有終の美を飾った『ハイキュー!!』 読者に示し続けた“挑戦する姿勢”の美しさ
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2012年2月にスタートした『ハイキュー!!』の最終巻である45巻が11月4日に発売された。8年に渡る連載、シリーズ累計発行部数は5000万部を突破した。多くの人の心を掴み、バレーボール漫画として確固たる地位を築いたと言っても過言ではない。改めてそんな『ハイキュー!!』の魅力について迫ってみる。
『ハイキュー!!』は小柄な少年・日向翔陽が「小さな巨人」と呼ばれる選手が活躍する試合を見て、自らもバレーボールを始める。入学した烏野高校で天才セッター・影山飛雄と共に、その才能を開花させていく。ただ、『ハイキュー!!』で一貫して描かれたのは、才能は勝手に開花するものではないし、天才も何もしなければ凡人だということだったのではないだろうか。
マンガだ、でも現実世界と地続きだ
『ハイキュー!!』の試合シーンはリアルだ。影山と日向の変人速攻だけは作者が考えた技だというが、それ以外は基本的に現実の試合でのプレーを元に描かれている。もちろん見せ方のひとつとして誇張されている部分もあるが、バレーボールの試合としては「あり得ない」ものではないし、「奇跡の勝利」でもない。地道な努力と研鑽によって「実現可能性のある勝利」として描かれた。良いレシーブが目立つものとは限らないし、優秀なセッターはその存在感を消す。田中の言葉を借りれば「現実って地味だ」。
そうやってあくまでもリアルに描写された試合だったからこそ、読者はキャラクターたちと一緒になって勝利を喜び、敗北に唇を噛んだ。
唯一「マンガ的」と言うのだとしたら、キャラクターが皆ひたむきというところか。努力して才能を開花させ、天才たちも天才であるために努力を重ねた。私たちももしかしたら、努力しないことで持っている才能を自らふいにしているかもしれない。天才ではなかったとしても、自分の力を育てられずにいるかもしれない。「才能は開花させるもの センスは磨くもの」とは及川の言葉だ。『ハイキュー!!』は、私たち読者に努力のきっかけを与えてくれているのかもしれない。
歴史が詰まった最終巻(※以下、ネタバレあり)
「あと1セットか2セットか」
「祭りが もうすぐ終わる」
この楽しかった時間がもうすぐ終わってしまう。終わらせたくなくて、思わずページをめくる手が止まる。「どっちが点獲ってもアガる試合観てるウチら 無敵じゃん…?」という田中の姉・冴子のセリフに大きく頷く。リアルタイムでこの物語の結末に立ち会えるのはなんという幸運なんだろう。
影山擁するアドラーズと、日向が所属するブラックジャッカルの試合、第3セット終盤から描く最終巻。プレーひとつひとつにはこれまでの歴史が凝縮されている。
日向はある日突然レシーブがうまくなった訳ではないし、急に宮侑に代わってトスを挙げられるようにはならないし、いきなりジャンプサーブを打てるようにもならない。そこには才能に見あうだけの努力があった。
牛若と日向の因縁や、それぞれの選手の成長の過程が、回想と印象的なセリフと共に回顧されているが、特に印象的なのが横断幕の演出だ。第399話から第400話にかけて、選手たちとそれぞれの母校の横断幕が一緒に描かれている。星海なら『習慣は第二の天性』、木兎なら『一球入魂』、牛若なら『強者であれ』。日向がスパイクモーションで、影山にブロックで飛んでいる駒には『飛べ』。そして、最終話ではアルゼンチン代表としてコートに立つ及川が『コートを制す』の言葉を背負って登場する。
これまでもそれぞれの横断幕の言葉はそのチームの象徴として取り上げられてきていたが、この言葉と選手を見た瞬間に、読者の脳裏には歴史が一気に蘇る。あのときの試合、あのプレーが今のこの瞬間に繋がっているのだと瞬時にさまざまなシーンが押し寄せてくる。
単行本収録に際して、最終話にかなりの加筆がなされている。プラスされたコマとページによって臨場感が格段に増しているのがわかる。(特に及川のラスボス感!)
試合を見守る仲間たちの表情もより生き生きと見えてくる。「世界のブロッカーが最も嫌うスパイカー」と複雑なホメ方をされた日向を見守り、笑顔を見せる月島たち。「おにぎり宮」に集う稲荷崎高校の面々。ページが増したことで北の「どや 俺の仲間皆すごいやろ」のセリフと嬉しそうな笑顔もじっくり堪能できる。
宮城の高校で出会った影山と日向がオリンピックの舞台で跳躍し、ノールックでグータッチをするーー。そんな見開きのページにこみ上げるものがある。
奥付のあとにも、続きが用意されていた。バレーボール男子世界クラブ選手権大会決勝の舞台。再び相対する日向と影山。まるで『ハイキュー!!』の世界は終わらないのだといいたげな演出は、最終巻の最後の1ページだというのに読者の感情を最高潮にまで盛り上げたのではないだろうか。
終わりは寂しい。それでも、この世界のどこかで日向も影山も、みんなプレーを……そして「努力」をし続けているだろう。昨日と同じ自分でいる人間はいない。調子に乗ればセンスは鈍るし、自分は凡人だからとあきらめてしまえば成長などあり得ない。考えてみれば『ハイキュー!!』は、ずっと読者にこう問いかけ続けていた。
ーー昨日の敗者たち 今日のお前は何者だ?
(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))
■書籍情報
『ハイキュー!!』(ジャンプ・コミックス)45巻完結
著者:古舘春一
出版社:株式会社 集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/haikyu.html