Creepy Nuts DJ松永が語る、“不安定な自分”との向き合い方 ターンテーブルと出会った当初の気持ちが全ての根底に
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去る11月11日・12日の二日間、日本武道館での単独公演を成功させたR-指定とDJ松永からなるヒップホップユニット・Creepy Nuts。日本語ラップとターンテーブリズム、それぞれの分野で頂点を極めた二人が繰り出すスキルフルかつ親しみやすい楽曲やパフォーマンスが評価される中、それぞれのキャラクターを生かしたラジオ、バラエティ番組などへのオファーも後を絶たない。Creepy Nutsとしてはもちろん、R-指定はドラマ『危険なビーナス』(TBS系)や『閻魔堂沙羅の推理奇譚』(NHK総合)に出演、DJ松永は『文學界』(文藝春秋)でエッセイ「ミックス・テープ」の連載を持つなど、個人活動も活発だ。
今回リアルサウンドでは、10月期に放送されているバラエティ番組『「任意同行」願えますか?』(読売テレビ系・日本テレビ系)にMCとして出演中のDJ松永に単独インタビューを行う機会を得た。現在の状況をまったく想像していなかったというDJ松永が、長年向き合ってきた自分の中にある葛藤とは。赤裸々な胸の内を明かしてくれた。【インタビュー最後にプレゼント情報あり】(編集部)
ゲストの話を聞いて広がる世界
ーー3月の特番放送から続けてMCに抜擢された『「任意同行」願えますか?』ですが、レギュラーで出演してみた感想を改めて教えてください。
松永:まだ訳わかってないです(笑)。そもそもミュージシャンという、全然バラエティの経験もないような人間なので、毎回劇団ひとりさんとファーストサマーウイカさんの足を引っ張らないように……たぶん引っ張っていると思うんですけど、なるべく引っ張らないように頑張る、くらいの心持ちでいます。……いや、本当にまだ訳もわからない状態です。
ーー劇団ひとりさん、ファーストサマーウイカさん、それぞれお二人の印象はいかがですか。
松永:お二人とも手練れすぎるので。ひとりさんがいたら、成立しない企画なんて存在しないんじゃないかなと思うほど一人で全部おもしろくできますし。ちょっと談笑っぽいトークを3人でしている間も何かのきっかけですぐに自分の過去のエピソードトークが出てくる。どんなテーマでも必ずポンっとおもしろいエピソードがその場で出てくるんです。信じられないなと思いますよね。いろいろなご経験もされていて、それが整理された言葉でちゃんと出てくるのがすごいです。
ウイカさんは、常に周りに気を配っていて。話が脱線しそうになったらこっそり戻したり、常に全体の空気を感じ取りながらやられているのが、本当にすごいと思います。人間力ですよね。めちゃくちゃ姿勢が真摯だし、誠意のある人だし。僕が大変そうな時も、ウイカさんはいつでもフォローに入れるように常に温かい視線を送ってくれていて(笑)。最初の収録からずっと助けられていますね。
ーー『「任意同行」願えますか?』は、一癖も二癖もあるゲストが毎週登場しています。「アンケート」で気になった人についてMC3人が妄想を膨らませながら人物像を予想して、「任意同行」という形で実際にスタジオに招いて破天荒な言動&エピソードを引き出す。この二つのブロックで構成されているのが特徴的な番組ですね。
松永:番組の打ち合わせでは「事前アンケート」というものが用意されることが多いのですが、それを視聴者の方にも見せるというのは、なかなかない演出ですよね。「アンケートでここがおもしろいからこうトークを広げよう」といった感じで番組を作っていくのを実際にカメラの前で僕らがやって、実際に気になった人をゲストとして呼んで、アンケートで盛り上がったことを聞いてみる。「こうやって番組作りをしてるんだな」ということを、視聴者の方にも楽しんでいただければいいんじゃないかなと。僕もいろいろなところに顔を出すとはいえ、毎回番組に出演してくださる一般の方々は普段まったく会えないようなおもしろい人たちが集まっているので。たくさんのアンケートの中から、実際に会いたい1~2名を選ぶので、選りすぐりの人たちが毎回登場しています。僕もその場でお話を聞いていて楽しいし、世界が広がります。
ーーCreepy Nutsとして番組のテーマソングも作られましたよね。公式のTwitterで制作の裏側が動画でアップされているのを拝見しましたが、この曲のポイントなどあれば教えてください。R-指定さんとお二人でお話しながら作っていったそうですね。
松永:僕はサウンド担当なのでポップさと怪しさ、いかがわしさが同居すればいいかなと思ってトラックを作ったんですけど。あれは、まだデモなんですよね。
ーーちなみに曲名は決まっているんですか?
