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綾野剛、『MIU404』とはまた異なる刑事役に 『ドクター・デスの遺産』で考える死生観

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リアルサウンド

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、病気よりも病院が怖い安田が、『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』をプッシュします。

『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』

 130人もの患者を安楽死させた実在の医師をモデルに描かれたクライム・サスペンス小説を実写映画化する本作。原作者の中山七里は、今年に入ってから『護られなかった者たちへ』が佐藤健主演で映画化が発表され、『連続殺人鬼カエル男』(カンテレ)、『サイレーンの懺悔』『夜がどれほど暗くても』がWOWOWでドラマ化、『作家刑事毒島』もテレビ東京で単発ドラマ化と、積極的にメディアミックスが進んでいます。今後さらに映画界・ドラマ界において存在感が増していくことでしょう。

 主演を務めるのは、綾野剛。綾野剛による刑事モノというと、9月に放送が終了し、ドラマファンの間で大きな話題となった『MIU404』(TBS系)を思い返さずにはいられません。

 『MIU404』で綾野が演じた伊吹藍は、直感で突っ走る野生のデカでしたが、今作で演じる犬養もまた破天荒直感型の刑事とどこか似た雰囲気を感じます。しかし伊吹と犬養は、属性こそ共通していますが、芯に秘めるものや、人間性は全く異なります。似た役柄のようで全く違うキャラクター像に濃淡をつけて表現しきるのも、さすが俳優・綾野剛といったところでしょうか。

 そんな犬養の相棒・高千穂を務めるのが北川景子。『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』に特別出演もしていますが、きちんとスクリーンで姿を見せるのは約1年ぶり。日本映画界を代表する演技派によるタッグは、スクリーンを非常にリッチなものにさせてくれます。リアルサウンド映画部で行ったインタビュー(参考:綾野剛×北川景子が築き上げた“完全シンクロ”な関係性 同期のような居心地の良さを明かす)では、その築き上げられた連帯感について、綾野さん、北川さんそれぞれの言葉で振り返ってもらっています。

 闇サイトで依頼を受け、人を安楽死させる連続猟奇殺人犯ドクター・デス。警視庁No.1コンビである犬養と高千穂は、捜査に乗り出しますが、被害者遺族はドクター・デスに感謝し、嘘の証言で捜査を撹乱します。

 徐々に明らかになっていくドクター・デスの手がかりと、はたしてドクター・デスは猟奇殺人犯なのか、救いの神なのかという問い。このあらすじを読んだとき、ふと頭をよぎったのは、手塚治虫が生み出した漫画『ブラック・ジャック』におけるドクター・キリコでした。

 ドクター・キリコは、金さえ払えばどんな患者も助ける無免許の天才外科医ブラック・ジャックに相対する医者。ブラック・ジャックは命を助けるのに対し、ドクター・キリコが施すのは安楽死。その行動には一本筋の通った理念があることが、彼をただの悪役ではなく非常に人間的な理性を備えたキャラクターへと昇華させているのですが、今作におけるドクター・デスと、行動そのものは非常に似通ったのも感じさせます。

 しかし、ドクター・キリコとドクター・デスには大まかな点で似通った理想が感じられつつも、本質には全く違うものを抱えています。果たして安楽死が本当に法律で禁じられるべきものなのか、観終わったあとも思考は止みません。日本ではいまだ認められていない安楽死。社会的是非については、議論は絶えませんが、本作を観ることでその一端を考えるきっかけにはなるのではないでしょうか。北川景子演じる高千穂がラストシーンで呟くある言葉が、その全てを物語っているようにも感じます。

■公開情報
『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』
全国公開中
原作:中山七里『ドクター・デスの遺産』(KADOKAWA/角川文庫)
監督:深川栄洋
出演:綾野剛、北川景子、岡田健史、前野朋哉、青山美郷、石黒賢ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2020「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」製作委員会
公式サイト:doctordeathmovie.jp