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アルコ&ピース平子祐希が語る、生きることが楽になった“平子り”との出会い 「角度を少し変えるだけでも見える景色は変わってくる」

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 アルコ&ピース・平子祐希が執筆した著書『今日も嫁を口説こうか』(扶桑社刊)が、好評発売中だ。

 愛妻家として知られ、結婚14年目にしてもなお、付き合いたてのカップルのように妻・真由美を愛する平子が妻との出会い、日常、仕事に対する葛藤などを赤裸々に綴った1冊。“よりイタリア”であることを常に意識しているという彼らしい情熱的且つドラマティックな語り口調で書かれている。

 ラジオリスナーから盛りに盛りまくる滑らかなボケ口調を“平子り”と名付けられているが、本著でも“平子り”は健在。「面白く読ませていただきました」と伝えたところ、怪訝な表情を浮かべた平子から「打ちひしがれて立てないくらいの感動を感じて欲しかった!」と返ってきた。(タカモトアキ)

日常ではキレイな起承転結は起きない

ーー奥様への愛情いっぱいの1冊が完成した今の率直な気持ちを聞かせてください。

平子:僕からしてみれば今までの日記に過ぎない内容なので、こんなんで大丈夫なのかなっていうか。もの珍しがってもらえるだろうとは思うものの、嫁と仲がいいっていう一言で済んでしまう話なので、絶賛されるのも違うだろうし、逆にけなされるのも寂しいし……。みなさんにどんなふうに読んでもらえるのかなっていうところにいちばん興味がありますね。

ーー執筆の中で意識したのはどんなところですか?

平子:嫁との仲の良さっていうのは普通のこととして(テレビなどで)話していたつもりなんですけど、関係者内外問わず、世間からはあり得ないっていう反応と、どこまで作ってるんだ?という疑惑が想像以上に多かったんです。だから、リアルには書いたつもりです。ただ、そこを意識すると日常ってキレイな起承転結は絶対に起きないんだなと思ったというか。書き上げたときに改めて読んでみても、どこにもオチはありませんでした(笑)。結局、リアルってそういうことなんでしょうね。

ーー普段、ネタを作られているので表現を文章に落とし込む作業は慣れているでしょうが、オチがなくてもいいっていうのはネタ作りと圧倒的に違うところですよね。

平子:まさにそうで、オチがないっていうのは今まで書き続けてきたものとは明らかに違ったので、ちょっと気持ち悪かったですね。あと、一旦書いたものはあまり読み返さないようにしてました。それは、書くときに思いついたことを大事にしたかったから。物語として成立させようと取り繕ってしまうと嘘が出てきてしまうので、生々しいくらいにリアルに書いて。千鳥のノブには少し前の段階で読んでもらって帯のコメントももらったんですけど、「生々しかったですねぇ」っていう感想をくれました。……ふふふ。だからね、問題あるくらいに芸人感がないし、問題あるくらい率直な1冊です。勘違いした売れてない文化人が起死回生のために一筆したためた、みたいな本になってます。

 女性に嫁との出会いを話すと、大体うらやましいって言ってもらえるんですけど、その一辺倒で書いちゃうとただのいい人話に終始してしまう。それが苦しかったので、女性に嫌われる要素もちゃんと散りばめました。

ーーわざわざ? いい人だと思われたい気持ちはないということですか?

平子:嫁とただ恋愛してるというだけで、いい旦那ではないので。仲よしであることはいいことですけど、憧れられるべき夫婦かと言われるとそうではないですし、何より僕自身が身綺麗な人間じゃないですからね。火遊びをしたことももちろんありますし……、ただ、そんな浮気男がこんなに好きになれたっていうところを伝えたかったというか。僕が真由美だけしか見えない特異体質だと(ほかの人には)なんの参考にもならないので、どこにでもいる等身大の男だという目線で書きました。

良くも悪くも“印象的”でありたい

――奥様もそうですが、相方である酒井さんも第一印象が良くなかったのに感覚的に合ったというところが非常に印象的でした。第一印象が良くない人って自分のテリトリーから真っ先に消してしまいがちですが、平子さんはそうしなかったということですよね。

平子:いいか悪いか、そのどっちかに振れてる時点で印象が強く残ったということですからね。恐ろしいことに、こんな仕事をしていると良くも悪くも何かしら印象的であることは大事になる。なぜなら、興味を惹きつけられている証拠だからなんですよ。僕自身もどちらかに振れていたいと思っているので、誰かを見るときもそういう観点から見るようにしています。

