嵐、アルバム『This is 嵐』徹底レビュー:濃密な3年間を凝縮、最後まで貫いた“攻め”の姿勢
音楽
ニュース
前作『「untitled」』から約3年ぶりとなる嵐の新アルバム『This is 嵐』。本稿では、アルバム3形態(初回限定盤DVD、初回限定盤Blu-ray、通常盤)に共通して収められているDISC1に収録された11曲をひとつずつ見ていきたい。
1.「SHOW TIME」
軽やかにスタートするアルバム1曲目。グラスやドレス、ヒールといったちょっとオトナなワードが登場するシックな装いをまとった歌詞、そして上品さもありつつ弾けるようなパーティー感を漂わせるこのR&B系のサウンドは、2000年代以降のJ-POPシーンに携わるAKIRAと、Jazzin’parkの2人による共作。キミとの“ショータイム”が華麗に幕を開ける。
2.「Turning Up」
今作の発売からちょうど1年前にリリースされた嵐にとって初の配信シングル。近年の嵐はSNSアカウントの開設やサブスク解禁など、デジタル領域へと積極的に進出してきた。海外プロデューサーとのコラボレーションも増え、海の向こうへ果敢にアピールしている。〈世界中に放て〉と歌うこの曲は、そうした彼らの“外へ開かれた”活動を象徴しているかのようだ。
3.「I Can’t Wait For Christmas」
時期的にもちょうどいいクリスマスソング。イントロの裏乗りハンドクラップや、祝祭的なコーラスの入れ方、サビでの三連をはじめとした全体的に存在感のあるピアノの演奏など、アレンジはゴスペル風。加えて、ベルの音や豪華なホーンセクションの存在も重なり、サウンドは完全にクリスマス仕様。冬の新しいスタンダードになりそうな一曲だ。
4.「Whenever You Call」
舞台は一転して都会の高層ビルがそびえ立つ広大な夜景へ。ブルーノ・マーズが作曲とプロデュースに参加した全編英語詞の意欲作。「君がどこにいたって呼んでくれたらいつだって駆け付けるよ」という歌のメッセージと、アナログシンセの大胆な導入による温もりのあるサウンドが美しく調和している。日米のスターがタッグを組んだ極上のミディアムバラードだ。
5.「いつか秒針のあう頃」
アルバムの中盤でひっそりとはじまるこの曲は、陰と陽で言えば“陰”側の一曲。ダークでミステリアス、リズムは重く、ボーカルにはリバーブがふんだんに凝らされている。それはまるで真夜中に夢の中を彷徨っているかのようだ。作曲にはOne Directionなど名だたるアーティストに楽曲提供するラミ・ヤコブの名がクレジット。
6.「IN THE SUMMER」
同じくラミ・ヤコブがプロデュースした7月リリースの配信シングル。こちらは打って変わって明るく朗らかな雰囲気が漂う。エレクトロニックな音像はトロピカルで、歌詞は開放的。タイトル通りのサマーチューンである。
7.「カイト」
“アスリートやこれからの時代を担っていく若い世代を応援する楽曲”として米津玄師が作詞作曲したNHK2020ソング。丁寧な日本語詞と壮大なオーケストレーションの施されたサウンドには強い普遍性があるが、終盤では活動休止を控えた今の嵐が歌うことで生まれる感動も用意されている。ジャニーズとして20年以上奮闘してきた彼らが最後に残した究極の応援ソングだ。
8.「BRAVE」
活動休止発表後にリリースされた最初のシングル。力強いハードロック調のサウンドに、分厚いブラスセクションの合わさったパワフルな一曲。さらに、津軽三味線小山流の三代目・小山豊が三味線で、生田流箏曲・地歌三味線演奏家の吉永真奈が箏の演奏でそれぞれ参加。アルバム後半に、前へ前へと向かっていくようなこの曲で再びアクセルを踏む。
9.「Party Starters」
歌詞がほとんど英語の軽快なパーティーチューン。今作の発売直前に配信リリースされ、YouTubeではミュージックビデオも公開されている。非常に明るくポップで、途中にしっかりコール&レスポンスも用意されている。ライブでの盛り上がりが期待できそうだ。
10.「Do you… ?」
ラストスパートは前曲に引き続き、底抜けに明るいパーティーチューンで攻めていく。2000年代中期の嵐のアルバム曲や後期の名盤『Are You Happy?』の質感を彷彿とさせるファンク調の一曲で、“これぞ嵐”なグルーヴを持っている。
11.「The Music Never Ends」
「音楽は終わらない」と題した一曲。未来志向の歌詞に、生音と電子的な処理が絶妙な配合で溶け合ったサウンド……2010年代以降の嵐がまとっていた爽やかで壮大なサウンドスケープで今作のラストを締める。踊り明かしたショーは、少し寂しげに幕を下ろしていく。
こうして見ると、この期間で彼らが取り組んできたデジタル&海外展開の濃密さが伝わってくる。初回限定盤に収録のDISC2には、昨年12月より過去のシングル曲をリプロダクションする“Rebornシリーズ”で制作された楽曲が収められるなど、他のジャニーズのグループと比べてもかなり“攻めた”活動をしてきたのは一目瞭然だ。しかし、たとえば「カイト」のような普遍性の高い日本語曲を発表したり、活動休止発表後の最初のシングル「BRAVE」に日本の伝統芸能を織り交ぜるなど、国外ばかりでなく国内への意識も垣間見える。こうしたバランス感覚は今後、同じように海外を目指していくであろう後輩グループにとってある種の“道筋”となるのではないか。
■荻原 梓
88年生まれ。都内でCDを売りながら『クイック・ジャパン』などに記事を寄稿。
blog
Twitter(@az_ogi)