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『鬼滅の刃』猗窩座役はなぜ石田彰だったのか 渚カヲル、我愛羅など過去に演じたキャラとの共通項

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 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』で、煉獄杏寿郎を圧倒しながらも竈門炭治郎に追い込まれる鬼の猗窩座(あかざ)を演じた声優・石田彰。全身入れ墨の禍々しい姿ながら純然たる強さを追い求める猗窩座に、まっすぐで信念を感じさせる石田彰の声が実にハマった。これまでにも『エヴァンゲリヲン』の渚カヲル、『NARUTO-ナルト-』の我愛羅など、主人公に匹敵する人気の高い敵キャラクターを演じて存在感を示してきた石田。キャリアを振り返りながら、「悪役が似合う声」とその魅力を考える。

強さを追求する純粋さから生まれた猗窩座の狂気

 1990年に声優デビューを果たした石田彰は、『スレイヤーズ』のゼロス、『新世紀エヴァンゲリオン』の渚カヲルといった役を演じて名前を知られるようになった。その後『最遊記』の猪八戒、『機動戦士ガンダムSEED』のアスラン・ザラ、『銀魂』桂小太郎など、主人公に準ずる人気キャラを次々と演じて確固たる人気を得た。悪役を演じる機会が多いことで知られ、『FAIRY TAIL』のゼレフ、『働く細胞』のがん細胞、『Fate/Zero』の雨生龍之介などが有名で、直近では『ソードアート・オンライン アリシゼーション』の皇帝ベクタ(ガブリエル・ミラー)や『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の猗窩座は、今後の石田にとっても代表になるであろう存在感を示している。

 これら石田が演じる悪役には、ひとつの共通項がある。それは、行動原理が明確であるということ。たとえばゼレフは不死であるが故に死を追い求め、自分に死を与えてくれる存在としてナツを追い詰めた。皇帝ベクタやがん細胞にとっては、その世界の支配が目的である。猗窩座もまた強さのみを追求するあまり、敵である煉獄の強さを賛辞するシーンもあるほど。何をおいてもひとつのことを追求する行為は、実に純粋だと言える一方で、他人からは狂気的だったり猟奇的な行為として目に映る。悪役ではないが、死に際まで芸の道を究めようとした『昭和元禄落語心中』有楽亭八雲や、自身の料理道を追求した『食戟のソーマ』の司瑛士もまた、同様のことが言えるだろう。

 インタビューで石田は、「猗窩座は強さ至上主義で、キャラの立ち位置的には極端なところにいる」「嫌なヤツと思う人もいれば、それを魅力だと感じてくれる人もいる」と話している。悪役が放つ純粋な輝きは、時として主人公の正義をも凌駕してしまうものだ(引用:『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』猗窩座(あかざ)役 石田彰さんインタビュー 猗窩座は強さ至上主義で狂気さえ感じるキャラクター【第5弾】|アニメイトタイムズ)。

悪役声優界は、個性派のベテラン揃い

 アニメ史上最強の悪役と聞いて、真っ先に浮かぶのはきっと『ドラゴンボール』のフリーザだろう。声優・中尾隆聖が演じたフリーザの声は、甲高く丁寧な口調が逆に嫌味で憎たらしいものの、それがかえって人気となり、フリーザを中心にした映画『ドラゴンボールZ 復活の「F」』が制作されたほど。ほかにも中尾は、『アンパンマン』のばいきんまんや『BLEACH』の涅マユリなどを演じており、声が声が個性的なら演じる役柄も個性的な顔ぶれだ。

 中尾と同様に『ドラゴンボール』のセルや『コードギアス』のシャルル・ジ・ブリタニア皇帝など、独特の巻き舌口調でクセの強い悪役を演じて知られるのが若本規夫だ。あの独特な口調は『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)のナレーションでも聞くことができ、実にユーモラスにも感じるが、こと悪役というキャラクターにおいては得体の知れない恐怖を感じさせる。

 ほかに『ジョジョの奇妙な冒険』のディオ・ブランドー役の子安武人、『ゴールデン・カムイ』の鶴見中尉を演じる大塚芳忠、『ワンピース』の黒ひげを演じる大塚明夫、『ドラゴンボールZ』のザーボンや『食戟のソーマ』の薙切薊を演じる速水奨など。ひと言で誰の声か分かるほどの個性を持った、超が付くほどのベテランばかりが、悪役には名を連ねている。声優の個性の強さは、時として役に入り込めない一因にもなるが、全フリすることでむしろ役を際立たせている。石田の言う「極端さ」は、きっとそういうことなのだろう。またそれを実践するにはかなりのキャリアが必要であることは、悪役を演じているのがベテラン揃いの声優陣であることからもうかがえる。

 声優に限らず、道を極めた役者が口を揃えて言うのは、「次は悪役をやってみたい」ということだ。突き抜けた悪役には人間味に溢れた魅力的なキャラクターが多く、演じがいがあるという。たとえばバットマンの敵役=ジョーカーは顕著で、ほかにもダース・ベイダーやハンニバル・レクターなど、もとは良識ある善人が何かのきっかけで悪に転じた時ほど怖いと感じさせるキャラクターは多い。『鬼滅の刃』に登場する猗窩座をはじめとした鬼も、もとは人間で鬼になった経緯はどれも悲劇的だ。

 映画『ジョーカー』ではジョーカーがいかにして悪に墜ちていったのかが実に生々しく描かれ、主人公を演じたホアキン・フェニックスの日本語吹き替えを、『TIGER & BUNNY』の虎徹を演じて以降、気の良いおじさん役に定評がある平田広明が担当した。平田は『ワンピース』のサンジ役でも知られ、悪と正義が表裏一体であるように、正義の役で輝ける役者は悪役で輝けることがわかる。逆もまた然りだ。石田も同様に両極の役柄を数多く演じているが、これだけ多くの悪役を演じているにも関わらず、悪役声優界ではまだまだ若手の部類に属する。しかしいずれは中尾や若本に代わって、悪役声優界の頂点に立つ日がくるだろう。

■榑林史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。

■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
全国公開中
声の出演:花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、日野聡、平川大輔
原作:吾峠呼世晴(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
コンセプトアート:衛藤功二、矢中勝、樺澤侑里
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:LiSA「炎」(SACRA MUSIC)
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
(c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
公式サイト:https://kimetsu.com
公式Twitter:@kimetsu_off