舞台とわたしの新しい日常 Vol.7 君沢ユウキの、稽古着披露
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舞台とわたしの新しい日常
このコラムでは、公演が待たれる俳優やクリエイターに、“とっておきの稽古着”姿を披露してもらう。彼らは今、どんな稽古着を着て、新しい生活様式の中で臨む舞台に何を思うのか。
第7回に登場するのは、「毎月、どこかの舞台にいるんじゃないか」と思わせるほど、近年の出演作は枚挙にいとまがない君沢ユウキ。特撮ドラマ「仮面ライダーW」の園咲霧彦役で“尻彦”の愛称を得て以降、2.5次元ミュージカルからストレートプレイまで多彩な作品を、確かな存在感で支えている。彼の肉体美への需要と供給のマッチもさることながら、アニメの声優に挑戦するなど、意欲にあふれる君沢。「俳優になる気持ちは1ミリもなかった」そうだが、病弱で学校を休みがちだった幼少期を舞台に救われ、海外を巡る仕事を目指す前に「猪突猛進な性格だから、一度国外に出たら戻らないかもしれない。最後にやりたいことをやってから」と、この世界に足を踏み入れ、今に至った。
次に控える舞台は、二十代の頃から君沢が憧れていたという劇団鹿殺しの「ザ・ショルダーパッズ」(「銀河鉄道の夜」「少年探偵団」)。出演者は裸に肩パッド2枚の衣装で、宮沢賢治と江戸川乱歩の劇世界を立ち上げる……。同作へ向けて絶賛稽古中の君沢が、普段の稽古着とそのこだわりを語ってくれた。
君沢ユウキ
タイトな下半身でグッと気合、靴底にもこだわりが
サッカーが好きなので、稽古着にはサッカー選手もよく着ているオランダ発のブランド・BALR.(ボーラー)を愛用しています(編集注:オランダ代表のサッカー選手3人が立ち上げたラグジュアリーサッカーファッションブランド)。厚めのパーカー素材で機能性が良く、動きやすくて、強い。肌触りもいいんです。一方、下半身はタイトなものにして、グッと気合が入るように(笑)。僕らにとって稽古着は戦闘服のようなものなので、フィット感を大事にしています。実は靴にもこだわりがあって。本番では衣装さんにリクエストして靴底をリメイクしてもらうほど。稽古場ではadidasのYEEZY BOOSTを履いていますが、スプリングが幅広く付いているので、アクションや殺陣で繰り返し跳んでも疲労しにくいんです。稽古場で共演者とお互いのシューズを見合うことはよくあります。
感染症対策には稽古場全体で気を遣っていますが、個人的には免疫力が下がらないように運動したり、ビタミンCの点滴を週に1・2度、打ちに行ったりしています。抗酸化作用をビタミンCで高める“攻め”の防御。こっちが強くなっちゃえ、と(笑)。劇団鹿殺しの稽古場ではフェイスガードをして、稽古着を着て、その上からショルダーパッドの衣装を着けてやっています。シュールな光景ですが、帝国劇場でやってもおかしくない題材を、劇のクオリティを保ちながらも、衣装は肩パッドだけで送る喜劇。劇団鹿殺しは僕にとってアイドル的な存在でしたし、いろいろな作品に出て体を鍛えることも多いので、「ショルダーパッドの作品は君沢のためにあるようなものだ」と誘ってもらえて光栄です(笑)。
配信で救われたのは自分。アナログの極みが舞台の魅力
こうやってさまざまな作品に出させてもらえるのも、現場に呼んでくれる皆さんのおかげなんです。もともと野球部で、“全員野球”の姿勢が大好き。出演作の作風や所属、芸風が違ってもみんな仲間、「Join us!」みたいなところが楽しくて。コロナで舞台がなくなってしまったときも、舞台俳優1人をゲストに招いた配信番組「お部屋で喋らNIGHT?」を52夜連続でやらせてもらいました。最初は「俺が舞台界の灯を消させないぜ!」と思っていたんですが(笑)、それで救われたのは自分だった。企画を練る中で、その人の色を出すには、喜んでもらうには、とプレッシャーもありましたが、最終日には1万人以上が視聴してくれて、本当に感謝しています。と同時に、劇場で生で会う喜びも再認識しました。舞台は観客が時間を作って劇場に足を運ぶ、超アナログな芸術だけど、そのアナログの極みに魅力がある。お客さまには、また劇場に帰ってきてほしいなと思いますね。
僕、老け顔でね、早く年を取りたいなと思っていたんですが(笑)、最近は2.5次元ミュージカル界隈をお兄さんのような立ち場で見渡すことができるようになって。そうすると若い俳優たちが全力でヘッドスライディングするようにがんばっている姿に、本当に感動したんです。その全力さが2.5次元作品の一番の魅力だし、巡り巡ってまた舞台で会えた子の成長を感じると、僕もしっかりしなきゃ、と思う。みんなより長くやっているぶん、舞台の面白いところを知っているので、それを若い俳優たちにも味わってもらって、もっと好きになってもらいたい。僕自身、まだまだ若手の気持ちですが(笑)、一緒に青春させてもらっている今が、一番楽しいです。
プロフィール
1985年、京都府出身。京都外国語大学ブラジルポルトガル学科在学中に俳優に転身。劇団そとばこまち、つかこうへい劇団などを経て、現在では映像・舞台で活躍する。主な映像出演作に「仮面ライダーW」「戦国炒飯TV」などのほか、舞台では2.5次元作品に数多く出演。代表作に「ライブスペクタクル『NARUTO─ナルト─』」「東京喰種トーキョーグール」「ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン」など。また、近作に舞台「文豪ストレイドッグス 三社鼎立」「炎炎ノ消防隊」「サウナーマン ザ・ステージ」、ホチキス「銭に向け叫ぶ 2020」など。11月に劇団鹿殺し「ザ・ショルダーパッズ」、12月に舞台「ROAD59 -新時代仁侠特区-」(主演)、2021年1月から2月にかけて舞台「遙かなる時空の中で3 十六夜記」が控える。また、主人公の声を務めるテレビアニメ「それだけがネック」がテレビ東京で放送中。