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捨てられた命を守りたい……3人のおじさんたちに愛された「河原猫」とは

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 こんなにも優しく、考えさせられる命の物語があったなんて……。『おじさんと河原猫』(太田康介/扶桑社)を読み終えた後、とても感慨深い気持ちになった。人を信じ、愛した猫と猫を心の底から愛した人……。彼らの交流から私たちは、命の尊さを学ぶ。

居場所をなくして多摩川の河川敷で暮らす「河原猫」

 東京と神奈川の県境を蛇行するように流れる、多摩川。その河川敷には多くのホームレスと生き場を失った猫たちが暮らしている。ここにいる猫たちが野良になった理由は様々。ホームレスをあてにして捨てられたり、堤防やマンションができたことで居場所を無くしたりし、「河原猫」となったのだ。

 そんな猫たちのお世話をしていたのが、加藤さんというひとりのおじさん。加藤さんはご飯をあげるために1日2回、3kmほど離れた自宅から毎日軽トラックに乗り、河原に来ていた。しかし、決して良いとは言えない住環境を見かね、ボランティアさんと協力し、猫たちを保護。里親を探すことにした。

 そんな出来事を著者の太田氏は、いちカメラマンとして客観的に伝えるつもりだったよう。しかし、ある1匹の白猫に出会い、心境に変化が……。それがシロちゃんだった。

 シロちゃんは気が向いた時にだけ河原にやってきては、加藤さんと交流。心の触れ合いをした後は帰っていく加藤さんを愛おしそうに見送り、寝床にしている小さな公園へひとりで帰っていく。その姿を目にした太田氏は胸がしめつけられ、「この子を我が家に迎えよう」と決意。保護に踏み切った。

 一番の心配は、すでに自宅にいる2匹の先住猫たちと上手く関係を築けるのかということ。太田氏は7年間ずっと外で暮らしてきたシロちゃんの気持ちを汲みつつ、ゆっくり時間をかけ、家に慣れてもらうことにした。

 本書にはその過程が写真付きで収められているのだが、時が経つごとにシロちゃんの表情がどんどん柔らかくなっていくのが印象的。野良から“うちの子”になっていく様を見ていると、なんとも言えない感情がこみあげてくる。

 面倒を見ることができなくなったから。病気になってお金がかかるから。理想と違ったから。……そんな身勝手な理由で捨てられる命はまだまだ多く、私たちが暮らしている社会は動物に優しいとは言いがたい。けれど、その一方で小さな命を助けたいと思い、奮闘している人がいることもたしかだ。

 例えば、本書に登場する高野さんもそのひとり。ホームレスの高野さんは空き缶を集めた収入で猫のフード代を捻出。ボランティアさんたちと協力し、多摩川で13年間、犬猫の保護活動に勤しんでいた。

 しかし、昨年、悲劇が。台風19号が日本を襲った際、お世話していた猫と共に、増水した河川に飲み込まれてしまったのだ。おそらく、長年気にかけてきた猫たちを何とかして守りたいと思ったのだろう。遺体が見つかっていないため、高野さんは現在、行方不明という状態。だが、奇跡的に生き残った3匹の猫たちはそんなことなど知らず、ボランティアさんのお世話を受けながら、再び高野さんに会える日を待ちわびている。

 自分の命を投げ捨ててでも小さな命を守り抜きたかった、高野さん。彼の13年間は、ゴミのように動物の命を扱う人の目にはどう映るのだろう。そして、毎日ご飯を欠かさずにあげ続けてきた加藤さんの努力や、シロちゃんを家族の一員として迎えた著者の想いはどう響くのだろうか。

 なお、太田氏に迎えられたシロちゃんは2017年に小脳に障害が見つかり、その後、寝たきりの状態になったが、最後まで愛されながら家猫としてニャン生を全うした。本作に収められている闘病記録は可哀想なものではなく、愛された証だといえるだろう。

 シロちゃんに向けた太田氏からの、最後のラブレター。そんな風にも受け取れる本書には、ひとつの命と真摯に向き合う人々の猫愛が詰め込まれている。ここからあなたは、どんなことを学ぶだろうか。

■古川諭香
1990年生まれ。岐阜県出身。主にwebメディアで活動するフリーライター。「ダ・ヴィンチニュース」で書評を執筆。猫に関する記事を多く執筆しており、『バズにゃん』(KADOKAWA)を共著。

■書籍情報
『おじさんと河原猫』
著者:太田康介
出版社:扶桑社
出版社サイト(商品情報ページ)
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