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小林武史×安藤裕子が語る、この時代に伝えたい“言葉”―『KRUKKU FIELDS HARVEST』開催を前に【対談】

音楽

インタビュー

ぴあ

小林武史、安藤裕子 Photo:吉田圭子

「SDGs」という言葉に触れる機会が多くなった昨今。音楽プロデューサーの小林武史が「持続していける社会を自らの手で選んでいくために何ができるだろうか」という思いで非営利団体「ap bank」を立ち上げたのは今から17年前、2003年のことだった。そこから環境をテーマにした音楽フェスやオーガニック・レストランなどの運営、そして東日本大震災の被災地支援の一環として行われた『Reborn-Art Festival』を通じ、一貫して「いのちのてざわり」をコンセプトに様々な活動を展開してきた。そして2019年11月、千葉県木更津の地に誕生したのが、「KRUKKU FIELDS」だ。30ヘクタールのこの場所には、持続可能な社会を実現していくための土壌と芽吹きがすでに息づいている。そしてそこには、音楽をはじめとしたアートの役割が欠かせない養分として位置づけられている。今年9月に行われた『KRUKKU FIELDS HARVEST』はそうした有機的なハーモニーを楽しんで感じられるイベントとして大好評を博した。今回はその2回目。注目のライブステージのゲストには安藤裕子を迎える。その打ち合わせがまさに行われているKURUKKU FIELDSを訪れた。

ーー早速ですが、どのようなライブになりそうですか?

小林武史(以下、小林):安藤裕子という人は、いろんな意味で才能のあるアーティストでありシンガーなんですけど、彼女の中に〝男前な部分〟っていうのがあるんですよ、実は。女性の殻なのか皮なのかわからないけど、ときどき「あれ、脱いだ?」ってときがあるんですよね(笑)。肩で風切ったよな今、ってときが。そこをうまく引き出したいというのはありますね。それで、カバーをね、今回はやろうよっていうのは最初から伝えていたんですよ。しかも男性アーティストのカバーが多めの選曲でね。もちろんそこと彼女のオリジナル曲のバランスをとりながらセットリストを構成していきます。

安藤裕子(以下、安藤):わたしの歌を小林武史が演奏するというだけでは意味がないんですよ、たぶん。音楽ファンにとってみれば、わたしたちが一緒にいることの意味ってそんなになくて。

小林:安藤裕子ファンにとってはね(笑)。

安藤:いやいや、小林武史ファンにとっても(笑)。今回こうして小林さんとご一緒させていただくことになって、いろいろお話をさせていただく中でわたしが感じたのは、この時代に伝えていきたい言葉が小林さんにはあるんじゃないかなということなんです。その言葉っていうのは、新しく語られることよりも、すでに語られた、みんなが知っている言葉をカバー楽曲の中から見出すことが今回わたしたちが一緒にやることの意味なんじゃないかなと思います。この曲知ってるっていう曲の中にも発見があるでしょうし。

小林:たとえ知らない曲であっても何かが飛び込んでくるかもしれないしね。

安藤:過去に歌われたもので今も残っているものは、歌に力があるから歌い継がれる永続性が宿っているんだと思うんです。カバー曲をっていう提案を小林さんがしたっていうことは、わたしは語り部に近い役割を与えられたのかなっていう感じがしています。そう思って振り返ると、小林さんが「ちょっと裕子やってみない?」って言ってくれることって、今までも語り部的なことが多かった気がするんですよね(笑)。『Reborn-Art Festival 2019』での「四次元の賢治」もそうでしたし(※細野晴臣らとともに声で参加)。その時の役割はメッセンジャー、世界の語り部でしたから。今回もそれに近い感覚はありますね。その日一日の世界というものの中で人として何を語るのか--その代弁者であるのかもしれない。もちろんわたし自身の曲もやりますし、音楽だけではなく食のイベントやアートなどたくさんの魅力が感じられるイベントなので、芝生でゴロゴロして「気持ちいい~」って楽しみながらも、その中で何かを感じとってもらえる時間にしたいと思います。

ーー小林さんが感じる安藤さんの魅力は?

