広瀬すず、大竹しのぶ、成海璃子、高橋克実らが熱演! 『世にも奇妙な物語』が投げかけた幸福の形
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「人間は幸福の二倍、不幸に遭う”」(ホメロス)
タモリがストーリーテラーとなり、視聴者を摩訶不思議な世界へといざなうオムニバスドラマ『世にも奇妙な物語』。毎回豪華なキャストとクリエイター陣が集結し、現代に生きる私たちにも何かを問題定義するかのようなドラマを送り出してきた本シリーズが今年30周年を迎え、『世にも奇妙な物語’20秋の特別編』(フジテレビ系)として11月14日に放送された。
今回の新作は“特別な力”を持つ4人の男女が主人公となり、その力で得た幸福の代償が最後に描かれた。
『コインランドリー』
まずは、濱田岳が主演を務める『コインランドリー』。濱田が演じたのは、派遣切りにあったフリーターの橋本学。彼はある日、コインランドリーで就活に悩む大学生・近藤亜美(岡崎紗絵)に出会う。いつも同じ場所で会う橋本に少なからず好意を寄せている様子の近藤と、そんな彼女に不器用ながら肩の力を抜くようアドバイスする橋本。2人がつかず離れずの距離感でラブストーリーを展開し、前半は穏やかな時間が流れる。橋本がそのまま近藤との出会いを糧に新たな一歩を踏み出せば、幸せな結末が訪れるはずだった。
最初の主人公が得たのは、コインランドリーで見つけた乾燥機の前で欲しいものを呟くと、それがドラムの中から出てくるという力。最初は些細なものだったが、人間の欲望とは怖いもの。不器用だけど心優しい普通の男が“金と女”を手に入れ、欲望に支配されていく姿を演じた濱田の演技が恐ろしいほどにリアルだ。けれどホメロスが言ったように、幸福を得た人間には2倍の不幸が襲う。近藤が乾燥機の前で力を得る前の橋本を求めたことで、今度は彼自身がドラムの中から出てくることに。欲しいものが手に入る乾燥機の条件は1つ、“そこから出てきたものは翌朝消えてしまう”。実に『世にも奇妙な物語』らしい、心にモヤがかかるラストだった。
『タテモトマサコ』
濱田と同じく、欲に支配された人間を演じたのが芸歴47年のベテラン女優・大竹しのぶだ。大竹扮する館本雅子は、自分が放った言葉が現実にも影響を及ぼす“言霊の力”を持ったミステリアスな女性。普段は物静かで害のない人間ではあるが、目的のためなら言霊で人を殺すことも厭わない残酷な一面も。そのため、自分の横領を知ったもう一人の主人公・志倉楓(成海璃子)の婚約者を自殺という形で死に至らしめる。都合の悪い真実をいとも容易くかき消していく雅子。常に無表情で淡々とした喋り口調がなんとも不気味だ。特に雅子が個室のトイレで一点を見つめながら自分自身と会話する場面では、“女優・大竹しのぶ”の底力を再認識させられた。
そんな雅子に勇気を持って立ち向う楓を爽快に演じきった成海も、大竹の影に埋もれることなく存在感を放つ。言霊で記憶を消されてもなお、最後は涼しげな笑顔で反撃開始。「館本雅子のことは忘れなさい」という雅子の言葉を録音したデータを会社中にばらまき、同僚はおろか雅子自身の記憶から“館本雅子”の存在を無きものにした。人間には多かれ少なかれ、言霊の力が備わっている――。雅子ほどの力はないにしろ、言葉の力は思っている以上に大きい。自分の放った言葉が誰かを傷つけ、取り返しのつかない事態に発展することも。
「自分の言葉にはちゃんと責任を持たないとダメですよ。言葉っていうのは残るんです、ちゃんと。一度残ったものは消えないんです」
自分の言葉に首を絞められた雅子の台詞だけは、私たちも心に刻んでおきたい。
『イマジナリーフレンド』
一般的に幼少期に現れるという空想上の友達“イマジナリーフレンド”を題材とした3作目の主演は広瀬すず。広瀬は、臨床心理学を専攻する大学生の原田早希を演じた。早希は幼なじみの友達がいじめに遭っているにもかかわらず、何もできない自分への劣等感から幼い頃に見えていたイマジナリーフレンドのユキちゃんを生み出す。ユキちゃんはうさぎのぬいぐるみの姿を借りた愛らしいキャラクターだが、時として早希を恐ろしい現象に巻き込む一面も持ち合わせていた。実際に心理学では、イマジナリーフレンドが本人の意思に逆らって暴走する危険性も明らかとなっている。
