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泉澤祐希、途中登場でも『エール』を背負える人に 典男の背景を滲ませる佇まい

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 今週のNHK連続テレビ小説『エール』は「ふるさとに響く歌」と題され、各々の弟にまつわる物語が繰り広げられた。新たなキャラクターも多数登場し、作品を盛り上げる。

 自身の複雑な家庭環境から、家族にまつわる歌詞を書けず苦労していた鉄男(中村蒼)。裕一(窪田正孝)とともに、母校の校歌を作り、そのお披露目会に出るために福島に帰ったことで、大きく道が拓ける。これまで家族について、兄弟について語ってこなかった鉄男だが、この里帰りを通して裕一に家族のことを話す。そして母校で講演をしたことがきっかけとなり、長い間離れ離れになっていた弟の典男と再会を果たすのであった。そんな典男を演じたのは、朝ドラ4度目の出演となる泉澤祐希だ。

 5歳でデビューした泉澤は子役時代から様々なドラマで活躍し頭角を現す。『白夜行』(TBS系)で山田孝之演じる主人公・桐原亮司の幼少期を演じた子役と言えば、ピンとくる視聴者も多いだろう。泉澤と福田麻由子の芝居の巧みさは、そのセンセーショナルなストーリーも相まって、当時かなりの話題になった。また、NHK連続テレビ小説においては『すずらん』で主人公の兄弟役の幼少期を務め、その後、『マッサン』に出演、『ひよっこ』ではオーディションを勝ち抜き、有村架純演じるヒロインの幼なじみ役を手に入れるなど、一歩ずつ着実にキャリアを積み上げている。

 さらに泉澤はNHK大河ドラマでも活躍しており、『功名が辻』、『花燃ゆ』、『西郷どん』に出演。その後も『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)、『少年寅次郎』(NHK総合)にレギュラー出演するなど活躍の場をどんどん広げている。今回の『エール』では、出演時間こそ短いものの鉄男の生き別れていた弟という重要な役を務め、福島弁の床屋の亭主役を熱演した。

 今回泉澤が演じた典男は、限られた時間の中で、複雑な生い立ちや兄への負い目、再会の喜びなど表現しなければならない感情がたくさんあった。さらにどれもが現代ではなかなか体験しないような壮絶なものであり、演技力がものをいうシーンばかりである。しかしそんな中でも、流暢な福島弁を披露し、福島で床屋の亭主として身を立て、家族を持っている男というバックボーンを表した。鉄男と再会した折には、涙を流しながら複雑な心中を吐露するなど、心を揺さぶる熱い芝居を見せる。

 印象深いのは、鉄男がイワシを好きだったことを覚えており、食卓を囲む中でイワシを分け与えようとする場面。久しぶりに会った兄弟がお互いを思いやり、不器用ながらも兄弟愛を伝え合おうとする微笑ましいシーンとなった。こうした何気ない日常の一コマさえ、愛しく暖かいものへと表現する真っ直ぐな芝居は、泉澤の持つ演技力のたまものだろう。

 典男との再会で、鉄男の心のわだかまりがスッと溶ける。進まなかった筆も進むようになり、今まで受けずにいた仕事も引き受けるようになった。これまで久志のように、背景が語られることのなかった鉄男の辛い生い立ちが描かれたが、ここから鉄男はさらに前をむき、大きく前進していくのであった。福島三羽烏が苦難を乗り越えながらそれぞれの道を歩み、活躍していく姿に胸が躍る。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、中村蒼、山崎育三郎、森七菜、岡部大、薬師丸ひろ子ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/