橋本愛が「はちどり」キム・ボラと対談、指を見るシーンに「希望をもらいました」
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トークシリーズ「『アジア交流ラウンジ』キム・ボラ×橋本愛」の様子。左から是枝裕和、オンラインで参加したキム・ボラ、橋本愛。
トークシリーズ「『アジア交流ラウンジ』キム・ボラ×橋本愛」が本日11月1日に東京都内で行われた。
第33回東京国際映画祭の新企画であり、アジア各国・地域を代表する映画監督と日本の第一線で活躍する映画人が語り合う場としてスタートした「アジア交流ラウンジ」。初回となる今回は「はちどり」の監督を務めたキム・ボラがオンラインで参加し、会場には橋本愛とモデレーターとして是枝裕和が出席した。キム・ボラと橋本という組み合わせの理由について、是枝は「もしキム・ボラさんが日本の役者で撮ることがあったら、橋本さんが出てくれたらいいんじゃないかと、勝手にプロデューサーのような気分で考えていまして」と説明した。
「はちどり」について橋本は「好きなポイントを挙げたらきりがないぐらい感動しました」と述べ、「本作は“喪失”をテーマに作られたとお聞きしたんですが、急な別れや気持ちの変化など、突然何かが起こるということに翻弄されながらも主人公のウニが懸命に生きている姿に感動しました。映画の最後に登場する『世界は不思議で美しい』という言葉が、私の今の感情に重なって、ふわーっと勝手に涙があふれてきました」と感想を伝える。キム・ボラは「私は絶えず、生と死を映画のテーマとして考えています。まるで太陽や月が昇って沈むように、人生もさまざまなものが絶えず生まれて死んでいくことが繰り返されているのではと感じていて、それを映画に込めたいと思っているんです」と述懐し、橋本の感想に「『はちどり』を受け止めてくださったんだなと感じています」と喜んだ。
さらにキム・ボラは橋本が主演を務めた「リトル・フォレスト」2部作に言及。「ラストシーンでは日本の伝統的な舞を披露されていましたよね。そのときの橋本さんがとても決然とされていて、多くのことを経験して成長したような表情をなさっていて心が動きました。『はちどり』のエンディングについて話してくださったんですが、『はちどり』と『リトル・フォレスト』が重なった気がして感動しています」と述べる。
続いて橋本は、劇中で印象的だったシーンについて質問していく。ウニが漢文塾の教師ヨンジから「つらいときは指を見て」とアドバイスされる場面について、橋本は「つらいときにも指は動く、心と体が乖離しているから心が重くても体は動くんだと思いましたし、必死に体を動かしていれば前を向けるんだという希望をもらいました。監督は心理学とか文化について知識をお持ちなので、あの言葉はご自身の経験から生まれた言葉なのか、何かから着想を得たものなのかお聞きしたいです」と問う。キム・ボラはこのセリフについて知人の姉がさらに知人から聞いた言葉がもとになっていると明かし、「つらいことがあったとき、人々は巨大な助言が必要なのではという気持ちになる場合があります。でも実際には、小さくても日常的な助言が力になることがあると気付いたんです」と説明した。
本作では、1994年に韓国で発生した聖水大橋の崩壊事故も描かれている。橋本は「あのシーンだけではなく、ウニの日常では小さな橋の崩落のような出来事がいくつも描かれて、それが個人の体験として積み重なることで成長していくんだと思いました。実際の事件は監督もご経験されたことだと思うんですが、当時はどんなことを感じて、今のご自身にはどう影響しているんでしょうか」と質問する。キム・ボラは崩落事故を「韓国で暮らすすべての人々のトラウマ」と表現し、「子供心にその日の夜は敗北感のようなものを感じて、言葉ではうまく説明できない気持ちに襲われました。『はちどり』を準備しながら聖水大橋の当時の写真を見て、真っ二つになった橋の様子に体の痛みを感じたんです。私たちは日頃、そのことにふたをして忘れて生きていますが、体の記憶としては間違いなく残っていると思います」と語った。
質疑応答コーナーでは、2人に向けて「コロナ禍の前後を比べて、クリエイティブ面で変わったことと変わらないことは?」という質問が飛ぶ。キム・ボラは「抽象的な答えですが、コロナ以前よりも人間のつながりについてより深く考えるようになりました。コロナウイルスというのは息を通じて感染していきますが、そのことによって私たちは空気や呼吸することを共有しているんだと改めて知るきっかけにもなりました。コロナ以前よりも、私たちはつながっているということを共通の問題意識として考える状況に直面しているんだと思います」と回答。続けて「クリエイターは『私たちはつながっている』という重要なことを見過ごしてきたのではないかと考えさせられました。今回のことは、私の行動1つひとつが人々に影響を与え得るんだということを忘れさせないようにするきっかけになったと思います」と話した。
一方、橋本は「お芝居をするうえでは何も変わらなくて、観客としての意識だけが変わったなと思います」とコメント。「映画館がなくなるかもという危機感と、いつでも待っていてくれる場所だと思っていた映画館が運営している人たちの血のにじむ努力のもとで存在しているんだということを身に染みて感じました。今は自分がちゃんと足を運んでお金を渡して存続に貢献しなければいけないという、“与える側”の意識があります。今までもそうだったんですけど、補完関係がより自分の中で強くなりました。本当に映画館に行かなきゃいけないという気持ちでいっぱいですね」と力強く語った。