松永:それが決まってないんですよ。まだ制作途中なので、ここからトラックが変わったり、変化が加わる可能性が高いので……とにかくここで終わらせないでください、もうちょっと頑張らせてくださいと言いたい(笑)。本格的に制作することになった暁には、より具体的な内容がバースで明るみになると思うし、そこでR-指定の作詞能力がいかんなく発揮されると思うので、楽しみにしていてほしいですね。
世界一のDJになることでようやく解かれた自分自身への“呪い”
ーーここからは松永さんの個人活動について聞かせてください。2018年頃からラジオのレギュラー出演が増えてきて、「松永さんはトークができる人」というイメージが世間的にも浸透していったと思うんです。さらに昨年、DJの世界大会『DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIP FINALS 2019』(以下DMC)バトル部門での優勝もあって、これまで以上に個人活動の幅も広がっています。このような未来はご自身で想像していましたか。
松永:してないですよ、マジで。1つも想像していないですね。そもそも、Creepy Nutsは2017年にメジャーデビューしましたけど、それすら信じられないことというか、ヒップホップでメジャーデビューってなかなかできることではないので。僕が音楽で食えるようになったのは2016年なんですよ。1stミニアルバム『たりないふたり』を出して、そこから数カ月後くらいに「あれ、これで食えるじゃん!」となって。それすら信じられないことでした。DJで食えたらいいな、とはずっと思っていたけど、具体的に何をやったらいいのか全然わからなかったし、具体的な将来像も思い描いていなかったので、その段階でまだ夢のようでしたね。そこからメジャーデビューすることも考えられなかったことだし、『オールナイトニッポン0(ZERO)』に出ることも考えられなかったことです。
DMCでは1位を獲るためにずっと頑張ってきましたが、さすがに世界を獲れるとまでは思っていなくて。絶対日本で1位を獲りたい、むしろ「獲らなきゃ俺はもう生きていけない」というのは、長年自分にかけていた呪いみたいなものでしたけど。日本大会から世界大会まで上がったのは自分にとってはボーナスステージみたいな感覚でした。そこからはもう本当に信じられないです。帰国してからの仕事のオファーを聞くたびに全部「えぇ!?」って感じで(笑)。毎回驚いていると「舞い上がってるのか、こいつ」と思われるからおさえて「えぇ……」くらいのリアクションをしてますけど、全部うるさいくらいリアクションしたいようなお仕事ばかりです。本当にマジでありがたいと思っていますし、全部奇跡。こういう人生になるとは、本当にびっくりしています。
ーーCreepy Nutsは当初、どちらかというとR-指定さんが『フリースタイルダンジョン』の影響もあり、Creepy Nutsの顔としてユニットの知名度を引き上げていったかと思います。松永さんもこの1年ほどで急速に存在感を高めましたが、お二人の関係値に変化はあったりするのでしょうか。
松永:僕らは1MC1DJのスタイルですから、当たり前のようにラッパーがフロントマンなんですよ。DJが表にガンガン出ていくなんて前例がないじゃないですか。ライブもラッパーが前に立って、DJが後ろっていうのが普通ですよね。でも僕とR-指定は、RHYMESTERに影響を受けたというのが共通点なんです。RHYMESTERはラッパーとDJが横並びで、一緒にライブで音楽を作っていくスタイルなんですよね。おそらくアメリカのRUN DMCの影響なんですけど、そういう姿を見て影響を受けてきました。
僕も我が強いというか、承認欲求が強いほうなので、別に影に隠れるつもりはないというか。ラッパーと5:5の関係値で、5:5の作業量で、一緒に活動していきたいという自負があって。R-指定もDJを尊重してくれるタイプだったので、二人の間柄的にはずっと一緒に横一線でやっていこうという意思だったんですけど、R-指定って昔から神童みたいな感じだったんですよ。僕とR-指定が高校生の時から、大阪には『ENTER』というMCバトルの大会があって。そこで月1でチャンピオンを決めるんです。もちろん出場者はみんな大人、有名なラッパーが出てるような大会で。そこで、年末にグランドチャンピオンシップ『SPOTLIGHT』というのがあって、R-指定は高校生の時に決勝に上がったんです。決勝はMCバトル激戦地区の大阪で、完全に大阪の顔で、日本ラップシーンの顔だった無双状態のERONEさんと無名のR-指定が戦って。歓声の判定で100:0で高校生のR-指定がERONEさんを負かすわけですよ。那須川天心ぐらいの無双ですよね(笑)。
