タイムスリップ、サンゴの精、病が完治……『美味しんぼ』現実離れしたミラクル展開4選
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料理をとことん追及し、現実離れした話は少ないイメージのある漫画『美味しんぼ』。しかし、リアリティを重視する一方で、じつは漫画特有の奇跡的な話も展開されていた。そこで今回はそんな『美味しんぼ』が生んだ奇跡的展開を振り返ってみよう。
タイムスリップ&瞬間移動
『美味しんぼ』で唯一ともいえるほど、怪奇的な現象が発生したのが、6巻の「日本のコンソメ」だ。
超能力者の女性クリス・ヴォーンと、他社の記者とともに共同取材という形で会食した山岡と栗田。その席で出されたコンソメスープを他社の記者たちが絶賛し、日本の吸い物について「和食の吸い物とはだいぶ違う。だいたい手間のかけ方が全然違うもの。カツオブシをかいたのを煮立てただけでしょう。昆布も使うけど、水かお湯に放り込むだけ、インスタントスープみたいなもんですよ」「日本料理の吸い物なんて、貧乏たらしくて、下らんもんですよ」とこき下ろす。
憤りを感じた山岡は「かわいそうに、貧しい吸い物しか食べたことがないのか」と苦言を呈し、日本の吸い物に使われている昆布とカツオブシがいかに手間暇かけたものなのかを熱弁する。クリスは話を聞き「その様子を見たい」とつぶやくが、時季が外れているうえ、昆布は北海道、カツオブシは鹿児島で採取するため場所が離れすぎていて、難しいと説明する。
すると、クリスは「私は時間と空間を思いのままに行ったり来たりする能力を持っていることを試す機会を探していた」と脅威の能力を持っていることを明かす。そして、全員の手を握り、目を瞑るよう促し、「では参りましょう。鹿児島のカツオブシ工場へ…」と呪文のように唱えた。
山岡が目を開けると、そこは採取時期の鹿児島・枕崎。栗田ゆう子は「SFの主人公になったみたい…」と驚きを隠せない。さらに鹿児島から北海道の尾札部に移動し、その後銀座の「岡星」へ。岡星精一が実際に吸い物を作り、一行が受け取ったところで山岡が「後ろを向いていてくれないか」と岡星に頼む。すると一行は消えてしまい、岡星は「みんなが消えた」と驚いてしまう。
最後に会食していたレストランへと戻り、岡星の作った最高の吸い物を味わう。一行はその味を絶賛し、クリスが「日本のスープの美味しさの秘密が勉強できた」と礼を言う。山岡は「我々も凄い体験をさせてもらいました」と返した。
この「日本のコンソメスープ」は、『美味しんぼ』でもかなり珍しい超能力が使われた回。クリスがいれば「究極対至高」の食材集めもかなり楽になりそうだが、その後彼女が『美味しんぼ』に登場することはなかった。(美味しんぼ第6巻より)
栗田ゆう子に似たサンゴの精が登場
東西新聞社の大原社主が入院したことをきっかけに、「究極対至高」の長寿料理対決に挑むことになった山岡と栗田。実際に長生きしている栗田のおばあちゃんに話を聞きにいくと、沖縄旅行から帰ってきたそうで、石垣島の砂をプレゼントされる。
その夜、栗田が寝ていると砂の入った瓶から栗田そっくりな「サンゴの精」が出現。「助けて、石垣島を助けて」「この美しい石垣島が破壊される。サンゴが死ぬ」と訴える。栗田は「待って、あなたは誰。何を言いたいの」と語りかけるが、それは夢で覚めてしまった。
栗田は夢の影響か、長寿料理対決に沖縄料理を出すことを提案し、実際に沖縄へ向かう。そして石垣島に向かうと、着陸前の飛行機から島を眺め「恐ろしいことが待っているような気がする」と胸騒ぎを覚える。
