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『同級生』シリーズが“青春BLの金字塔”とされる理由 色褪せることのない、佐条と草壁の恋物語を考察

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リアルサウンド

 こんな恋愛がしてみたかった――。青春恋愛モノの初々しさや瑞々しさに、どうしてこうも憧れてしまうのだろうか。その理由はきっと、物語中の青春や恋が現実にないとまでは言わないものの、そう簡単に叶うものではないと知ってしまったからだと思う。

 やすやすと手に入らないと分かっているからこそ、せめて物語の中くらいでは高校時代のピュアで爽やかな恋愛を疑似体験したい——。そんな願望にこれでもかと応えてくれる作品がある。『同級生』シリーズだ。青春BL漫画の不朽の名作、金字塔との呼び声も高い同シリーズは、2006年に連載がスタート。2008年に単行本の初版が発売され、それ以降も『卒業生』『空と原』『O.B.』と、2014年までにキャラクターたちのその後を描いた続編やスピンオフがリリースされている。そして2020年の9、10月。6年ぶりのシリーズ新作となる『blanc(ブラン)』が2カ月連続で刊行された。

恋愛モノの王道をいくBL

 名前さえ書けば合格できると言われている私立東府第一高等学校。シリーズの始まりである『同級生』は、そこに通う高校2年生・佐条利人(さじょうりひと/以下、佐条)と草壁光(くさかべひかる/以下、草壁)の恋物語を描く。

 佐条は絵にかいたような優等生だ。志望校でなかったとはいえ入試では全教科で満点を取り、教師たちからは「こんな優秀な子がウチに来てくれるなんて」と言われるほどの秀才である。一方、草壁は、着崩した制服姿に金髪、ピアス、絶対に真似をしてはならないがタバコと酒を嗜む、いわゆる不良として描かれている。

 そんな対称的なふたりの恋は、合唱祭の歌の影練習をきっかけに始まる。音楽の授業中、佐城が口パクで合唱に参加していないのに気がついた草壁。彼の目には、佐条のその態度がお高くとまった優等生のように映る。しかし放課後の教室でこっそりと合唱曲の練習をする佐条の姿を目にした草壁は、気付けば個人的に歌のレッスンをしようかと申し出ていた。この「ふたりだけの合唱練習」の時間が、佐条と草壁の距離を縮めていく。

 相手の意外な一面を知って、時間を共有する中で、お互いを強く意識していく。佐条と草壁の恋は、恋愛物語ではよく見る構成だろう。ただ彼らの恋は、青春恋愛モノの王道を歩んでいなければ、10年以上も愛されるシリーズ作品にはなっていなかったとも思うのだ。

 「まじめにゆっくり恋をしよう。」

 著者の中村明日美子は、このテーマで同作を描き始めたそうだ。このテーマ通りふたりの恋は、階段を一段一段確かめながらのぼっていくような、緩やかなスピードで進んでいく。相手を好きな気持ちだけで軽やかにのぼっていけるときもあれば、相手の一挙手一投足に戸惑って、その段から動けなくなることもある。そんなふたりの恋愛模様は、どうしようもなくうぶで、爽やかだ。

 またふたりは高校生だ。高校生の頃といえば、大人になりたい、大人でいたいという思いを強く抱く時期ではないだろうか。キス以上のステップに進みたい、恋人の前では余裕のある大人っぽい自分でいたい——。そんなちょっと背伸びした想いが空回りしてしまうふたりの姿に、高校生のリアリティを感じるのだ。

 もどかしいくらい丁寧にゆっくりと育まれていく佐条と草壁の恋愛はいわば、青春恋愛物語の「基本の“キ”」だ。多くの人が青春恋愛モノに期待するであろう要素が詰まっている。ただその中にも、きっと誰もが経験してきたであろう多感な時期の気持ちが織り込まれているので、「あの頃に戻る感覚」も味わえるのだ。

 だからこそ佐条と草壁の恋物語は、いつの時代においてもキラキラと輝きを放ちつづけ、人の心に色褪せず残り続けてきたのだろう。

20歳の佐条と草壁。ふたりが選ぶ道

 高校卒業間近の佐条と草壁を描いた『卒業生』。ふたりはもちろん、周囲のキャラクターたちのその後を描いた『空と原』『O.B』。今回刊行されたシリーズ最新作『blanc(ブラン)』では、高校を卒業して3年たった佐条と草壁の恋愛模様が描かれている。佐条の進学を機に京都と東京間で遠距離恋愛を続けていたふたりだったが、その関係に変化が訪れようとしていた。

 ふたりが高校時代に確かめ合った、「好きだからずっと一緒にいたい」というシンプルな気持ち。ただその想いを叶えるには、物理的な距離や法制度といった乗り越えるべき壁があまりにも大きいことを、20歳をこえ名実ともに大人になったふたりは実感していったのだと思う。

 あまりにも純粋な恋愛をしてきた佐条と草壁の関係がこじれていく様子には、見ていて切ないものがある。ただ「好き」という感情を丁寧に丁寧に育んできた実績を持っているふたりのことだ。きっと彼らなりの幸せの道を見つけ出すに違いない。そんな確信にも近い安心感があるのもまた、『同級生』シリーズが長年愛されている理由なのだと思う。

■クリス
福岡県在住のフリーライター。企業の採用やPRコンテンツ記事を中心に執筆。ブログでは、趣味のアニメや漫画の感想文を書いている。ブログTwitter

■書籍情報
『blanc(ブラン)#1』
中村明日美子 著
価格:本体690円+税
出版社:茜新社
公式サイト