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『エール』まるで最終回のような大団円 二階堂ふみの歌声に込められた音楽の素晴らしさ

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 2020年も残すところ、あとわずか。『エール』(NHK総合)の最終回も近づき、どこか寂しさを抱える私たちに第21週「夢のつづきに」は一足早いクリスマスプレゼントを届けてくれた。

 思春期を迎えた華(古川琴音)の子育てが落ち着き、ふたたび歌手になる夢に踏み出した音(二階堂ふみ)。オペラ「ラ・ボエーム」のオーディションでヒロイン役を勝ち取るも、合格したのは音が作曲家・古山裕一の妻で、宣伝になるからという理由だった。自分の実力で選ばれたわけではないことを知った音は舞台を降板。“夢のつづき”が途切れた音に、裕一(窪田正孝)は孤児院・マリア園の教会で慈善音楽会を開くことを提案する。

 音と裕一は昔から何かと“教会”に縁がある。ふたりが知らず知らずのうちに初めて出会った場所も教会だ。そんな思い出の場所で、これまでは生きることに精一杯だった子供たちに娯楽の楽しさを届ける。何より、音の歌が聴きたいという裕一。そのために鉄男(中村蒼)が作詞、裕一が作曲した楽譜を見た音は、少しずつ慈善音楽会に向けて元気を取り戻していった。

 慈善音楽会当日は『エール』のスター大集合! 入り口では歌手の道をまた歩み出した久志(山崎育三郎)と、ようやく彼と結ばれた藤丸(井上希美)がサンタクロースの衣装でゲストを招き入れる。訪れたのは、“ミュージックティ”御手洗(古川雄大)とベルトーマス羽生(広岡由里子)。御手洗と久志はともにしのぎを削った、スター発掘オーディション以来の再会だ。

 それだけではない。音の「東京帝国音楽学校」時代の友人や、かつてライバルだった歌手の千鶴子(小南満佑子)。また、ケン(浅川大治)も加わりすっかり家族の顔になった東京関内家の夫妻、華とその想い人・渉(伊藤あさひ)の姿も。みんなが音の歌を聴くため、クリスマスの日に教会へ集まってきた。

 慈善音楽会では、子供たちが奏でるクリスマスソングから、久志と藤丸による昭和の名曲まで豪華演目が繰り広げられ、ドラマを観ている私たちも教会の観客と心が一体化する。まさかこんな素晴らしい音楽会を朝から堪能できるとは。そしてトリを飾るのはもちろん、音と裕一による演奏だ。まずは裕一が壇上に立ち、客席に向かって挨拶を述べる。

「音楽には、さまざまな力があります。慰めたり鼓舞したり、人はいろんな場面で音楽と関わります。僕は音楽家として、人に喜びをもたらす音楽を皆さんと共有していきたい」

 最後の曲は裕一と鉄男が共作した「蒼き空へ」。裕一が弾くピアノの音色に合わせて、音は生き生きとした姿で歌を観客に届ける。さあ羽ばたけ、途切れたあの夢のつづきへと。まるで裕一と約束した夢のつづきを果たす音の姿を表すかのような楽曲だ。

 オペラの舞台を降板したからといって、つづく道が閉ざされたわけではない。大きなステージだろうが小さなステージだろうが、はたまた上手だろうが不器用だろうが、そんなのは大した差じゃない。作り手、歌手それぞれに歩んできた人生があるからこそ、音楽は心を震わせる。前週の久志もそうだが、どん底を経験した人間だから歌える曲があり、観客に響くものがある。その証拠に、教会にいた観客は涙を滲ませ、またある人は笑顔を浮かべていた。

 慈善音楽会の舞台に立った音の姿は、不思議と父・安隆(光石研)に促されて教会で歌った幼少期の音と重なって見える。心から音楽が好きだという気持ち、目の前の人たちを喜ばせたいという願いが溢れ、これまで歌ってきたどの場面よりも伸び伸びとした音の姿が印象的だった。そんな母の姿に、反発していた華の心も揺れる。吟(松井玲奈)が語った「才能は普通の日常の中にも転がっている」という言葉を、教会にいた人たちに歌でエールを送った音の姿を見て実感したのだろう。作曲家の父や歌手を目指した音のように、目立った才能や大きな目標がなくてもいい。大事なのは、その奥に隠れた誰かを想う気持ちなのだから。

 『あさイチ』でMCの博多大吉が思わず「今日が最終回ではないんですか?」と困惑したように、ある意味『エール』が大きな区切りを見せた第21週。だが、最終回まであと3週間は残されている。最後まで、音楽で彩られた裕一と音の物語を見届けよう。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/