で、そこから、もうその時点で、日本語ラップを知ってるやつは、全員R-指定を知ってるみたいな感じで。『ULTIMATE MC BATTLE』も3連覇して、もちろん大きい仕事もわんさか来る、有名なラッパーの客演にも呼ばれる。そもそも最初から知名度、実績ともにとんでもない格差があったんですね。今思えばそれは当たり前なんですよ。でも、二人で同じ作業量をこなして、一緒に手つないで、曲作って、ライブしていく自負があったからこそ、自分自身の余裕のなさ、心の狭さで、フラストレーションが溜まることが正直かなりあったんですよね。二人のその間を埋めたいと、自分は出しゃばりなタイプなのでずっと思っていて。たぶん、そういうこともあってDMCを頑張れたというのもあります。だからより負荷もかかって、「DMCで日本一を獲る」というのは呪いとしての威力が強くなったんですよね。
DMCは誰が世界で一番DJが上手いかを決める大会ですけど、DMCと音楽活動ってそもそも並行できないんです。DMCに出てる人はDJが上手くなること以外考えていないし、DJの技術を磨いて大会で演目を披露する以外に発想がない、仙人みたいな人たち。むしろ、そこまでしないと勝てないんですよ。数分間のルーティンという演目を最短で1年間かけて作る。1年間の生活をDMCをメインに組み立てているんです。そのくらいのものを自分の呪いにしていたんですけど。
で、やっぱりR-指定もUMB3連覇してますから。一緒に出ていくと当たり前なんですけど、R-指定にスポットライトが当たることは多くて。それが最初はなかなかしんどかった。例えば二人でメディアに出てプロフィールを読み上げられると、「日本一のラッパー、MCバトル日本3連覇のR-指定さん」と「DJの松永さん」になる。全然自分がDJも上手くなくて「R-指定さんのおんぶにだっこです」「スタートボタン押してるだけです」とかだったら高望みしなかったんですけど、自分はDJが上手いという自負、アイデンティティで昔から生きてきて、もっと自分のことを過大評価していたので、本当にマジで勝たないとな、と。一生この感じで生きていくのも正直しんどい。DMCに挑戦するのもかなりしんどい。でも、出なきゃ出ないで、しんどい日常が続く、みたいな感じで。で、去年本格的に挑戦する覚悟をしていって、奇跡的に世界一になることができました。
そこからはすごいですよね。いろいろソロの仕事が増えるようになって、やっぱり僕の心が狭いもので、前はR-指定に仕事が入ってきて「いいなぁ」とか「やっぱりR-指定は注目されるよね、俺呼ばれないよね」みたいな感情になることが多かったんですけど、きれいさっぱりなくなりました。一生なくならないと思ってたけど。そもそもR-指定がもっと評価されるべき、というのは昔から思っていたし、R-指定に仕事がくるのはもちろん昔からうれしかったんですけど、今はさらにピュアに、R-指定が評価されることに対して喜びを感じるようになりました。結構、この呪いが解けたのは奇跡的だなと思いますよね。
ーー世界一になったことで本当の意味で肩を並べることができた。
松永:こんなことまでしないと気にしなくならないのかよ、って思いますけどね。世界一獲ってようやく嫉妬せずに済むって、どんだけ俺欲深いんだろうなって(笑)。でも、これは本当に、めっちゃ勝手な個人的な気持ちだし、僕はR-指定のことを全面的に大好きなので本当に申し訳ないと思いつつ……。
ーーお二人のことをご存知の方にはしっかり伝わっていると思うので、大丈夫だと思います。
松永:世界一を獲った夜に連絡したんですけど、「やっと並べたわ」ってR-指定に言いましたもんね。やっぱり3回も一番を獲るってすごいことなんですよ。1回獲ったあとにまた大会に出る精神力とか背負うものって、どんどん苦しくなっていくから。3回ってめちゃくちゃすごい。日本語ラップで戦っていると、そもそも国内大会以上はないから「世界獲ってやっとトントンだな」って、あいつに言いました。「3回ってエグいから」って。
ーー本当にすごいことですよね。
松永:下克上を望む観客の心理状態も判定にダイレクトに作用するし、どんどん勝ちづらくなっていく中、あいつの力で勝ちましたからね。
ーーR-指定さんは松永さんにとって本当に尊敬している相手なんですね。
松永:そうですね。
今後の目標は“何でDJをやっているのかを忘れない”こと
ーーあと、松永さんのトーク力のルーツはどういうところにあると思いますか。
