乃木坂46 山下美月センター、3・4期メンバーの台頭……“未来を作る”最新シングルフォーメーションの画期性
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11月15日の『乃木坂工事中』(テレビ東京系)で、乃木坂46の26枚目シングル選抜メンバー発表の模様が放送された。放送に前後するタイミングで、マスメディア等ではグループが“新章”に入ったことが伝えられ、選抜発表を目前にした今月13日には乃木坂46の公式SNSアカウントなどでも、「未来が作られる」と謳った選抜発表の告知動画がアップされている。グループが新しいフェーズに入るという筋立てを、ことさら意識的に打ち出したニューシングル告知と言っていい。
これはもちろん、前作『しあわせの保護色』をラストシングルとして10月にグループを卒業した白石麻衣が、乃木坂46にとってそれだけ大きなシンボルだったということでもある。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、はからずも『しあわせの保護色』のリリース期から卒業ライブまでの期間が延長されたことで、彼女が象徴的存在であった時期の余韻はさらに強いものになっていた。
だからこそ、2021年以降のグループ像を示す今回の26thシングルでは、表題曲メンバーの布陣に明確な変化が企図された。その筆頭が、初めてセンターポジションに入る山下美月と、その両サイドに立つ梅澤美波と久保史緒里の3期メンバーで固められたフロントである。
これまで、乃木坂46のセンターに2期以降のメンバーが入るのは、『バレッタ』の堀未央奈や『逃げ水』の大園桃子・与田祐希、『夜明けまで強がらなくてもいい』の遠藤さくらといった、各期メンバーが初めてシングル表題曲に合流するタイミングでの慣例的な抜擢に限られていた。それ以外のシングルでは、多くのメンバーがセンターを経験していったものの、その座を背負ったのはいずれも1期メンバーだった。そうした意味では、3期メンバーがセンターとその左右に配されたこのフォーメーションは、一つの画期とはいえよう。
もっとも、この26thシングルの布陣は新鮮でありつつも、すでに盤石な空気をたたえている。
2017年頃から実質的な活動をスタートさせた3期メンバーは、1・2期メンバーの活躍によって乃木坂46が女性アイドルシーンの中核的存在になりつつある環境下で、1・2期生と比しても急速なスピードで演者としての成長が要請され、それに応えてきた。それから数年、幾度もグループの顔として立ち回る場を得ている彼女たちにとっては、機が熟した段階での今回のフォーメーションといえる。
フロント3人の背後を支えるように2列目に配された、同じく3期の大園・与田のセンター経験者にせよ、あるいは新たに表題曲選抜に入った清宮レイ、田村真佑を含む4期メンバーたちにせよ、組織の型や強みが整備されて以降に乃木坂46に加入した彼女たちが、グループにフィットしてゆく速度は目覚ましい。あらためて、草創期からのメンバーが少なくなってきたことを感じる現在のグループ構成だが、その背後で多くの後輩メンバーがグループを引っ張るための存在感を蓄えていたことがわかる。
前述の番組中で語られる山下の所感にもまた、表に立つ者としての視野がすでに垣間見える。「これから乃木坂46がどうなっていくか」「どういう風に戦っていくか」に対峙し、その中で支え合いつつ自身や同期らの役割を捉えようとする山下の焦点は、メンバーの選別過程や誰が抜きん出るかという組織内の論理にではなく、対世間的な乃木坂46総体の立ち位置の方にある。
実のところ、シングル表題曲のセンターに選出されたメンバーが、そのポジションをひとつの役割として受け止め、俯瞰的にグループを見据えるような振る舞いをみせることは長らく、乃木坂46にあっては自然な光景でもある。センターに選ばれた者たちに通底する、地に足のついた視座がごく自然に後進へと繋がれていること自体もまた、乃木坂46の培ってきた基調の継承といえるかもしれない。
10カ月ぶりの正規シングルリリースは、あらためてグループが蓄積してきた活動の価値を提示する機会となる。乃木坂46はシングルCDというパッケージに、きわめて豊かなクリエイティブを託してきた。細やかな意匠を織り込んだジャケットのアートワークや、質量ともに異様な充実度を誇る映像コンテンツを含め、乃木坂46のシングルCDは楽曲制作にとどまらない、総合的な表現を詰め込む場としてある。
昨今の状況にあって、シングル制作にかかる環境をどこまで確保しうるのか、いまだ不明瞭ではある。けれども、機の熟した新たなメンバー編成とともに、乃木坂46が育んできたカルチャーが十全に花開くシングルになることを期待したい。
■香月孝史(Twitter)
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。