『鬼滅の刃』キャラクター人気投票、なぜ我妻善逸が首位に? ランキングを徹底考察
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『週刊少年ジャンプ 47号』にて、吾峠呼世晴の大ヒット作、『鬼滅の刃』のキャラクター人気投票(第2回)の結果が発表された。
SNSでもかなり話題になったので、すでに結果をご存じの方も多いとは思うが、1位から13位までの順位は以下のとおりである(なぜ、ここで挙げたのが13位までという中途半端なランキングなのかについては後述する)。
1位 我妻善逸
2位 冨岡義勇
3位 時透無一郎
4位 竈門炭治郎
5位 胡蝶しのぶ
6位 嘴平伊之助
7位 煉獄杏寿郎(煉の字は火+東が正式表記)
8位 伊黒小芭内
9位 不死川実弥
10位 栗花落カナヲ
11位 竈門襧豆子
12位 甘露寺蜜璃
13位 宇髄天元
ちなみにこの第2回の人気投票は、今年の3月末が締切で、本来は8月に結果が発表される予定だったのだが、新型コロナウイルスの影響で集計が遅れ、先ごろ(10月26日)ようやく発表されたもの。ファンの多くは早く結果を知りたかったことだろうが、考えようによっては、本誌の連載がとっくに終了していた8月に意味もなく発表されるよりは、映画(劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』)が空前絶後の大ヒットを記録しているいまのほうが、「盛り上がれる」という点ではドンピシャのタイミングだったといえるかもしれない(これは憶測にすぎないが、たぶんジャンプ編集部は、第2回の人気投票を企画した段階では、少なくとも8月までは同作の連載が続くと考えていたのではないだろうか。そうでなければ、いくら近年まれに見る大ヒット作だとはいえ、連載終了から約3カ月後の発表を予定するというのは考えにくい)。
なお、今回の結果は、あくまでも流動的なものにすぎない、と考えたほうがいいだろう。というのは、たとえば連載終了直後(5月)や、映画が大ヒットしているいま、あらためて第3回の人気投票をおこなったとしたら、上記のランキングとはまた少々異なった結果になることが予想できるからだ(たとえばいま募集したら、劇場版の実質的な主人公ともいえる煉獄杏寿郎は、間違いなくベスト3に入るだろう)。
だが、それとは別に、この結果から見えてくるものが何もないわけではないので、本稿では、上記の順位をあくまでも「流動的なもの」としながらも、そこから浮かび上がってくる『鬼滅の刃』のキャラクターたちの魅力をあらためて考えてみたいと思う。
まずは1位の我妻善逸だが、個人的にはこの結果に違和感はない。というのは、作品全編を通して、もっとも成長したと思えるのはこの善逸であり、また、主要キャラ4人(炭治郎、襧豆子、善逸、伊之助)の中では、いちばん読者に近い「普通の」感覚を持ったキャラクターだともいえるからだ。この善逸の魅力については、以前、本サイトで個人的な見解を別に書かせていただいたので、興味のある方はそちらの記事(『鬼滅の刃』善逸は極めて「ジャンプ的」なヒーロー 二重人格の“黄色い少年”の強みとは? https://realsound.jp/book/2020/04/post-544484.html)も読まれたい。
むしろ少々違和感をおぼえたのは、前回の人気投票では3位だった襧豆子と、ラスボス・鬼舞辻󠄀無惨の順位がやや低いことだった(無惨は今回23位)。これについては、前者は物語が最終局面に突入していく過程で、その活躍の場が徐々に減っていったことが考えられるが、後者の順位がなぜ低いのかを分析するのは実際のところかなり難しい。原作を最後まで読んだ方はご存じのことと思うが、鬼舞辻󠄀無惨という「最初の鬼」は、最後の最後まで鬼殺隊の剣士たちを相手に圧倒的な強さを見せつけ、恐ろしい悪の魅力を放ち続けたのである。つまり、普通だったら、こうした破格の強さを持った悪役は、(ラオウやフリーザなどの例を出すまでもなく)『少年ジャンプ』では人気を博すはずなのだが、なぜ無惨はベスト20にも入らなかったのだろうか。
これはいささか乱暴な見解だというのは自分でもわかっているが、あえて書かせてもらえば、もしかしたら鬼舞辻󠄀無惨は、作品世界における恐ろしい「悪」の象徴ではあったが、ひとりの「キャラクター」としては読者に認識されていなかったのかもしれない。図らずも無惨自身、21巻で「私に殺されることは 大災に遭ったのと同じだと思え」などといっている。なるほど、キャラクターの人気投票に、地震や台風のようなものに1票を投じる人はいないだろう。だからこそ、ちゃんと生きたキャラクターとして成立している(よりわかりやすくいえば「キャラが立っている」)ほかの悪役たち――黒死牟、魘夢、猗窩座、童磨、獪岳といった鬼たちのほうが、無惨よりも上位にランクインしたのではないだろうか。おそらくはこれが、(私が考える)鬼舞辻󠄀無惨の順位が低い最大にして唯一の理由である。
さて、最後に、「柱」たちについて述べたい。なぜ、冒頭に挙げたのが13位までというなんとも中途半端な順位だったかといえば、そこまでにランクインしているキャラクターの半分以上が、鬼殺隊の柱たちだからだ(※)。
(※)13人中8人(2位、3位、5位、7位、8位、9位、12位、13位)が柱。残念ながら「岩柱」の悲鳴嶼行冥のみが22位と(柱としては)少し低めの順位だった。
柱というのは鬼殺隊剣士の最高位であり、物語当初は9名いる。ただし、すべての柱が実際に姿を現すのは、単行本でいえば6巻になってからである。同巻収録の第45話、トビラページでもある見開きの絵を見てほしい。ここでずらりと並んだ一癖も二癖もあるような男女の姿を見て、そこから先の展開を何も期待しない漫画読みはいないだろう。誤解を恐れずにいわせてもらえば、どちらかといえばスロースタートだった『鬼滅の刃』の物語は、この瞬間から激しく動き出したといってもいいのである。
そう、この柱たちが、主人公の炭治郎や今回1位になった善逸らとは別に、それぞれが主役級の活躍を見せてくれたからこそ、『鬼滅の刃』の世界はより深く、より広くなったといっていい。特に、最初から最後まで竈門兄妹のことを信じ続けた「水柱」の冨岡義勇と、炭治郎に剣士としての誇りだけでなく、正しい人間のあり方をも教えた「炎柱」――煉獄杏寿郎の存在価値は計り知れないものがあったといっていいだろう。
いずれにせよ、ある意味ではこの柱たちが本作の「おもしろさ」を決めたのであり、その名のとおり作品を「支える」存在でもあったということが、第2回の人気投票の結果にも表れたのだとはいえないだろうか。
■島田一志……1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。https://twitter.com/kazzshi69
■書籍情報
『鬼滅の刃』既刊22巻
著者:吾峠呼世晴
出版社:集英社
価格:各440円(税別)
公式ポータルサイト:https://kimetsu.com/