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映画異文化交流の醍醐味! 『オンリー・ザ・ブレイブ』が描く普通の人間とヒーローとしての消防士

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リアルサウンド

 アメリカ合衆国アリゾナ州。乾燥した気候と多発する山火事で有名なこの地で、2人の男が人生の袋小路に迷い込んでいた。1人は青年マクドノー(マイルズ・テイラー)。予想していなかった恋人の妊娠。現実から目を背けるために、ドラッグに溺れる日々を送っていた。もう1人は、森林消防団を率いるエリック(ジョシュ・ブローリン)。経験豊富かつ凄腕だが、彼の消防団は「市」のレベルであり、現場での発言力は弱く、「国」に選ばれた“ホットショット”と呼ばれる精鋭隊に煮え湯を飲まされる日々を送っていた。「このままではダメだ」。そう決意したエリックは、自身の部隊をホットショットまで鍛え上げることを決意する。一方その頃、マクドノーは生まれたばかりの我が子を見つめ、善き父となるべく人生を変えようと決意する。一大決心とともに彼が戸を叩いたのは、エリック率いる森林消防団、後の“グラニット・マウンテン・ホットショット”だった……。過酷な訓練、死と隣り合わせの現場、そして次々と現れる悩みの種。これは実際に起きた未曽有の大災害をベースに、炎と戦うことに人生をかけた人間たちの物語である。

参考:イメージが覆される驚きの多い作品に 『オンリー・ザ・ブレイブ』の“おそろしき美”

 海外の映画を見る楽しみの一つに、自国と全く異なる環境・立場・価値観の人間の存在を認知できる、という点がある。本作『オンリー・ザ・ブレイブ』(17年)は、まさにこうした異文化交流の楽しみに満ちた1本だと言えるだろう。そもそも「山火事」という題材自体、日本ではあまり馴染みがない。もちろん日本でも起きているのだが、本作に登場するような、街を飲み込む大規模火災は極めて珍しい(消化の方法からして全く違うので、事前に山火事の情報を得てから劇場に向かうことをオススメする)。加えて、この映画に登場する消防士たちは絵に描いたようなアメリカなタフ・ガイたち、しかもゴリゴリの体育会系だ。筆者のような陰険な人間が加わったなら、それはもう5秒で胃潰瘍待ったなし。常に陽気かつパワハラ紛いのジョークを連発し、腕立て100回は基本の鍛え方をしている集団だ。お祝い事があればバーに集まって、お偉いさんが歌うカントリー・ソングで大盛り上がり(歌うはジェフ・ブリッジス!)。多くの日本人にとって、彼らの生活その物が新鮮に見えるだろう。

 しかし、本作はこうした特殊な環境で生きる、ある意味で現実離れした人々が持つ小市民的な面を描くのを忘れない。父となった男の苦悩、夫婦の子作りの問題、ワーク・ライフ・バランスや、あるいは熱を出した赤ん坊の世話と言った日常の一幕的事件まで、細かなエピソードを積み上げていく。ここで描かれる彼らの日常は、万国共通、恐らく日本人でも十分に共感できるはずだ。観ている内にやがては、さすがにアメリカ過ぎると遠くに思えたグラニット・マウンテン・ホットショットの面々が、まるで近所の気のイイ兄ちゃんたちに思えてくるだろう。全く異なる文化に生きる人々に自分を重ね見る。まさに映画異文化交流の醍醐味だ。

 このような暖かい人間ドラマを描く一方、本作の山火事の描かれ方は映画史上屈指の恐ろしさだ。白眉はそのスピード感であり、筆者が特に恐怖を感じたのは「飛び火」である。風で飛び散る小さな火。しかし、その火が湿度一桁の乾燥地帯では、あっという間に大きな炎に膨れ上がってゆく。まるで『エイリアン』(79年)の酸性の血液のように、僅かな一滴が致命傷になる恐怖がある。しかも飛び火は四方八方から無数に飛んでくるのだ。手がつけられないとは、まさにこういうことを言うのだろう。監督のジョセフ・コシンスキーは、過去にも『オブリビオン』(13年)などで美術に拘りを見せた人物だが、今回は撮影のため実際に燃やす用の森を作るダイナミックな決断を下している。本作の迫力と臨場感は、間違いなく彼の英断のおかげだろう。

 こうした恐怖しかない火災現場に、先に述べたような気のいい兄ちゃんたちが突っ込んでいくのである。その背中に声援を送りたくなるし、立ち塞がる過酷な現実には胸が締め付けられる。消防士という特殊な職業を、喜怒哀楽を持つ普通の人間として、そして人々のために火の中へ突っ込んでいくヒーローとして、最大限の敬意を持って描き切った傑作だ。(加藤よしき)