田中裕子と蒼井優が二人一役で“協演” 『おらおらでひとりいぐも』が問う“人生とは何か?”
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沖田修一監督による最新作『おらおらでひとりいぐも』で、田中裕子と蒼井優という、それぞれの世代を代表する女優の初共演が実現。それも、両者が演じるのは“桃子さん”という人物。そう、つまりは二人一役である。このふたりが異なる時代の桃子さんを演じることによって、「人生とは何か?」というものがより強調されて見えてくる。
冒頭で、田中と蒼井のことを“それぞれの世代を代表する女優”と称したが、これに異を唱える方は少ないことだろう。それぞれのバイオグラフィーを眺めてみれば一目瞭然だ。1955年生まれの田中と1985年生まれの蒼井はちょうど30の年齢差があるが、両者ともに代表作だらけである。田中は昨年公開された『ひとよ』での好演がいまだ鮮明に記憶に残っているし、昨年の蒼井は主演映画『長いお別れ』をはじめ、『ある船頭の話』『宮本から君へ』といった出演作が公開、今年はすでに『ロマンスドール』と『スパイの妻』で映画ファンの心を鷲掴みにしている。賞の受賞などは彼女たちの功績がもたらした結果のひとつでしかないが、それらもまた、彼女らふたりがそれぞれの世代を、ひいては日本を代表する女優であることを物語っていることだろう。
本作『おらおらでひとりいぐも』は、田中にとって15年ぶりの主演作だ。先に記しているように、蒼井と二人一役で桃子さんを演じている。ふたりの俳優が、ひとつの役を演じるーーこれは“共演”であるのと同時に、“協演”だともいえるだろう。読んで字の如く、“協力して演じる”というものだ。“現在の桃子さん”を田中が、“昭和の桃子さん”を蒼井が演じているわけだけれども、演じるふたりはもちろん違う人間だ。当然ながら育ってきた環境も、影響を受けてきたものも異なるはず。しかし、“現在の桃子さん”が登場すれば蒼井の姿を、“昭和の桃子さん”が登場すれば田中の姿を思い浮かべてしまうのだから不思議である。ふたりがどのようにして役を共有していたのか明らかにされていないが、そこにはたんなる“共演”を超えた“協演”があったのだろうと思う。このふたりが与えた、時代を超えた桃子さんのリアリティと変化によって、「人生とは何か?」という問いが浮かび上がってくるのだ。
さて、本作は田中と蒼井の“共演/協演”が見どころの作品でもあるが、それだけではない。“饗宴”が楽しい作品でもある。故郷を飛び出して上京し、55年の月日が経った桃子さん。夫(東出昌大)に先立たれた彼女は、ひとり孤独な生活を送っている。図書館で本を借り、病院へ行き、46億年の歴史ノートを作るのが日課だ。ところが、ふいに桃子さんの“心の声”が姿を現すことに。それが、寂しさ1(濱田岳)、寂しさ2(青木崇高)、寂しさ3(宮藤官九郎)である。
“寂しさ”という名ではあるものの、この俳優陣の並びからして賑やかな宴が開かれることが想像できるだろう。実際、彼らとは止まらないお喋りや、ときに音楽を奏で、ときには踊りもする。桃子さんの“心の声”だとあって、これはもう、“五人一役”ともいえるのかもしれない。そんな現在の桃子さんは自身の半生を振り返り、“心の声=寂しさたち”と言葉を交わす。これはつまり、自分を見つめ、深く向き合うということなのだろう。そうした先で開かれているのが“饗宴”なのである。
ふと、「人生は祭りだ」というあまりにも有名なフレーズを思い出す。フェデリコ・フェリーニ監督の『8 1/2』(1963年)のラストで登場するセリフだ。同作を観たことがない方でも、このセリフだけは知っているのではないだろうか。人生の盛りのときは楽しいが、祭りの後というのはどうにも寂しいもの。本作はそんな人生の“わびさび”をも教えてくれる。しかしやはり、大きく掲げられているのは人間讃歌。田中裕子を筆頭に演じられる活き活きとした桃子さんを見ていると、彼女には「人生は祭りだ」という言葉がまさにピッタリの人だと思える。
■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter
■公開情報
『おらおらでひとりいぐも』
全国公開中
出演:田中裕子、蒼井優、東出昌大、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎、田畑智子、黒田大輔、山中崇、岡山天音、三浦透子、六角精児、大方斐紗子、鷲尾真知子
脚本・監督:沖田修一
原作:若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』(河出書房新社刊)
音楽:鈴木正人
主題歌:ハナレグミ「賑やかな日々」(スピードスターレコーズ)
配給:アスミック・エース
製作:『おらおらでひとりいぐも』製作委員会
(c)2020「おらおらでひとりいぐも」製作委員会
公式サイト:http://oraora-movie.asmik-ace.co.jp/