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きゃりーぱみゅぱみゅが魅せる、緻密に設計された“ホラー仕様”なステージ演出 オンラインハロウィンライブをレポート

音楽

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リアルサウンド

 日本時間(と言いたい気分)2020年10月31日、17時30分。きゃりーぱみゅぱみゅ初のオンラインライブ『Kyary Pamyu Pamyu Online Halloween Live 2020 「THE FAMILY 10.31」』が開催された。15分ほど早くSHOWROOMにログインして入場すると、不気味な音色のBGMがホラー気分を盛り上げる中、すでにたくさんのアバターが開演を待ち構えていた。

 17時30分ちょうど、画面にショーのタイトルが流れ、森の奥に佇む洋館の前にドクロ面の双子の少女が現れた。導かれるままついて行くと扉が開き、ジョーカーのような風貌の「ザ・ファミリーの執事」を名乗る男が口上を述べる。

 観客はファミリーが人目を避けて暮らすこの洋館に迷い込み、亡くなった長女が年に一度だけ復活する「大事な晩」を、人間を装ったモンスターのふりをして楽しむ、という趣向。「正体がバレないようお気をつけください。でないと、みなさんの身の安全は保証できませんよ」と執事が高らかに笑うと雷鳴が轟き、いよいよ長女=きゃりーが登場した。

 きゃりーは裾にタッセルがついた十字架モチーフの黒いドレスに左右で素材が違うパフス
リーブ、肘と手首と足首に襞襟のようなラッフルを装着。髪飾りもアイメイクも黒で、完全なホラー仕様だ。白い襟とリボン、厚底のサンダルがとてもキュートだった。

 大きな階段を背にした大広間のフロアで、オープニングナンバー「ファッションモンスター」を披露。左右の双子は妹たち、後ろで踊るずんぐり男と魔女は父と母。そこに執事とちびっこダンサーの猫も加わり、ザ・ファミリーが勢揃いして「シリアスひとみ」「おとななこども」を続ける。造型のモデルは『アダムス・ファミリー』だろうか。

 執事が「おやおや、思っていたより多くのみなさんが迷い込んでいるようですね」と再び高笑いし、きゃりーは「みんな〜、こっちで一緒に踊ろう!」と左手のステージに移動する。その背景にはスクリーンがあり、たくさんのファンたちがペンライトやタオルを手に踊る姿が映し出されていた。その動画をバックに「きらきらキラー」「キズナミ」とパーティーチューンを連発。

 振りも大人っぽく変えた「にんじゃりばんばん(Steve Aoki Remix)」では途中、ステージが3分割されてせり上がる。再び大広間へ戻って「もったいないとらんど」、インタールードを経て「おしえてダンスフロアー」。「ファミリーパーティー」では曲名そのままにファミリー総出で楽しそうに踊る。これが前半のハイライトだ。

 お色直しタイムを経て「インベーダーインベーダー」でステージに再登場したきゃりーは、鮮やかな赤と黒のフラメンコドレス風の衣装でラフレシア(食虫植物)に扮していた。中田ヤスタカ独特のメッセージ性が光る「もんだいガール」、きゃりー流の無機的な歌声の魅力が炸裂する「原宿いやほい」のヒットナンバー連打は圧巻だ。

 軽くMCをして大広間に戻り、猫と二人で「のりことのりお」。続く「ちゃみ ちゃみ ちゃーみん」は1番をドレッサーに向かって歌い、2番では立ち上がって双子と3人で踊る。この曲はいちばんミュージカルプレイっぽかった。「キミに100パーセント」から、明るく照らされたステージに移って「最&高」、またまた大広間に戻って本編ラストはファミリー全員で「Crazy PartyNight〜ぱんぷきんの逆襲〜」だった。

 アンコールは「かまいたち」。三たび登場したきゃりーはTシャツに黒のパニエっぽいスカート、白のソックスに黒のエナメルシューズというラフないでたちだ。双子+父+執事を従えてのライブ初披露で、一夜限りのオンラインライブは幕を閉じた。

 何が起こっているかを書き留め、記憶に残すのに必死の90分だった。二つのステージを頻繁に往来し、目まぐるしく入れ替わるダンサー(ファミリー)たちのフォーメーションも複雑で、大きなテーブルもいつの間にかセットされ、知らない間に搬出される。カットも大胆に切り替わる。緻密に設計され、入念にリハーサルされたショーであることは明らかだった。仕事抜きで楽しみたかったな……とこぼしたいほどである。

 色彩と明暗でストーリーを作る照明も見事だったし、きゃりーが座るドレッサー、母が演奏するピアノ、ダリ風の時計の壁画、大広間の絨毯にシャンデリアと、隅々まで作り込まれた小道具がふとしたタイミングで目に入るのはオンラインライブならでは。すべてが観客の視界内のステージ上で展開する生のコンサートが演劇だとすれば、これは映画やドラマを見ているのに近い。

 分割されて段違いになるステージ、演者が昇降する階段、ろうそくや鏡ごしのカットを使うなど、高低や奥行きをうまく見せた立体的な画作りもすばらしかった。映像配信でしか見せられないものを高いクオリティで作り上げた制作チームと、その中心でキレキレの動きを見せ続けた演者たち、中でもその中心でキラキラと輝きながら持ち前の歌の魅力を発揮しまくったきゃりーに、ひたすら感服するしかない出来だった。

■高岡洋詞(たかおか ひろし)
フリー編集者/ライター。主なフィールドは音楽で、CDジャーナル、ミュージック・マガジン、ナタリーほかに寄稿。好きな料理は水炊き。
http://www.tapiocahiroshi.com