ーー違和感を持ったとしても興味を逸らさないと。

平子:ただ、こっちが嫌だなと思ってる時は向こうも大体苦手に思っていることが多いのでね。いくら僕が興味を持っていても心を閉じられてしまって、一方的な興味で終わることもありますけど、僕はこういう仕事をしているからこそ、嫌われているところにも入り込んでいきたいと思っているところがあります。まぁ、今までの人生の半分くらいは復讐みたいなものなので成り立っていて、こんな嫌なヤツがいたっていう話や学生時代に5軍だった頃の話はラジオでしてますからね。家庭が充実している分、芸人に必要なリベンジ心みたいな部分も大切にするようにしてるのかもしれないです。

ーー本著を通して、奥様であるとか夫婦であることについて改めて感じたことはありましたか?

平子:僕は言葉で伝える人間ではあるんですけど、それでも改めて振り返るとこんなに支えてもらってたんだなぁとか、こんなに……好きなんだなぁってさらに強く感じました。真由美とは「なんでこんなに好き同士なんだろうね?」って話すことが未だにあるんですけど、それが感覚めいたものではなく、好きになる要素がたくさんあったからだったんだと見つめ直すことができました。

ーー奥様との相思相愛エピソードはもちろんのこと、平子さんの語り口調が実にドラマティックだったのが非常に面白くもあったのですが。

平子:面白かったですか? 僕は魂が震えるほど感動して欲しかったので、もしかしたら読み方を間違ってるかもしれない。打ちひしがれて立てないくらいの感動を感じて欲しいです!

みんなの中に平子は絶対にいるんですよ

――それは大変失礼しました(笑)。文章の端々から溢れる情熱的且つ劇的な感じが、まさにファンの方曰くの“平子り”なのかなと感じまして。思い立ってネットで本著を検索してみても、発売前の状態だとやはり“平子り”を期待している声をいくつか発見しました。

平子:なんと言われてもそれは自由なんですけど、“平子り”はただ僕のボケに勝手な名前を付けられているだけですからね? ラジオの流れで勝手に付けられちゃっただけで、僕はずーっとプレーンなままです。何より、ボケに名前付けちゃダメじゃないですか? 名前を付けた瞬間、ボケが死に向かってるような気がするんですけど。

ーー面白い表現だなと思いますよ。本著のリリースに“平子り”とは難解な言い回しで諭してボケることと解説が掲載されているほか、ネットでの検索では平気で嘘をつく、イタいことを言いながらキャラに入るなどいろんな解釈がされていました。

平子:僕は全部、大真面目で話してますし、自分のイタい側面ももちろん自覚しています。……ちょっと言ってる意味がわからないかもしれないですけど、“よりイタリア”であろうとしている平子の様なんですよ。…………(一瞬、その場にいた全員の動きがピタッと止まる)こういう話をすると大体こういう空気になるんですけど(笑)、本当はみんな、僕と同じ感覚をどこかしらに持ち合わせているはずなんです。なのに共感しないのは、自分がイタい感覚を持っていることに気付いているから。公言したらマズいことになるっていうことを知ってるから持ってないフリをしてるんです。みんなの中に平子は絶対にいるんですよ。昔、IT社長のキャラとかやってましたけど、あれも僕のイタい部分をキャラクターに乗せていただけで……僕、本当にイタいんですよ。以前は隠していたところではあったんですけど、解放したんです。

――いつ頃、解放できたんですか?

平子:ここ4~5年ですかねぇ。イタいところを見せたらちゃ~んとキレイに嫌う人が出てきて、裏の裏っていうふうには見てくれないんだな、素直にちゃんと正面から受け取るんだなって思いましたけれど(笑)。まぁ、今回書いたような家族を大事にするっていう側面では、こういうイタいところもポジティブに捉えてもらえているなと思います。

僕にとって起点は全て真由美

――“平子り”にも言えることですけど、例えば、本著の中にあるように家事も奥さんにモテたいからしていたりとマイナスやネガティブに捉えるのではなく、プラスやポジティブに変換する思考は元々持っていたものなんですか?

