『35歳の少女』だけじゃない 女優デビュー10周年、橋本愛の俳優としての現在地
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以前Instagramにて、「今私の体の中には、『青天を衝け』千代ちゃん 『35歳の少女』愛美 『班女』花子 三人の女が居座っています。それに加えて私。てんやわんやっす。」と、華やかな写真とともにコメントしていた橋本愛。現在リアルタイムで彼女の活動を確認できるのは『35歳の少女』(日本テレビ系)だけだが、俳優とはこのようにして、同時期に複数の作品へ参加し、異なるキャラクターを演じなければならないことがある。その大変さは、私たちの想像に及ばない。
この2020年、俳優デビュー10周年を迎えた橋本。物語のカギとなる役どころを演じて大ヒットに貢献した『告白』(2010年)で世間にその名を知らしめ、これまた話題作となるのに貢献するヒロインに扮し、彼女自身も多くの俳優賞を授賞した『桐島、部活やめるってよ』(2012年)などがキャリア初期の頃のこと。その後、主演として、1年という歳月をかけて大自然の中で撮影に挑んだ『リトル・フォレスト 夏・秋/冬・春』(2014年〜2015年)、“井の頭公園100周年記念”として製作された『PARKS パークス』(2017年)では歌声を披露し、『美しい星』(2017年)ではまさかの“金星人”役に。『ここは退屈迎えに来て』(2018年)では、門脇麦、成田凌、岸井ゆきの、渡辺大知らが顔を揃えた群像劇で主演を務め、どうにも満たされないでいる現代の女性像(もちろんこれは、女性にかぎったものではない)を演じたことも記憶に新しい。
橋本の代表作を挙げだすとキリがないことは一目瞭然だ。やはり彼女は“映画女優”という印象がとても強い。これだけ代表作があるのだから、丁寧に作品を選び、意識的にじっくりとキャリアを重ねてきたのだろう。もちろんこれまでもテレビドラマでの活躍がなかったわけではない。朝ドラ『あまちゃん』(2013年/NHK総合)や、『若者たち2014』(2014年/フジテレビ系)は彼女にとって、新機軸でもあっただろうと思う。しかし映画での活動と比べると、どうしても印象が薄い。映画館に足を運んでこそ会うことができるのが、橋本愛という存在だったのではないだろうか。
そんな橋本に対する印象が変わってきたように思えるのが、昨年からのこと。2019年は大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK総合)があったし、『同期のサクラ』(日本テレビ系)もあった。時代設定も作品の毛色も、製作形態も異なるドラマ作品で、お茶の間に姿を見せたのだ。その前年にも『西郷どん』(NHK総合)で大河ドラマ進出を果たしているが、あまりに出番が少なかった。だが思い返してみれば、それまで長いことドラマへの出演はなかったのだ。これが、彼女が“映画女優”の印象が強い理由のひとつでもあるはず。むろん、橋本自身がかなりの映画好きということも関係しているのだろう。
ではなぜ最近、このような変化に挑んでいるのだろうか。これはやはり、俳優としての10年のキャリアを経てきての、次なる10年に向けてのキャリア形成を視野に入れてのことのように思える。もちろん、映画などは撮影から公開まで期間が空くものだ。筆者などが知らないだけで、同時に複数の作品を抱えていることもあったかもしれない。
放送中の『35歳の少女』はプライムタイムに放送の現代劇で、大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)は時代劇。すでに上演が終了した『班女』は舞台作品だ。これらで演じる役に同時期に臨んでいたとのことだが、いずれのジャンルも、製作形態も異なる。どのようにして橋本は、「私」と「役」とのバランスを保っていたのだろうか。
冒頭で述べたように、ときに俳優とは、同時期に複数の人格を自身のなかに育まねばならない人々だ。そこから生まれるものが、私たち観客から笑いを引き出し、涙をこぼさせる。ある瞬間を機に、大幅に活動の量を増やす者たちがいるが、彼らの中では何が起こっているのだろうか。それが非常に顕著な存在として、佐藤健や安藤政信などの姿が思い浮かぶ。
橋本の出演映画だと、『あまちゃん』以来7年ぶりにのんと共演する『私をくいとめて』にも注目してほしい。演じるのは、イタリアの方へと嫁いでいった、主人公の親友役。彼女が出演してきた過去作と照らし合わせてみることで、橋本愛の俳優としての現在地が見えてくることだろう。
■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter
■放送情報
『35歳の少女』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00〜22:54放送
出演:柴咲コウ、坂口健太郎、橋本愛、田中哲司、富田靖子、竜星涼、鈴木保奈美、細田善彦、大友花恋
脚本:遊川和彦
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:大平太、諸田景子
演出:猪股隆一ほか
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/shojo35/
公式Twitter:@shojo35