『#リモラブ』が描く現代社会の恋模様 “日常”を持ち込む松下洸平の持ち味が生かされた形に
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波瑠が主演を務めるドラマ『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜』(日本テレビ系)は優しい。このドラマは、私たちがコロナ禍でなし崩し的に受け入れざるを得なかった「新しい生活様式」と、それにより、ちょっとだけ面白く進化した日常と、それでも変わらない日常を柔らかく映し出し、その全てを肯定する。観終わった後いつも思う。いろんなことが変わってしまったけれど、そう言えば、悪いことばかりじゃなかったよねと。
これには、ことさら「日常」に焦点を置いてヒロインの人生を描いたことが印象的だった朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)を手掛けた水橋文美江によるオリジナル脚本と、昨年の優れたドラマ『これは経費で落ちません!』(NHK総合)、『俺の話は長い』(日本テレビ系)を手掛けた中島悟による、マスク姿の登場人物たちはじめ、変化した生活様式を全面に出した、このドラマの「新しさ」を際立たせる斬新な演出との組み合わせが功を奏したと言える。
そして俳優陣の素晴らしさだ。主人公である美々先生を演じる波瑠はもちろん、彼女を取り巻く男性陣がとにかくハマっている。『スカーレット』の八郎役、『MIU404』(TBS系)第2話の犯人役ときて、本作の青林風一役を演じる松下洸平は、物語世界の中に「日常」を持ち込む特性を持っている。全ての役において他人事じゃないと視聴者に思わせる何かがある。謎の「三波春夫」ポジションである人事部における彼は、及川光博演じる、さわやかで軽快な上司・朝鳴と、間宮祥太朗演じる、時々さらっとダメダメなことを言うけれどなぜか憎めない五文字に挟まれ、どこまでも誠実な優しさを見せている。この3人の「ソーシャルディスタンス」を利用したコント風のやり取りもまた、「今までになかった」けれど、この1年、日常をなんとか面白くアップデートしてきた私たちの会話としては「あるある」な愛おしく楽しいやりとりだ(公式サイトにおける人物相関図の彼らについての解説がまた、本編に描かれていない小ネタ満載で面白い)。
「かわいいぜ、この野郎」がかわいすぎる八木原(高橋優斗)・栞(福地桃子)カップルは、ワイヤレスイヤホン越しの会話等の新しさもあり、コロナ禍の飲食店事情を物語の中に組み込むための重要なポジションである。さらに、基本的には「父親への挨拶をいつにするか」に悩む、今までと変わらない「普通の」恋愛の素晴らしさを、「普通の恋は邪道」なヒロイン・美々先生(波瑠)の恋と対照的に描いている。
また、カップルではないが、第3話の朝鳴と富近(江口のりこ)という元妻の同級生コンビのやり取りも、大人同士の思いやりとさりげない色っぽさとに満ちていて、とてもよかった。手が少し触れたことに気分が高揚したり、エアーでハグしたり、マスク越しのキスに胸が高鳴ったり。直接顔を見つめ合うことも触れ合うことも貴重で特別なことになってしまった今だからこそのトキメキもある。逆に川栄李奈演じる我孫子が、SNS上で「檸檬」として「草モチ」とやり取りをしていた彼氏・青林に向かって「私の知らないところで誰かと勝手に繋がったりしないで」と怒るのもまた、これまでの恋愛ドラマにない新しい嫉妬の形だと言える。
さて、本題の美々先生の恋愛事情である。男性を食べ物に例える癖のある美々は「極上のステーキ」を求めていたのにも関わらず、SNSの世界において、顔も名前もわからない誰かに恋をしてしまう。寝る前5分、起きて5分の他愛もない会話をアカウント名「草モチ」として「檸檬」とやり取りを交わす中で、2人はまだ会ってもいないのにかけがえのない存在になってしまった。第3話以降、物語は、同じ社内にいるはずの「檸檬捜し」から、心だけ先に親密になった相手と、実際に恋に落ちることができるのか問題に移行した。
檸檬と草モチのやり取りは本当に魅力的だ。相手のことを知らず、身体に触れなくても、彼女が嫉妬するほど、「心を繋ぐ」ことはできる。
その一方で、ドラマは、朝鳴の子供である保(佐久間玲駈)というデジタルネイティブの言葉を通して警鐘を鳴らす。「SNSでの出会いはきっかけに過ぎないから、現実の世界でちゃんと向き合わないと愛は育たない」と。
その言葉の通り、オンラインゲーム、SNS、配信動画、喋る家電と、新しい生活様式をとことんまで組み込むことで快適に生きている美々は、現実の恋愛とちゃんと向き合おうとするだけでどこまでも疲弊し、「面倒くさい」と思わずにいられない。SNSでのやり取りは、互いの顔が見えない分、想像によって補われ、過度に美化される。5分限定のトークタイムは、忙しいアラサー社会人にとって何よりも都合がよく負担にならない手段だ。また、その気になればいつでも関係を絶てる気楽な関係というメリットもある。
心に直接語り掛けることができるSNSでのコミュニケーションは身軽だ。でも、そこに身体が伴うだけで、どうしてこうも困難が伴うのだろう。
朝鳴の離婚の背景にSNSに頼り過ぎたことがあったように、あまりにも快適になった現代社会は、私たちの日常から面倒なことを奪い、「疲れることはしたくない」思考を育ててしまう部分もある。誰かとちゃんと向き合わなくても、一人でも生きていける。なんでそこまでして、他人とわざわざ心をすり合わさなければならないのか。そんな美々の気持ちも痛いほどわかる。
「もどかしいというか、面倒くさいというか、でもそれが恋愛だ」と栞&八木原は言った。我孫子の「セフレくん問題」というまたも新種の新しさにドラマがどう決着をつけるのかも気になるところだが、やはり一番気になるのは、そろそろ互いの正体に気づく頃合いだろう草モチと檸檬こと、美々と青林が、どうもどかしく、面倒くさく、現実の世界で恋に落ちていくかということだ。「添えもののキャベツ」は「極上のステーキ」になり得るのか。共感に悶えながら、今日も見守ろう。
※高橋優斗の「高」ははしごだかが正式表記。
■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。
■放送情報
『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜23:00放送
出演:波瑠、松下洸平、間宮祥太朗、川栄李奈、高橋優斗(HiHi Jets/ジャニーズJr.)、福地桃子、渡辺大、江口のりこ、及川光博
脚本:水橋文美江
演出:中島悟、丸谷俊平
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
チーフプロデューサー:西憲彦
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/remolove/
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