平子:どうなんでしょう? 人生そのものを長いスパンで見返してみると、僕にはネガティブになり得る要素しかなかったと思います。さっきも話したように学生時代の不遇な扱いもそうですし、芸人になってから今ももちろんこれからも続く苦悩の部分もそうですし……。だから、そういう中でポジティブな側面を備えていないと、生物として生きていけないというところがあったのかもしれない。切り替えられてなければ、たぶん死んでいたと思います。とにかく学生時代はずっと不遇、不遇、不遇で、運動ができるのにいじめられっ子っていうニュースタイルを取ってたんですよ。まぁ、福島の湊町では平子という異物を抱えきれなかったんでしょう。東京っていう多種がいる場でようやく受け入れられている状況……いや、こんなに多様性を認められている場でも忌み嫌われてますから。

ーー(笑)。

平子:そうやって、学生時代はずっと絶望絶望絶望、お笑いを始めてからも絶望絶望絶望で……。だから、僕にとって起点となったのは全て、真由美なんです。彼女と出会って光が差しましたし、これまでの全部が肯定された。絶望していた学生時代も不遇な下積み時代も全部、真由美と出会うための必要悪の足跡だったんだと思えたんです。僕がいじめられっ子じゃなく地元でぶいぶい言わせてるような学生時代を送っていたら、今もなお地元で車を改造して乗り回す日々だったでしょうからね。今となってはポジティブだと思われる言動も、真由美と出会って日常的になりました。

ーーとはいえ、芸人として若い頃はトガっているところもあったというか、やりたいことに対しての頑なさもあったのではと想像します。4~5年前から自分自身のイタさも解放できたと話されてましたが、真由美さんと出会って生まれた自己肯定感に加えて、さらにこの辺りでご自身の気持ちに変化があったということでしょうか。

平子:そうですね。失敗も成功もたくさんありますけど、この仕事は否定されても非難されても結局、“芸人なんで”という一言で締めくくれることができますからね。なんなら、芸人は失敗したときのほうが仕事の幅も広がりますし……。だから、その辺りで自分の基準でこれはいい、これはよくないっていう判断をやめたことがいちばん大きい変化だと思います。自分がウケると思っていたことがウケなかったり、ウケないと思っていたことがウケたりするっていう経験を通して見定める能力がないことを実感したので、良し悪しを自分の基準で判断するのをやめようって。遅ればせながら、そう思ったということですね。

ーーその結果、“平子る”ことによって嫌う人も出てきたけど、面白がる人もそれ以上に出てきたと。

平子:いい意味で無責任さも出てきたんでしょうね。僕は今、適当な話をして給料がもらえてるんですよ。普通、100メートル走を5秒切るって言ったってお金は振り込まれないじゃないですか。僕、振り込まれるんですよ?(笑)自分でもちょっと嫌になるときもありますけど、考え方が変わってたしかに生きることが楽になりました。以前は失敗したらもうダメだと思ったり、ウケないとすぐ絶望したりしてましたけど、今はいい意味ですべてを自分で背負い込まないようにしてますね。

ーー(笑)“平子り”的な視点でいうと、平子さんは幸せなところに日々、目を向けられる人なのかなと。平子さんご夫婦と同じくらいの幸せを持っていても、お互いがネガティブなことを誇張して文句を言い合っている人たちもいるんじゃないかなって思うんですよ。

平子:あぁ、はいはい。そういう気持ちの切り替えって大事ですよね。マイナスだと思っていることって実は思い込みだという可能性もありますし、角度を少し変えるだけでも見える景色は変わってくる。夫婦ゲンカもねぇ……1回、抱けば解決すると思うんですよ。みんな、理屈めいたところでブレーキかけて、気恥ずかしさ、慣れ、飽きっていうネガティブな側面ばかりに目を奪われてますけど、所詮、オスとメスの動物なんだから抱いてみればいいんです。好きだったら、年収なんて関係ない。感情の昂りもちゃんとあるんだってことがわかるはずですからね。

ーー情熱的なメッセージありがとうございます(笑)。シングルの方に向けては何かありますか?

平子:よく言う“出会いがない”って、すごくネガティブな逃げの言葉だと僕は思ってるんです。昔の僕もそうだったので気持ちは理解できます。けど、そんな僕が今、タイプでもない女性を世界でいちばん、1冊の本にできるほど好きになれているので、出会いがないフリしないでちゃんと他人を認めなよって言いたいですね。これ、恋愛だけじゃなく人との付き合い全てに当てはまることだと思うので、みなさんにも平子と同じ感覚を持ってもらって幸せになって欲しいです。でも、わからないですよ? 5年後……いや、来年、僕が嫁以外のお姉ちゃんと一緒にいるところが見つかるかもしれないですから。もしそうなったら、みんなでズッコケてください(笑)。

■書籍情報
『今日も嫁を口説こうか』
著者:平子祐希
出版社:扶桑社
発売日:2020年10月28日
価格:本体1300円+税
出版社サイト
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