Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 豆柴の大群は、“色物”ではなく“本物”だったーーパフォーマンスの努力が滲んだ初ワンマンライブ

豆柴の大群は、“色物”ではなく“本物”だったーーパフォーマンスの努力が滲んだ初ワンマンライブ

音楽

ニュース

リアルサウンド

 豆柴の大群にとっての初ワンマンは、彼女たちが色物ではなく、本物であることを証明するためのライブだった。

 豆柴は本来5月13日に1stアルバム『スタート』をリリースし、同日にマイナビBLITZ赤坂で1stワンマンライブ『豆柴の大群のスタート』を開催する予定であった。しかし、そこにやってきたのが新型コロナウイルス。アルバムリリースは叶ったものの、ライブスケジュールは7月に延期から中止へ。改めて、日程を10月24日、場所を昭和女子大学人見記念講堂へと移し、ソーシャルディスタンスライブ『豆柴の大群のりりスタート』として昼、夜の2回公演が行われることとなった。

 発表こそされていないものの、その空白だった期間に頓挫したライブはほかにも数多くあったと想像する。そこで豆柴はパフォーマンスの経験を重ね、ワンマンライブに臨む予定であった。ほとんど豆粒(ファンの総称)に会えないことで生じてしまったのがそのパフォーマンス性への懐疑的な目。WACKには、古くから小箱を巡るライブハウスツアーで実力をつけ、ファンとの距離を縮めてきたオルタナティブな精神が根付いている。対して、豆柴は『水曜日のダウンタウン』(TBS系)内のアイドルオーディション企画「MONSTER IDOL」から生まれ、クロちゃん(安田大サーカス)のプロデュースによってデビューした、一言で言えば“異端の中の異端”。あらゆる行程をすっ飛ばし、avex traxからメジャーデビュー、その4日後に東京ドームで運動会イベント、さらに1000人以上のキャパシティのホールでワンマンライブと、グループの勢いと本人たちの実力が乖離しているのではないかと、特に古くからWACKを見てきているファンならば彼女たちを色物で見ている側面もあったように思う。

 1部、2部とどちらの公演も観た上で言うならば、豆柴メンバー5人のこれまでのレッスンの日々が目に浮かぶ、努力が滲むライブであった。セットリストはメジャーデビューシングル『AAA』収録の「サマバリ」や「恋のかけ算 ABCDEFG」など骨組みとなる曲の位置は同じであるが、そのほとんどの曲の順番を変えたもの。「りスタート」で豆粒の顔を見て涙ぐんでいた1部の幕開けから、2部では名刺代わりの1曲「豆柴の大群-お送りするのは人生劇場-」で勢いよくライブの口火を切る。

豆柴の大群

 特にそのパフォーマンスの努力値が垣間見えたのはパンクチューンの「FLASH」と対となる「そばにいてよ Baby angel」。ステージは後方にグループのロゴとスクリーンが用意されたカラフルで豪華なセット。「サマバリ」であればランプの魔人となったクロちゃん風のキャラがサイリウムを持ってポップに動いたりと、ライブの盛り上げに一役買っていたが、「FLASH」はスクリーンが消え、レーザーだけが会場を妖しく照らすのみ。必然と目線はスクリーンではなく、ステージ上のメンバーに向く。パフォーマンスで魅せる場面であり、そこには期待に応えようと激しく踊る5人の姿があった。続く「そばにいてよ Baby angel」では白い煙による特効が焚かれる中、メンバーが何度も飛び跳ね豆粒を煽っていく。メンバーに呼応して会場にヘドバンが起きているその光景を見た時には、少しばかり抱いていた気がかりはすっかり吹き飛んでいた。

豆柴の大群

 歌唱力に関してずば抜けていたのは、ハナエモンスター。それは音源を聴いていても明らかなことであるが、自身が作詞にも参加している「ガーデニング」のサビ終わりのロングトーンは思わず声を出してしまいたくなるほどに、心を掴まれる力強い気迫を感じさせた。「人生劇場」のナオ・オブ・ナオの艶やかな歌声、さらに「僕がいい」では伸びのあるミユキエンジェルの声も初のワンマンと思えない、堂々とした響きだ。

 オルタナでパンキッシュなWACK色の裏側で、クロちゃんプロデュース、またはアドバイスによる可愛らしい部分が前面に出た演出も多分に盛り込まれていた。「りスタート」や「ろけっとすたーと」、「恋のかけ算」などがそれらに当てはまるが、カエデフェニックスが振り付けを手がけた「君以外にモテたい」は、豆柴で最もキュートな楽曲と言える。曲中にはミユキがメンバーと客席に投げキッスを飛ばし、ラストは5人が腕で大きなハートマークを作るというコテコテのアイドルソングだ。言ってしまえば、ほかの各WACKグループにもポップな曲はあるものの、その両極をグループカラーとして打ち出し、一つのライブの中で見せられるのは豆柴の特色であり、今後大きな強みになっていく予感がした。

豆柴の大群

 バラエティ番組から生まれ、WACKに所属する豆柴が、ライブにコントコーナーを設けるというのもなんら不思議なことではなかった。クロちゃんや豆柴のマネージャーに加え、BiSHのアイナ・ジ・エンドとハシヤスメ・アツコもサプライズ登場(1部では渡辺淳之介の姿も)。死体となったクロちゃんを偽装するため、腹話術で操る豆柴メンバー。クロちゃんの声マネをするアイカ・ザ・スパイに、手でクロちゃんの口を動かすカエデ、熱々の小籠包と粉まみれの信玄餅を食べさせるアイナとハシヤスメという、なんともカオスな構図だ。

豆柴の大群

 アイナは豆柴のメンバーをオーディションの頃から見守り、人一倍慕ってきた一人。初のワンマンのパフォーマンスに対して感慨深げに話すその表情からは、5人に対する思い入れの深さが伝わってきた。ステージ上では天丼で笑いをかっさらっていたハシヤスメも、「そばにいてよ Baby angel」でミユキに振り付けを直伝するなど、裏で交流を深めていたようだ。それは大サビ前のエレピに合わせ、ミユキが左右に動きながらピアノを弾くというもの。どこか奇妙でユーモアに溢れたその動きに、(言われてみれば)ハシヤスメの姿が重なる。

 メンバー一人ひとりが最後に流した涙は、これまでのデビューからワンマンライブまでの不安とそれに勝る豆粒に会えた喜びを分かりやすく表していた。それは「MONSTER IDOL」で見せた悔しさによる涙ではない。自信に満ちた達成感からの涙だ。

豆柴の大群

 結成1周年記念日である12月19日には1st写真集(タイトル未定)が、来年1月20日にはメジャー1stアルバム『まめジャー!』が発売となる。それに先駆け、スタートするのが全国6都市18公演の全国ツアー『実力をしっかりとつけるツアー』。11月に始まり、ツアーファイナルはアルバム発売直前の1月10日。ひた走るグループの勢いに振り落とされないように、メンバーが実力をしっかりとつけアルバム発売に臨むということを意味する。

 1部、2部ともにアンコールのラストは「大丈夫サンライズ」。何回でも立ち上がり、つらいことばかりではないと自身を鼓舞する、豆柴のアンセムだ。力強くサムズアップを掲げ、新たな目標へとスタートを切る5人が、より一段と頼もしく見えた。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter