年齢差カップルの“禁断ラブストーリー”は今、どう描くべきか? 『私の少年』と『恋のツキ』から読み解く
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“年齢差のある男女の禁断のラブストーリー”と言われて、あなたはどんな作品を思い浮かべるだろうか。
ドラマなら『高校教師(1993年/TBS系)』『魔女の条件(1999年/TBS系)』、漫画なら『先生!(1996年/河原和音著)』『海の天辺(1988年/くらもちふさこ著)』など教師と生徒の関係性を中心に、フィクションの世界では古くからいくつもの名作が世に送り出されている、いわば鉄板の設定だ。
特にドラマは“禁断”をキーワードにしたドラマチックな展開が多く、当時のお茶の間の視線を釘付けにしていた。しかし時の流れと共に、人々のフィクションの世界における倫理観も高まっていき、たとえ創作の世界においても、社会のタブーをロマンティックなもの、若しくはエンターテイメントとして消費することに抵抗を覚える人も増えている。そんな時代の中で描かれた年齢差のある男女を描いた漫画、『私の少年』と『恋のツキ』を紹介したい。
※以下、ネタバレ含む。
高野ひと深の『私の少年』は、2016年に『月刊アクション』で連載が始まり、2018年に『週刊ヤングマガジン』に移籍後、2020年10月26日に連載を終えた漫画作品。
30歳の会社員・聡子と12歳の少年・真修という大きな年齢差のある男女が、互いに抱える孤独を埋め合うように絆を深めていくというストーリーなのだが、全43話にわたり、二人は一度も触れ合うことなく、恋人関係にもならない。
では何が描かれていたのか? それは、人と人の本質的な心の交流である。聡子と真修の交流の仕方は、たとえばサッカーの練習や回転寿司での食事、他愛のないメッセージのやり取りなど、健全で穏やかなものばかりだ。それでもラストに向かうにつれて互いに対する愛情が深まり、かけがえのない存在になっていくのが感じ取れる。
「この感情は母性? それとも――。」という問いのキャッチコピーが付けられた本作だが、聡子が真修へ抱く感情は、庇護欲、母性、恋愛感情、その全てが入り混じったようでどれにも属さない、純粋な愛だったのだと思う。そのため二人の関係性にも、恋人・友人・疑似家族といった既存の名前は、最後までつかなかった。ある意味もどかしさはあったが、この名前の付かない関係性は、常識や社会性などのフィルターを取り払った後に残る人と人との本質的な繋がりなのだ。そしてその繋がりこそが、今の時代に年齢差のある男女を描いた本作品の意義ではないだろうか。
透明感のあるタッチももちろんのことながら、この普遍的なテーマを携えたストーリーだったからこそ、性や暴力などの過激な描写が多い『週刊ヤングマガジン』の中で、一服の清涼剤のような存在感を発揮し、性別を問わず幅広い読者から愛されていたのだろう。
どこか神秘的な雰囲気すら感じる『私の少年』とは対照的に、現代に生きる女性をリアルに描いた人間味溢れる作品が、新田章の『恋のツキ』である。
本作品は、『月刊モーニングtwo』で2016年から2019年まで連載され、2018年にはテレビドラマ化も実現した。映画館でアルバイトをしながら彼氏と同棲している31歳のワコと、映画監督を夢見る15歳の高校生のイコが互いに惹かれ合うというストーリーなのだが、同棲している彼氏を裏切ってイコと浮気し、さらに肉体関係まで結んでしまうワコは、軽率でズルい。
それでもワコをヒロインとして見守りたくなるのは、アラサーと呼ばれる年齢でぶちあたる厳しい現実が描かれているからだ。家事を一切やらず極自然に自分を見下す彼氏。女は30過ぎたら結婚や出産を考えるべきと当たり前のように言う家族。正社員になれず渋々選んだ3年契約の派遣の事務職。
同世代の女性ならきっと誰もが一度は実感したことのある女性ならではの生きづらさが、残酷なほどリアルに描かれている。ラストシーンは漫画とドラマで異なるが、共通しているのは、ワコが自分の人生を歩みだすということ。誰かに選ばれることでしか幸せを感じられなかった自己肯定感の低いワコが自立し、自分の好きなことに携わる仕事を始めるというラストは、決して甘くロマンティックなものではないが、地に足のついた等身大の女性像を描き出していた。
アラサー女性と高校生という完全アウトな恋愛へ大胆に踏み込んだ本作品には、当然ながら賛否両論が巻き起こっていたが、単なる禁断のラブストーリーで終わらず、一人の女性の成長物語へと繋げたことは、まさにこの時代感を反映させた作品だったといえるだろう。
『私の少年』『恋のツキ』、どちらもすでにエンディングを迎えたが、時代に即した魅力をもつ作品なだけに、今後も多くの人々に愛読されることは間違いない。
■南 明歩
ヴィジュアル系を聴いて育った平成生まれのライター。埼玉県出身。