なぜユキちゃんは友達である早希を傷つけようとするのか、なぜ今になって早希の目の前に現れたのか。それは、ユキちゃんの正体が幼い頃に亡くなった早希の姉であり、悪い同級生から騙されそうになっている彼女を心配していたからだった。そうとも知らずイマジナリーフレンドの存在を疎ましく思った早希は真実を知り、ユキちゃんに消えないでと願う。けれどイマジナリーフレンドは心の成長を手助けする存在であり、いつかは消えゆくもの。「本当に大切なものは目に見えない」。『星の王子様』のセリフを残して消えたユキちゃんの言葉を胸に、早希はいじめられていた幼なじみを救った。目には見えない存在を相手に、豊かな表情を見せた広瀬の演技力が光る1作。他の3作とは異なり、ハッピーエンドで終わった『イマジナリーフレンド』は心温まる人間ドラマを見せてくれた。
『アップデート家族』
最後は、高橋克己が哀愁漂う父親をコミカルに演じた『アップデート家族』。普段から私たちはスマホやアプリをより快適に使用するため、頻繁にデータを最新の状態へ更新し続けている。本作はその“アップデート”が人間にも適用できたら?という実験的な作品だった。
高橋扮する黒崎家の父・睦夫は、折り込みのチラシで見つけた「ファミリーアップデーター」という新製品を使い、自分の家族を理想的な姿に変えていく。稼ぎの少ない自分にキツくあたる妻は5人の美しく従順な妻に、反抗的な長男は幼い次男と併せて新たな生き物“アニョート”に。クスリと笑える展開ではあるが、自分の大切な家族が全く別の姿形になっても幸せそうな高橋の不気味な笑顔に身の毛がよだつ。
また、本作で注目だったのは黒崎家の長女役・吉川愛の怪演ぶり。彼女は父の暴走にテンポ良くツッコミを入れる役割を担いながら、最終的に自分もファミリーアップデータを活用し、父を理想的な姿に変えるというもう一人の主人公を見事に演じきった。最初はアップデートに翻弄されていた女の子が激昂する姿に誰もが震えたことだろう。何より家族に理想を押し付けた父親が自分もアップデートされてしまうなんて皮肉な展開だ。
4つの物語を通して、幸福とは何かを問いかけた『世にも奇妙な物語’20秋の特別編』。今年は現実世界でも幸せの定義が大きく揺れた一年だっただけに、私たちの心にも物語の結末が教訓となって返ってきた。大切なのは特別な能力はなくとも、己が持てる底力で本当に望む道を切り開いていくことなのかもしれない。私たちはみんな、500兆分の1の確率で生まれた命なのだから。
■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter
■作品情報
土曜プレミアム『世にも奇妙な物語 ’20秋の特別編』
フジテレビ系にて、11月14日(土)21:00~23:10放送
ストーリーテラー:タモリ
『タテモトマサコ』
出演:大竹しのぶ、成海璃子、森高愛、小松和重、佐伯大地、浦まゆほか
脚本:山岡潤平
原案:荒木哉仁
演出:小林義則
『アップデート家族』
出演:高橋克実、吉川愛ほか
原作:『アップデート家族』チョモランマ服部(集英社『ジャンプルーキー!』)
脚本:向田邦彦
演出:北坊信一
『コインランドリー』
出演:濱田岳、岡崎紗絵、コロッケほか
原作:『ロッカールーム』鈴木祐斗(集英社『少年ジャンプ+』掲載)
脚本:遠山絵梨香
演出:松木創
『イマジナリーフレンド』
出演:広瀬すず、堀内敬子、岐洲匠、横田真悠、夏子ほか
脚本:荒木哉仁
演出:植田泰史
編成企画:渡辺恒也、狩野雄太
プロデュース:小林宙、中村亮太
制作:フジテレビ
制作著作:共同テレビ
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/kimyo/