その不安は的中し、石垣島のサンゴを壊し、空港やリゾートホテルを作る計画が進んでいた。しかも、その計画を強行に進める筒金と海原雄山が一緒にいるところと鉢合わせてしまい、栗田は雄山が手を貸そうとしていることにショックを受けた。
雄山が考えた長寿料理をホテルの目玉にしたいと考えた筒金だったが、雄山は協力せず、最後は罵倒。山岡もリゾート計画を糾弾する。その後計画がどうなったのかは描かれていないが、栗田の「予知夢」が石垣島の危機を救った形になったものと思われる。(28巻より)
鶏肉を食べて認知症が完治
「鳥玄」の水炊きが食べたいと話す栗田のおばあちゃん。車で迎えに来た栗田の兄・誠を見て、「最近のタクシー運転手は乱暴な口聞くんだね」と話し、「僕だよ、誠だよ」と言われても、「芝の洋服屋の誠さん」とかなり認知症が進んでしまっている様子だった。
栗田家は「鳥玄」に到着し、早速鶏肉の入った水炊きを食べる。するとおばあちゃんは「ここは『鳥玄』じゃない。『鳥玄』の鶏肉はこんなにイヤな匂いはしない」と話す。家族が「これは鶏肉固有の匂いでは…」と反論すると、「私を騙して『鳥玄』じゃないところに連れてきて変な鶏肉を食べさせて」と泣き喚いてしまった。
翌日、栗田が文化部でこのエピソードを話し「あんなにボケてしまうなんて…」とショックを受けていると、疑問を持った山岡が栗田を連れブロイラー鶏肉工場へ。そのシステム化された製造過程に栗田は「なんだか気味が悪い」と漏らす。
次に山岡はおマチばっちゃんの家を訪れ、庭で元気いっぱいに飼われた鶏肉を分けてもらう。その後栗田はもう一度「鳥玄」におばあちゃんを連れていき、おマチばっちゃんの鶏肉を使って山岡が作った水炊きを食べる。
するとおばあちゃんは完全に元気を取り戻し、認知症が治ってしまう。そして「鳥玄」も、板前が山岡と美食倶楽部で一緒に働いたことがある人物で、もう一度本物の鶏肉を使うことを決意した。
「鶏肉を食べて過去の記憶が蘇り、認知症が治る」のは、かなり奇跡的。ただし、認知症はひょんなことをきっかけに治ることが稀にあるともいわれる。(1巻より)
豚肉を食べて肺がんが完治
肺がんで余命半年の宣告を受けた画家、永家。豚肉を50年間断っていたが、余命宣告を受けたので、「美味しい肉を食べさせてほしい」と京極万太郎とともに山岡に頼み込む。
山岡は「天才・岡星の出番」と岡星に調理を依頼し、豚肉料理を食べさせるが「50年の肉断ちの願ほどきにしてはドカンとくるものがない」と不満を口にし、再度頭を悩ませる。そんなとき、富井副部長が社内でスペインのタンゴを踊り狂う様子を見て、スペインの肉を食べさせることを思いついた。
余命半年の永家をスペインに連れて行く山岡夫妻。彼に振る舞ったのは、ハモン・イベリコという最高の豚肉だった。その味を絶賛した永家は「あと半年の私の命、ここで最後の輝きを得ることができました」と礼を言う。
その後は、病に伏せていると思われた永家が、山岡夫妻の前に謎の女性を引き連れて登場。「あれからハモン・イベリコをバリバリ食べ、ワインを飲み、肉をたらふく食べたら、私の生命力が勝ったのか、ガンが消えちまったんだ」とガッツポーズ。さらに「紹介しよう。エカテリーナだ。日本びいきのスペイン人でな、我々結婚したんだ」と、誰もがびっくりする急展開を見せた。(83巻)
現実的に見ると豚肉を食べてガンが消えるという展開は極めて考えにくい。しかし、「そんなことがあったらいいな」と思わせる内容だったのではないだろうか。
奇跡的展開もウリ
リアリティ重視の美味しんぼだが、なかには漫画特有の奇跡的な展開もある。そんな自由度の高い作風が、国民的料理漫画となった要因の1つではないだろうか。