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吉高由里子のミステリアスな魅力 『危険なビーナス』が持つホームドラマの顔

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 楓(吉高由里子)を突き落とした犯人はわかったが、今度は百合華(堀田真由)の母である支倉祥子(安蘭けい)が置き手紙を残して失踪してしまう。明人(染谷将太)の捜索という当初の目的をよそに、伯朗(妻夫木聡)は百合華に頼まれて祥子の行方を探す。

 『危険なビーナス』(TBS系)第4話では、矢神家で一大勢力を占める支倉ファミリーにスポットライトが当たった。先代の当主である矢神康之介(栗田芳宏)には実子が5人おり、次女で後妻の子にあたるのが祥子。祥子は、康之介から介護施設「矢神園」を相続し、夫の支倉隆司(田口浩正)が園の経営を取り仕切っていた。

 「失踪」や「転落」と並ぶ今作の名物が「家探し」だ。両親のいない間に百合華は伯朗を実家に招き入れ、祥子失踪の手がかりを探す。「楓さんが母を誘拐しているかもしれない」という理由で百合華に口止めされた伯朗だったが、偶然にも支倉家に忍び込んだ楓と鉢合わせする。人畜無害な伯朗に周囲が無警戒な反面、楓が矢神家の誰からも疑われているのは相変わらずだ。

 楓が疑われているのは、明人の嫁という言い分を親族が認めていないということもあるが、その言動から何かを隠しているような雰囲気を感じるためだろう。忍び込んだ先の支倉家で見つかりそうになるなど、計画性がなく行き当たりばったりな一面があるかと思えば、第3話で嗅いだシャンプーの香りから隆司と杏梨(福田麻貴)の関係に気付き、それを交渉道具にして祥子の行方を聞き出そうとするなど、相当のキレ者という印象も受ける。

 分裂気味な楓というキャラクターをまとめ上げているのは、あの満面のスマイル。楓の人懐っこさと愛嬌を前に、伯朗はなすすべなく陥落してしまう。ただし勘ぐるなら、これも、巧みに相手の懐に入る楓の技量と言えなくもない。こう考えると、楓のミステリアスな魅力は、何を考えているかつかめない曖昧さに由来していることがわかる。

 実際のところ、楓は明人の嫁であると主張しているが、そのことを裏付ける確かな証拠はなく、信じてくれる伯朗がいなければ、楓という存在ははなはだ心もとないものになってしまう。そうした状況で伯朗に「最強タッグ」を受け入れさせ、完全アウェイであるはずの矢神家にも強引に割り込んでいく楓は、ある種のデタラメな存在感を放っている。まっとうに演じたら破綻しかねないキャラクターを、形にして差し出す吉高由里子、あらためてすごい女優だと思う。

 当主の康治(栗原英雄)が寝たきりになり、跡継ぎの明人が行方をくらましたことで、矢神家の人々はタガが外れてしまった。30億の資産を前にして互いをライバル視する親族に、一瞬目を覚ました康治は「明人を待て」とメッセージを送る。そういえば、遺産の中には、大きな価値のあるものが含まれていたはずだが、牧雄(池内万作)が昏睡状態に陥ったことで、こちらは当面お預けに。明人の捜索という本来の目的の周りをグルグルと回っているようで、ちょっとした迷宮入り感も出てきた。

 百合華のために嘘をつき、支倉家を救った伯朗。復讐を選ばなかった伯朗に、祥子は実母である禎子(斉藤由貴)の真実を伝える。第4話で支倉家を通じて描かれたのは、バラバラになった家族がもう一度ひとつになることだった。原作で楓のセリフに相当する「伯朗さんは心のまっすぐな人」という言葉を反復し、百合華にも同じ言葉をしゃべらせることで、伯朗が家族との絆を確かめる補助線を引く。本作のもう一つのテーマであるホームドラマとしての顔を浮き彫りにするエピソードだった。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
日曜劇場『危険なビーナス』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:妻夫木聡、吉高由里子、ディーン・フジオカ、染谷将太、中村アン、堀田真由、結木滉星、福田麻貴(3時のヒロイン)、R-指定(Creepy Nuts)、麻生祐未、坂井真紀、安蘭けい、田口浩正、池内万作、栗原英雄、斉藤由貴、戸田恵子、小日向文世
原作:東野圭吾『危険なビーナス』(講談社文庫)
脚本:黒岩勉
プロデューサー:橋本芙美(共同テレビ)、高丸雅隆(共同テレビ)、久松大地(共同テレビ)
演出:佐藤祐市、河野圭太
製作:共同テレビ、TBS
(c)TBS