梶浦由記が生み出す音楽は“時代を照らす光”に 『鬼滅の刃』や『まどか☆マギカ』楽曲に見る、作品世界の表現
音楽
ニュース
大ヒット中の映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』で、LiSAが歌う主題歌「炎」をLiSAと共に作詞し、同楽曲の作編曲を手がけた他、TVアニメ『鬼滅の刃』(TOKYO MXほか)エンディングテーマ「from the edge」(FictionJunction feat.LiSA)の作詞・作曲・編曲、さらに同シリーズの劇伴を椎名豪と共同で行っている梶浦由記。これまで『魔法少女まどか☆マギカ』や『ソードアート・オンライン』シリーズ、『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」』など数多くのアニメ作品の劇伴を手がけるほか、連続テレビ小説『花子とアン』(NHK総合ほか)やミュージカル作品など実写作品の音楽も数多く手がけている。数々の人気作を引き立てる、梶浦の音楽の魅力とは?
シンフォニック、梶浦語……独自のサウンドでヒットを連発
音楽ユニット=See-Sawのメンバーとして1993年にシングル『Swimmer』でデビューした梶浦由記。担当楽器はキーボードで、メンバーには現在作詞家としても活躍する石川智晶がボーカルとして在籍していた。1995年〜2001年の活動休止を経て、2002年に『機動戦士ガンダムSEED』(TBS・MBSほか)のエンディングテーマ「あんなに一緒だったのに」のヒットでその名を知られるようになった。『機動戦士ガンダムSEED』では、FictionJunction featuring YUUKA名義で挿入歌「暁の車」もリリース。両曲は昨年放送された『全ガンダム大投票 40th』(NHK BSプレミアム)にて12位(「あんなに一緒だったのに」)と16位(「暁の車」)にランクイン。特に「あんなに一緒だったのに」は、キャラクターの心情の奥深くを読み取りながら、あくまでもJ-POPの歌詞として昇華させた石川の歌詞のクオリティの高さはもちろん、梶浦による耳に残るキャッチーなメロディと民族的な要素を取り入れたサウンドと巧みなコーラスワークは、FictionJunction以降の梶浦楽曲の試金石となった。
梶浦の活動でもっともエポックメイキングだったのは、Kalafinaのプロデュースだろう。Kalafinaは、梶浦が劇伴を手がけた『劇場版「空の境界」』の主題歌と挿入歌のために結成され、『空の境界』のほか『Fate/Zero』や『魔法少女まどか☆マギカ』といったシリーズ作品など、人気アニメの楽曲を数多く担当した。
中でも『魔法少女まどか☆マギカ』は、それまでのステレオタイプな魔法少女とは異なるダークな内容で社会現象となったが、そうした独特の設定や絵の世界観を表現する上で、梶浦の音楽が大いに貢献した。たとえばKalafina「Magia」は、ヘヴィなロックサウンドを中心に無国籍なシンフォニックサウンドと、縦横無尽に繰り広げられる緻密なコーラスワークの重なりによって、聴く者をミステリアスな異世界へと引き込んだ。
さらに、その魅力のひとつとなっているのが、梶浦語と呼ばれる彼女独自の何語でもない言葉だ。たとえば『歴史秘話ヒストリア』(NHK総合)オープニングテーマ「Historia:opening theme」は有名で、歴史の神秘を紐解くという番組の趣旨を如実に表現していた。この梶浦語はさまざまな楽曲で聴くことができ、『魔法少女まどか☆マギカ』で、ファンの間で通称「マミさんのテーマ」と呼ばれた「Credens justitiam」も同様だ。梶浦楽曲のいわゆるJ-POPの枠を逸脱したサウンドメイクと言語に縛られない表現は、国内はもとより世界で高い評価を得ており、Kalafinaに関しては海外ライブも成功させている。
梶浦楽曲に見出す希望の光
梶浦の楽曲は、常に混沌としたダークな世界の中に一筋の光を見出すような力を持っている。たとえば『Fate/Zero 2ndシーズン』エンディングテーマで春奈るなが歌った「空は高く風は歌う」では作詞作曲を担当。どこか寂しげで鬱蒼とした雰囲気のAメロからBメロで光が差し込み、サビでは壮大なコーラスと共に雄大な広がりを見せ、ドロドロとした戦いの先にあるものを感じさせた。また、アニメ『僕だけがいない街』(フジテレビ系)のエンディングテーマで、さユりが歌った「それは小さな光のような」は、先の見えない展開に残されたわずかな希望が示され、作品を見る者の救いとなった。さらに『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」』第一章・第二章の主題歌で、Aimerが歌った「花の唄」「I beg you」も梶浦が作詞・作曲・編曲を担当。ダークで異国感溢れる梶浦らしい楽曲だが、Aimerのクールで温かみを感じられる歌声によって、梶浦が描いた世界観にさらなる広がりと光をもたらした。
現在大ヒット中の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』主題歌としてLiSAが歌った「炎」もまた同様だ。「炎」は作曲・編曲を梶浦が手がけ、作詞をLiSAと梶浦で共作している。低音から広がるサビと、そこへ向かう畳みかけは、LiSAの楽曲には珍しい構成で、そこには梶浦らしさが表現されている。2番ではサビが登場せず、代わりに歌詞のない、熱いフェイクが心の叫びのように響く。全体に激しく、今にも崩れ落ちそうなほど必死に歌うLiSAのボーカルが印象的だ。そして、最後に一節だけ出てくるスキャットがわずかな希望の光を感じさせる。
思えば『魔法少女まどか☆マギカ』は放送時、東日本大震災によって放送が延期された経緯がある。「炎」がヒットしている現在は、くしくもコロナ禍の最中だ。もちろん、時代と作品に直接の因果関係はない。しかし、世の中が暗く落ち込んだ時、何かにすがりたい、希望を見出したいと思うのは世の常で、そこにあった梶浦の楽曲にそれだけの力と魅力がなければ、こうしたヒットは生まれなかっただろう。混沌とした中に一筋の光を見いだす梶浦の楽曲は、時代ごとに暗闇にいる人々へと差し出される、救いの手なのかもしれない。
■榑林史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。