでDJが彼女が好きなエレーヌの曲をかけてくれて大喜び。二人は熱いキスを交わすが、その様子をビデオで撮っていたマックスが落ち込んでいるのが、揺れるビデオ画像から伝わってくる。エマとは友達のままでいようと思っていたマックスだが、どこか割り切れないところがあった。
映像を通じて25年を振り返り、自分の大きな失敗に向き合うマックス。この映画はただ、過去を振り返って感傷に浸る物語ではない。25年分のビデオ映像を通じて本当に自分が必要としていたものに気づいたマックスは、人生を変えるためのアクションを起こし、それがドラマティックなラストシーンにつながっていく。これまでビデオ画像は、その臨場感やリアルさからホラー映画に効果的に使われることが多かったが、『PLAY 25年分のラストシーン』はビデオに映し出された日常に幸せを見出す物語。誰もが映画を観ながら自分の人生を振り返らずにはいられないし、人生の主役は自分だということを教えてくれるだろう。
■村尾泰郎
音楽と映画に関する文筆家。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CLUÉL』『CINRA.NET』など様々な媒体に執筆。『ラ・ラ・ランド』『君の名前で僕を呼んで』『WAVES/ウェイブス』など映画のパンフレットにも数多く寄稿する。
■公開情報
『PLAY 25年分のラストシーン』
11月6日(金)新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA、kino cinema立川高島屋S.C.館ほか全国順次公開
監督:アントニー・マルシアーノ
脚本:アントニー・マルシアーノ、マックス・ブーブリル
出演:マックス・ブーブリル、アリス・イザーズ、マリック・ジディ、アルチュール・ペリエ、ノエミ・ルヴォウスキー
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
配給:シンカ、アニモプロデュース
2018年/フランス/108分/DCP/ビスタ/PG12/カラー/原題:Play
(c)2018 CHAPTER 2 – MOONSHAKER II – MARS FILMS – FRANCE 2 CINEMA – CHEZ WAM – LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER/ PHOTOS THIBALUT GRABHERR
公式サイト:http://synca.jp/play/