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『危険なビーナス』伯朗、楓、明人の三角関係が加速? 物語を動かす複数の視点

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 手島伯朗(妻夫木聡)と矢神明人(染谷将太)の母・禎子(斉藤由貴)は、矢神家の人間によって殺された。祥子(安蘭けい)から聞かされた事実に伯朗は耳を疑う。『危険なビーナス』(TBS系)第6話は、散りばめられた点と点がつながって、うっすらと向こうにあるものの輪郭が見えてきた。

 禎子が亡くなったのは16年前。実家の浴槽で足を滑らせ、妹の順子(坂井真紀)に発見された時にはすでに息がなかった。死亡時、家には内鍵がかかっておらず、不審に思った明人は禎子の死の理由を探っていた。禎子が亡くなる少し前には、明人の祖父である康之介(栗田芳宏)が亡くなっており、禎子の死は、矢神家の遺産争いと関係があると思われた。康之介の遺言には全財産を孫の明人に譲ると記されていたからだ。

 時が経ち、康治(栗原英雄)が寝たきりになり、相続をめぐる親族間の緊張が高まったタイミングで明人は姿を消す。これにより、明人の失踪が禎子の死とつながっているのではないかという疑問が生じる。また、明人が相続する財産には、牧雄(池内万作)が言う「もっと価値があるもの」も含まれていると考えられる。もしそうなら、母親の禎子も価値があるものの正体を知っていたはずだ。

 『危険なビーナス』をおもしろくし、また、わかりにくくしている要因として、仮定に仮定を重ねるような入り組んだ設定に加えて、複数の視点が同時並行的に動いていることが挙げられる。親族たちは各自の思惑を持って伯朗と楓(吉高由里子)に接する。ただでさえ登場人物が多い上に、それぞれが秘密を抱えており、それらがどんな形で明人の失踪に結び付いているかも不明。すべてを知っている(はずの)康治は口を開かず、禎子も鬼籍に入った今、残された親族は手探りで謎と向き合わなければならない。それは視聴者も同様だ。

 もどかしさと先の見えない不安なムードを和らげているのが、伯朗と楓の即席コンビだ。なんだかんだ言って、2人の掛け合いが本作を引っ張っているのだが、そんな2人にも秘密はあって、楓は伯朗に知らせずに勇磨(ディーン・フジオカ)と会い、伯朗も楓に黙って百合華(堀田真由)の相談に乗る。義理の兄妹という関係だが、血のつながらない伯朗と楓の関係は、決して一線は超えないというルールの下でする疑似恋愛に例えられる。秘密は恋愛のスパイスであり、ケンカして仲直りする場面は2人の関係を物語っていた。

 とはいえ、明人がいなければ、伯朗と楓の絆が失われてしまうことも事実。「明人君のためなら、なんだってやります」と楓は言い切り、明人も伯朗とのつながりを強調する。第6話では明人の生存も確認されたが、伯朗と楓、明人の三角関係も加速しそうだ。

 さて、眠り続けた牧雄は突如復活したかと思うといきなり失踪。転落と失踪の合わせ技に加えて、価値ある財産に執着を見せ「人類の未来」を探す牧雄は、確実に何かを知っていそうだ。波恵(戸田恵子)の「一人の人間が残したものが小箱一つの時もあれば、30畳の倉庫に収まり切らないこともある」という発言は、牧雄の探す財産を示唆しているように感じられる。

 「根拠のない臆測を口にしたって、なんの意味もないってことです。それが悲観的な場合は余計に」と楓。あるはずのものがなかったり、なかったはずのものが存在する『危険なビーナス』。ないと思った兄弟の絆はたしかにあった。登場人物の思惑が交錯するその先には、どんな真実が待ち受けているのだろうか?

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
日曜劇場『危険なビーナス』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:妻夫木聡、吉高由里子、ディーン・フジオカ、染谷将太、中村アン、堀田真由、結木滉星、福田麻貴(3時のヒロイン)、R-指定(Creepy Nuts)、麻生祐未、坂井真紀、安蘭けい、田口浩正、池内万作、栗原英雄、斉藤由貴、戸田恵子、小日向文世
原作:東野圭吾『危険なビーナス』(講談社文庫)
脚本:黒岩勉
プロデューサー:橋本芙美(共同テレビ)、高丸雅隆(共同テレビ)、久松大地(共同テレビ)
演出:佐藤祐市、河野圭太
製作:共同テレビ、TBS
(c)TBS