ソニンと後藤真希、20周年迎えて放つ輝き “つんく♂ファミリー”の隆盛支えた両者の存在感
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ともに20年ほど前にデビューしたソニンと後藤真希の2人が最近話題だ。そこでこの機会に、つんく♂プロデュースでデビューしたという共通点を持つ彼女たちの過去、そして現在に改めて注目してみたい。
ソニンがデビュー20周年を迎え先日リリースした15年ぶりのシングル曲「ずっとそばにいてね。」。この楽曲は、EE JUMPとしての活動を経ての彼女のソロデビューシングル「カレーライスの女」(2002年発売)のアンサーソングになっている。ソニン本人が、自らつんく♂に楽曲作成を依頼した。
「カレーライスの女」は、ある意味伝説の一曲である。ジャケット写真やMVでの“裸エプロン”姿がセンセーショナルな話題を呼んだ。ただそれに隠れがちだが、つんく♂ならではの歌謡曲のエッセンスが感じられる味わい深い楽曲でもある。
「カレーライスの女」の主人公は、演歌の世界にも通じる「待つ女」だ。来てくれなくなった男性。〈終わっちゃった〉と思いながら、女性は〈今の私に何も無い〉とひとり嘆く。しかしひとつだけ彼女に残ったもの、それは男性が好きだと言い、〈私が初めて覚えた料理〉。だから台所に立って久しぶりにそのカレーライスを作ってみる……。
そして今回の「ずっとそばにいてね。」では、〈不安だったけどようやく会えたよね〉と2人は再会する。〈ずっと元気にしてたよ あれから〉〈ありがとう いつも〉と切々と歌い上げるソニンの歌声からは、彼女のファンに対する長年の感謝の思いも伝わってくる。
一方後藤真希のデビューは1999年で、デビュー20周年を迎えたところだ。そんな彼女が、去る9月30日放送の『テレ東音楽祭2020秋』に出演し、AKB48とのコラボ企画に登場した。
放送では、「会いたかった」「フライングゲット」「ヘビーローテーション」といったAKB48の代表曲メドレーを披露。後藤真希は、「一夜限りのセンター」のポジションで堂々としたパフォーマンスを繰り広げ、SNSでも称賛する声が相次いだ。
かつて「アイドル戦国時代」などと言われた頃には、モーニング娘。とAKB48はライバル視された。しかし元をたどれば、AKB48の存在自体がモーニング娘。抜きには語れないところがある。今回共演した柏木由紀がモーニング娘。のオーディションを受けていたことも、番組で紹介されていた。
いうまでもなく、そのモーニング娘。のオーディションでいまも語り草になる鮮烈な印象を残したのが、当時13歳の後藤真希だった。いきなり金髪、細眉のギャル姿で現れ周囲の度肝を抜いた彼女につんく♂は突出した才能を認め、複数合格の予定を変えて単独合格に変更したほどだった。そしてデビュー曲でセンターに抜擢された『LOVEマシーン』(1999年発売)がミリオンセラーになる大ヒットとなったことは、よく知られる。
ソニンと後藤真希がデビューした2000年頃は、まだアイドル歌手にとって活動のメインはテレビだった。『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』(フジテレビ系)や『うたばん』(TBS系)といったバラエティ的色彩の濃い音楽番組の全盛期。2人は、こうした番組をはじめとしてバラエティでもそれぞれ魅力を発揮した。
後藤真希は、見た目のシャープな雰囲気とは対照的に同じメンバーである矢口真里の「矢口」を「知」と勘違いし、「知さんって誰?」と言ってしまうような天然なところが魅力でもあった。一方ソニンは、過酷なマラソンやドミノ倒しの記録に挑戦するなど体を張ってなんでもやるアイドルというポジションに活躍の場を見出した。
だがそこから現在に至るまで、2人の道のりは決して平たんだったわけではない。ソニンは自分のやるべきことを懸命に模索し、舞台の勉強のために芸能活動を休止して長期海外留学をした時期があった。また後藤真希もハロー!プロジェクト卒業後ソロ歌手として活動を続けたが、その後やはり長期の芸能活動休止期間があった。
そしてソニンは、いまやミュージカルを中心に活躍、大きな演劇賞を受賞するほどの存在になった。テレビで紹介されていたが、舞台のために健康管理を徹底する生真面目な姿はとても彼女らしい。一方後藤真希は、芸能界に復帰後結婚・出産を経て、現在はアパレルのプロデュース業のかたわら今年4月にはYouTubeチャンネル「ゴマキのギルド」を開設するなど比較的マイペースな活動ぶりだ。だが先述の『テレ東音楽祭』のパフォーマンスのように決めるところは決める姿は、やはりここ一番のパワーを感じさせる。
かつて著書のなかで、つんく♂はこう言っていた。「ひとつ何かを極めた人間っていうのは、「やればできる」とは思っていても、結果を出すにはものすごい努力が必要だってことも肌でわかってるから、覚悟は人一倍強い。それは、その後なにをやるにしても大きな強みになる」(つんく『LOVE論』)。
ソニンと後藤真希。タイプは異なるが、共通するのは苦労や困難があったとしてもそこから再び立ち上がる生命力、その根底にある「覚悟の強さ」なのだろう。同時にそこに、“つんく♂ファミリー”がいまだに放つ存在感の源もあるに違いない。
■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』、『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。