君島大空、青葉市子、Serph、DJ TASAKA、Machinedrum……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜9選
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毎回エレクトロニックな新作から選りすぐりの作品を紹介するこの連載ですが、今回は日本人アーティストによる秀逸な作品が揃いました。
青葉市子『アダンの風』
青葉市子の2年ぶり7枚目のアルバム『アダンの風』(piano/hermine/SPACE SHOWER MUSIC)。活動10年目を迎えた彼女のレーベル移籍後第一弾となる作品。沖縄長期滞在経験をもとに彼女が執筆した物語を元にした「架空の映画ためのサウンドトラック」です。作編曲のパートナーとして抜擢されたのは、milk名義でソロアルバムをリリースしているほか、TVアニメや劇映画のサントラ、CM音楽、原田知世とのコラボなどで知られる梅林太郎。アコースティックでナチュラルなサウンドとエレクトロニックなトリートメントが絶妙にブレンドし、従来のガットギターによる弾き語りにとどまらず、古楽や室内楽、教会音楽を横断するネオクラシカルからアンビエント〜ゴシック〜ポストロック〜プログレッシブロックにまで通じる、奥行きと広がりのある優雅かつ濃密なサウンドを実現しています。彼女の幽玄でミステリアスなボーカルと梅林の緻密でしなやかなトラックの相性は抜群。彼女の数多い作品の中でもベストに近い出来ではないでしょうか。年間ベスト級の大傑作の誕生です。収録曲「Porcelain」のMVも素晴らしい。12月2日発売。
君島大空『縫層』
昨年の1st EP『午後の反射光』で、新世代のシンガーソングライターとして注目を浴びた君島大空の新EP『縫層』(APOLLO SOUNDS/ULTRA-VYBE)。彼もまた青葉市子同様、ガットギターの弾き語りを基本とする音楽家ですが、そこにワンマン録音でさまざまな音を加えることで、言葉で伝えきれないイメージを補完していくというやり方は前作同様ながら、今作ではアレンジや音色が多彩かつカラフルになり、サイケデリック/カオティックでありながら力強く、音数は多いのに明快で明瞭、ポジティブなエネルギーを感じる作品となっています。「合奏形態」と称したバンド形式での演奏も収められており、ロック色が強まっているのも今作の特徴と言えるでしょう。楽曲のポップ度も最高ですが、それをひとひねりもふたひねりもして、こんなに奇妙な音像を作るのもすごい。改めて、凄まじい才能だと痛感しました。
Serph『Skylapse』
Serphの新作『Skylapse』(noble)。フルアルバムとしては2年半ぶりですが、その間に9カ月連続のシングルリリースとそれをまとめたアルバム、さらに3枚のミニアルバム、ディズニーソングのカバー集、DE DE MOUSEとのコラボ作やゲストボーカリストを迎えたシングルなど、きわめて大量の作品を絶え間なく出し続けていて、しかもクオリティが全く落ちないのだから驚きです。今作は、本人の意識としてはかつてなくメロディ重視の聴きやすいアルバムを狙ったようですが、Serphらしいポップ性と実験性が絶妙にバランスしたエレクトロニカは相変わらず抜群の完成度。冬の空をテーマにしたという舞い降りるダイヤモンドダストのようなキラキラと輝くサウンドは、ドリーミーでファンタジック、それでいてロマンティックです。12月2日発売。
DJ TASAKA 『Goodie Bag』
DJ TASAKAの5年ぶり新作が『Goodie Bag』(UpRight Rec.)。実に彼ららしいファンキーでグルーヴィでラテンなディスコ〜エレクトロ〜レイヴが炸裂した、文句なしに楽しい一作。コロナ自粛下におけるダンスミュージックのあり方にはさまざまな意見があると思いますが、あくまでもパーティミュージックをやり続けるというTASAKAの決意表明と見ました。ノンストップDJミックス仕様のCDは1500円+税と格安。一家に一枚どうぞ。
Chihei Hatakeyama & Dirk Serries『BLACK FROST』
日本のアンビエントミュージックの第一人者、畠山地平がベルギーのベテラン実験音楽家ディルク・セリーズ(Dirk Serries)と組んだアルバムが『BLACK FROST』(GLACIAL MOVEMENTS)。2人のコラボは4年前の『The Storm of Silence』以来2作目ですが、前作同様、北欧の氷河をテーマにした作品で、ダークで冷たいドローンアンビエントながら、オーロラの淡い光が乱反射するようなディープで美しい作品に仕上がっています。最近、国内外問わずドローン〜アンビエント作品が本当に数多くリリースされていて、やや玉石混交気味ですが、イマジネーションの豊かさと音像の奥行きの深さは、さすがに他の凡百の及ぶところではありません。
Rian Treanor『File Under UK Metaplasm』
英国の名門レーベル<Warp>を生んだシェフィールドは、オウテカやLFOを生んだ世界屈指の電子音楽都市ですが、その最新の嫡子がリアン・トレーナー(Rian Treanor)。この連載でも1stアルバム『Ataxia』を紹介しましたが、それに続く2作目が『File Under UK Metaplasm』(Planet Mu)です。前述の記事では「ジューク/フットワークをIDM的に結晶化したようなエクスペリメンタルテクノ」と書きましたが、今作はタンザニアのストリート発ダンスミュージック、シンゲリに触発されて作られたそう。前作がお行儀良く聞こえるぐらい、さらに荒々しくストリート感たっぷりのワイルドでエネルギッシュなサウンドは、ちょっとヤバいぐらい強烈な刺激に満ちています。こういう音楽こそがエレクトロニックミュージックを前に進めるのだと思います。爆音再生を強くオススメ。前作以上の必聴作。
Stazma『Fluorhydrique EP』
もうひとつ強烈なやつを。フランスのプロデューサー、ジュリアン・ギルモットのプロジェクト、スタズマ・ザ・ジャングルクライスト(Stazma The Junglechrist)がスタズマと改め、EP『Fluorhydrique EP』(Defunkt Records)をリリース。アシッド+ドラムンベース+ブレイクコアというスタイルはスクエアプッシャーからの影響が大きそうですが、スクエアプッシャーのようなジャズ色はなく、より振り切った感じのエクストリームで暴力的とも言えるブレイクビーツは、さすが元ヘヴィメタルバンドをやっていただけのことはあります。今年出たアルバム『Shapeshifter』よりも、こちらはブレイクコアとして徹底度が増した感じで痛快です。
Krust『The Edge Of Everything』
シェフィールドにおけるリアン・トレーナーの大先輩、ジャングル〜ドラムンベースの創始者のひとり、クラスト(Krust)の14年ぶりとなる新作が『The Edge Of Everything』(Crosstown Rebels)です。ダークでありながらシャープで、切れ味鋭いブレイクビーツとフロアを揺るがす重低音の迫力が素晴らしすぎます。長い活動休止期間があったとは思えない、現役感覚バリバリのリアルベースミュージックの真髄。英国を代表するテックハウスのレーベル<Crosstown Rebels>からのリリースというのも面白い。
Machinedrum『A View of U』
LA拠点のプロデューサー、トラヴィス・スチュアートのプロジェクト、マシーンドラム(Machinedrum)の9作目が『A View of U』(Ninja Tune)です。エレクトロニカからジャングル〜ドラムン、ジューク、ヒップホップやグライム、EDM、UKベースまで串刺しにする研ぎ澄まされたビートとともに、メロウでエモーショナルなR&B〜ポップスとしても秀逸な出来。キャリアの蓄積を感じる手練れの作品です。
ではまた次回。
■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebook/Twitter