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『BLEACH』はなぜ“オサレ漫画”と称されたのか? 独創的な世界観を紡ぎ出す、久保帯人の画力とワードセンス

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 漫画『BLEACH』に、どんなイメージを持っているだろうか。面白い、かっこいい、設定が斬新など千差万別だと思うが、「BLEACH=“オサレ漫画”」と認識している人も多いのではないだろうか。確かに『BLEACH』全体にはオシャレな雰囲気が漂っている。では、その“オサレポイント”とはどんな部分を指しているのだろうか。

 そもそも、“オサレ”という言葉にはやや蔑視したようなニュアンスが含まれていた。だが、『BLEACH』にいたってはマイナスの意味がいつの間にか消え、作品の特徴を言い表すワードとなっている。今までにありそうで無かった斬新な作風、洗練されたイラスト、そして非日常感溢れる世界観などが合わさったような意だろう。そんな“オサレポイント”としてまず目に入るのは、作者・久保帯人が描く絵柄だ。連載開始以降メキメキと画力が上がり、見る見るうちにシャープなタッチになっていった。人物の描き分けはもちろん、扉絵の構成や本編とのタッチのバリエーションなども圧巻である。個人的にはれぞれのキャラが持つカラーを際立たせるために、死覇装の黒をベースにする描き方にも魅力を感じた。

 それに付随して、特徴的なコマ割りについても触れたい。以前、『暗殺教室』の作者・松井優征との対談で「(構図は)本当に全然考えてない。あの…勘でやってます。(中略)映像で1話を1回頭の中で作ります。で、カメラ切り替わるみたいなタイミングをコマに描くみたいな感じですかね」と久保が話していたことがある。それを受けて松井も「『BLEACH』の構図やカメラワークは本当に唯一無二」とコメントしていた。確かに『BLEACH』はセリフで状況を伝えるというよりも、目を滑らせるだけで自然と話がわかっていってしまう部分がある。セリフの量も少なく、大きなコマも多いが、久保のセンスが盛り込まれており、今までにない研ぎ澄まされた作風になっているのだ。

 さらに、言葉選びもそうだ。例えば、斬魄刀の解号を見てみると、絶対に日常では使わない言葉が並んでいる。「射殺せ、神鎗」(市丸ギン)、「散れ、千本桜」(朽木白哉)、「霜天に坐せ、氷輪丸」(日番谷冬獅郎)と、つい言いたくなるワードが並ぶ。京楽春水にいたっては、「花風紊れて花神啼き 天風紊れて天魔嗤う、花天狂骨」と、もはや呪文である。この“厨ニ感”溢れるワードが並ぶのも“オサレポイント”の一つであるのだろう。

 そして、セリフの言い回し自体にも世界観がある。「“完璧”であれば それ以上は無い そこに“創造”の余地は無く それは知恵も才能も立ち入る隙がないという事だ」(涅マユリ)、「…あまり強い言葉を遣うなよ 弱く見えるぞ」(藍染惣右介)など、ハッとするセリフが多々登場する。久保が「声に出した時にきれいな響きの音になるように、という意識で書いています」と語ったように、しっかり声に出しながら消化したい言葉たちだ。そして、話題になったセリフと言えば、ヒロインである井上織姫が破面側に行く前、傷を負って眠っている黒崎一護の横で言った言葉だ。「人生が5回ぐらいあったらなあ! そしたら あたし 5回とも違う町に生まれて 5回とも違うものおなかいっぱい食べて 5回とも違う仕事して… それで5回とも… 同じ人を好きになる」。織姫の心境を的確かつセンスよく表していることが伝わり、もはや涙なしには読めない。どんな生活をすればこんなセリフが浮かぶのか、教えてほしいほどだ。

 さらに、『BLEACH』を語る上で欠かせないのはポエムの数々だ。原作単行本の表紙に描かれたキャラクターに関連するポエムが、1冊ずつ掲載されているのだが、それも『BLEACH』の世界観を際立たせることに一役買っている。ほとんどが抽象的であるが、よく噛み砕くことでキャラクターの心情がわかったり、伏線になっていたりする作りなのだ。本編以外の部分にこうした仕込みがされているのは『BLEACH』ならではだろう。まさに繰り返し読みたくなるポエムなのだ。

 画力、コマ割り、言葉選び、セリフの言い回し、ポエム。その他にも『BLEACH』の“オサレポイント”は挙げれば切りがない。そして、その多くが、作者である久保のセンスに起因するところが大きい。できることなら、一度彼の脳内を覗いてみたいものである。

■書籍情報
『BLEACH』(ジャンプ・コミックス)74巻完結
著者:久保帯人
出版社:株式会社 集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/bleach.html