小林:ベタな言い方をすると、独特の雰囲気を持っているんですよ。あらゆるものの中間にいる感じというか。浮遊している感じというかね。固定されない魅力というか。もちろん位置付けていく強さ、指し示していく確かさといった魅力も一方ではあるんだけど、彼女の場合はそこじゃない感じがするんですよね。

安藤:曖昧でいたいタイプなんです(笑)。ひとつ強いものを指し示すというほど何かに固執もできないし。わたしは見た目的には生白いし大きくもないから、すごく線の細い女性っていうふうに世間的には思われることが多いんですけど、でも根っこは女性性がすごく薄いんだと思うんですよ。もともとずーっと男性にしか共感できなくて、女の人に憧れてたんですよね。早く女の人になりたいなって。わたしは姿形は女なのに、女になれない--そういうひとつのものに固定されない違和感っていうものがすべての面においてあって、わたしは音楽の世界で生きているけどミュージシャンではないと思ってるんです。歌を歌ってるけど歌手ではない。そもそもわたし、音楽スタートの人間じゃないんです。ものを書きたかったりとか映像を撮りたかったりとか、違う場所がスタートなんですよね。流れ流れてミュージシャンになって、気がついたらそっちが生業になっていたんですけど(笑)。

ーーそういう意味でも、この自然の中で音楽を鳴らすというのは、それ自体が固定化されない表現のような感じがしますね。

安藤:やっぱり小林さんの面白いところでもありすごいなって思うのは、音楽の先に思想がきちんとあるところなんですよね。地球人、人間としての模索をずっとしてらっしゃいますよね。「裕子、一回来て、見てみてよ」って小林さんに言われて今日初めてこのKURUKKU FIELDSに来たんですけど、ミニマムに世界の循環が表現されていて、ひとつの理想郷だなって思いました。今年に入っていろいろな道筋が行き詰まっていると感じることが多くて、欧米流の経済システムが日本にはそろそろ適さないんじゃないかなってみんなが感じ始めていると思うんです。それでこの場所を見たときに、しっくりきたというか、こういう場所がもっと日本に増えたらいいのになって思いました。小林さん自身にも、これからここでやりたいことが溢れてらっしゃるみたいなので(笑)、楽しみですね。

小林:まだ始まったばかりではあるんですけどね。ライブの取り組みは今回で2回目ですから。でも東京からそれほど遠くない--というか割合すんなり来られるところにこんな場所があるっていうのは、ポテンシャルしか感じないですね(笑)。でも実際ね、この場所で音を出してみるとわかるんですけど、ぐわーっと自然が立ち上がってくるんですよ。緑豊かな自然の中の会場ってたくさんあるけど、〝会場〟という枠組みに収まっているものがほとんどなんですよね。でもここはね、人間が音楽をやっている行為と全然負けてないレベルで自然が存在しているんですよ。いい子ちゃんじゃない自然がね。だから裕子が何かしたら呼応してくるものがあると思う。逆に打ち消しあったりということもあるだろうし(笑)。人為的には作り出せない自然なバランスで演る方も観る方も音楽を楽しめるんじゃないかなと思います。食でもアートでも音楽でも、僕らがやろうとしていることを通じて少しでもいいから何か大切なもの、信じられるものを持って帰ってもらえれば幸せですよね。それが響き合うっていうことですから。

Text:谷岡正浩 Photo:吉田圭子

「KURKKU FIELDS HARVEST vol.02」
開催日:2020年11月7日(土)
時間:14:50開場/15:15開演
出演 :安藤裕子 × 小林武史× Shigekuni
開催場所:KURKKU FIELDSライブエリア

▼KURKKU FIELDS HARVEST vol.02/チケットぴあ
https://w.pia.jp/t/kurkkufields-p/

▼KURKKU FIELDS HARVEST vol.02 /オフィシャルホームページ
https://kurkkufields.jp/news/2887/

▼KURKKU FIELDS
https://kurkkufields.jp/

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