松永:トーク力については俺はマジでないと思っていて(笑)。トーク力は完全にR-指定の方があると思ってます。今でこそバラエティの仕事をいただく機会が増えましたけど、毎回、余計に音楽しかできないなって思っちゃいます。バラエティも一から積み上げてきた人たちがめちゃめちゃ勝ち抜いて出ているわけじゃないですか。自分は別に喋りで積み上げてきてないわけですよ。DMCに勝ってなかったら、この場には絶対いられないですから。そういう他での実績を買われて、たまたまそこでスポットライトが当たって、別の業界の人が見てくれて「なんかちょっとおもしろいから、入れてみよう」という部分があると思うので。そもそも太刀打ちできないんですよ。そこで一からやってる人たちに。
だから、ちょっとでも勉強というか糧になればな、というのと、自分を必要としてくれている方というのはめちゃめちゃ貴重だと思うので、そういう人たちからお声がかかるのであれば、なるべく頑張りたいという気持ちです。あと、感情のしゃべりしかできないんですよね。自分がその場で感じたことを反射的にしゃべることしかできない。例えば、R-指定は第三者視点の語りで、エピソードトークができるんですよ。だから過去に起こった出来事を自分の頭の中で思い浮かべて整理して、起承転結で話せる。僕はそれができなくて、コンプレックスなんですけど。バラエティも種類がいっぱいあるじゃないですか。何本か出させていただくうちに、得意/不得意が見えてきて、できないことがどんどんわかっていってる感じですかね。
ーー何事にもストイックなんですね。
松永:なんなんですかね(笑)。でも、本当にそういう感じです。欲深いからだと思いますよ。
ーーだからこそ、自分自身を高め続けられる。
松永:でも、ずっとしんどい可能性があるっていうことですよね(笑)。
ーーご自身的には大変かと思いますが、これからの活躍も期待しています。最後に、今後の目標についてはどんなことを考えていますか?
松永:僕が落ち込みがちなのは、すぐ人と比較するからなんですよ。比較して「自分のほうがイケてるな」って思わないと自分のこと認めてやれないんですよね。でもそれってすごく不健康な考え方で。一番健康的なのは誰かと比べることなく、自分のことを肯定的に捉えられる人だと思うんですけど、そういうブレやすい、不安定な自分だからこそ、例えば、「どこどこのキャパの会場を埋めた」とか「CDが何枚売れた」とか「こういう仕事が得られた」みたいなものを軸にして、目標に糧にして活動してしまうと、そもそも自分が何をやりたいのか忘れるなと思うんです。
ターンテーブルを最初に買った時はそこまで思い描いていなかったんですよね。「ただやりたい」以外の感情はなかった。「ただ買ってみて、触れてみたい」。たぶん、他の人たちもそうだと思うんですよ。「ギターを買ってみたい、触ってみたい、演奏してみたい」、とにかくそれに触れたいから。僕も最初に買って、家に届いた時、めっちゃうれしかった。触って、別にうまくできないけど、触ってる瞬間はめちゃくちゃ快感。とにかくワクワクして、すごく幸せだったんですよね。で、触っていくうちに徐々にコツを掴んでいって、自分の上達を実感する時って、またさらに幸せなんですよね。それって、自分の中だけで完結しているんです。誰か目の前に人がいて、称賛を浴びるだとか、誰かと比較してできた、とかじゃなくて。とにかくやってる瞬間、やってる自分に、原始的な幸福感を得られている感じがして。
今、ありがたい仕事をいっぱいいただいていますけど、なんでここまできたかというと、僕がターンテーブルを触ったからじゃないですか。ただただ向き合ってる、ただ家で「楽しいな、幸せだな」って思って、レコードに手を触れている時があったから、ここまで来れているので、そこを一番大切に、忘れないというのが目標。本当に人生スパンでこれが目標で。すごく月並みな言い方だと「初心を忘れない」とか、そういうことだと思うんですけど。とにかく「何で俺がDJをやっているのかを忘れない」っていうことですね。やりたいから。それを忘れないことが目標かなと。
ーーだからこそ、広げられることもあるかもしれないですよね。
松永:そう。結果的に、そういうピュアな姿勢で向き合えたら、DJも上手くなるんですよね。全てはDMCで勝って、自分の腕を磨いて、その腕が証明されたからこそ。そういうことは裏切らないんだなと身をもって体感しましたね。
ーーどんな環境になっても、そこを忘れずに突き進んでいくと。
松永:本当にそうですね。この先もずっと「ターンテーブルを触っている時間が一番幸せ」というのを忘れないでいたいです。
■番組情報
プラチナイト『「任意同行」願えますか?』(読売テレビ・日本テレビ系)
毎週木曜日よる11:59~0:54放送(55分枠)
【出演者】 MC 劇団ひとり、ファーストサマーウイカ、DJ松永(Creepy Nuts)
【ナレーション】木村昴
番組公式サイト
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<締切:12月2日(水)>