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十代とダンス 第3回 “踊ってみた”からTik Tokまで~ダンス動画の背景にあるもの

音楽

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ナタリー

Tik Tokのイメージ画像。

現代の中高生は“ダンスネイティブの世代”と言われる。幼少時代からテレビなどのメディアを通じてダンスに触れていたことに加え、学習指導要領の改訂により2012年から中学校の保健体育で現代的なリズムダンスが必修となったこともあり、多くの十代にとってダンスは日常的な身振りとなった。また彼らは、物心付いたときからスマートフォンに触れていた“スマートフォンネイティブの世代”でもある。

世代論で語ることの危うさを踏まえて定義するならば、近年SNS上で巻き起こっている十代のダンス動画のブームとは、ダンスネイティブ / スマホネイティブという2つの傾向が交差するところで発生したものと言える。現在中高生の間で高い人気を集めているのが、音楽に合わせて15秒の動画を手軽に投稿することのできるショート音楽動画コミュニティアプリTik Tok。2016年9月に中国でサービスが開始され、翌年夏に海外版がリリースされると、日本のほかタイやベトナムなど東南アジア各国でも大ヒット。現在のユーザー数は実に2億人を超える。

「マイナビティーンズラボ」の記事「人気沸騰中のTik Tok!! 人気投稿をピックアップ」によると、Tik Tokで人気のある動画はダンス系、ぶりっこ系、ネタ系、洋楽系という4種類に分けられる。このうちダンス系の傾向としては、手を動かすだけのシンプルな“手振りダンス”や、ラッツ&スター「め組のひと」の倖田來未によるカバーバージョンに合わせて踊る“め組ダンス”などが人気を集めている。後者にいたっては2018年7月現在で再生回数2億5000万回、投稿数は55万4000件を超えるヒットぶりだ(「オリコンニュース」の「Tik Tokの“なかの人”が語る『め組のひと』ヒットの背景」より)。今回はそうしたダンス動画の潮流を振り返りながら、その背景にあるものを探ってみたい。

動画共有コミュニティ / アプリ戦国時代

近年流行しているダンス動画の原点とも言えるのが、ニコニコ動画を発祥とする“踊ってみた”の文化だ。ニコニコ動画で“踊ってみた”というタグが生まれたのは2007年のこと。当初はニコ動ユーザーによるネタ系動画が中心だったが、愛川こずえが2009年に配信した「ルカルカ☆ナイトフィーバー」の“踊ってみた”が数百万回以上の再生回数を記録したことなどで、広い層にもその文化が知られるようになった。

だが、そうした文化がお茶の間にまで広がったきっかけとなると、やはりAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」(2013年8月)だろう。ご存知の通り「恋チュン」は同曲のヒットと共に自治体や企業社員らによる“踊ってみた”動画の流行も生み出すなど、一種の社会現象となった。以降、さまざまな楽曲が“踊ってみた”の対象となっていった。

その背景にはいくつかの要因がある。中高生に限って言えば、先述したように学校教育においてダンスが必修化したことも少なからず影響しているし、2011年にフジテレビ系で放送された「マルモのおきて」のテーマソング「マル・マル・モリ・モリ!」以降、2013年10月のテレビ朝日系「都市伝説の女」などテレビドラマのオープニングおよびエンディングでダンスシーンが使われるケースが増え、話題の楽曲に合わせて踊るという行為自体のハードルが下がったことも関係している。

だがもっとも大きな要因は、「恋チュン」や2016年の“恋ダンス”のヒットに前後してさまざまな動画共有コミュニティアプリがリリースされたことだ。2012年のVine、2013年のMixChannel、さらには2015年のSNOW、そして先述のTik Tokと、近年は動画共有コミュニティアプリ戦国時代の様相を呈している。そして、そうしたアプリの普及と足並みをそろえるように、十代の間でダンス動画はブームとなってきたのだ。

根底に横たわる“ハブられることへの恐怖”

よく指摘されるように、SNS時代の背景にあるのは世代を超えた承認欲求の高まりだ。もちろんTik Tokも例外ではなく、そこには“#にんきものになりたい”“#有名になりたい”などのハッシュタグも並んでいる。

では、なぜ十代の間では承認欲求を満たすための手段としてダンスが選ばれるようになったのだろうか? 文字情報や聴覚を通じた情報よりも直接的な視覚情報に重点が置かれるようになった現代において、わずかな時間でインパクトを打ち出すことのできるダンスや身体表現が重要視されるようになったこともあるだろう。だが、理由はそれだけではなさそうだ。国内最大級のティーンズメディア「マイナビティーンズ」を運営するマイナビの宇都宮広宣さん(ティーンズ事業推進室室長)と大坪亜由美さん(ティーンズ事業推進部編集課)はこう分析する。

「特定のネタを真似するのはなかなかできないし、勇気がいりますが、ダンスは真似をしやすいんです。簡単で、誰でもできるダンスが広まる傾向はあると思います」(大坪)

「あと、十代はみんな何かを真似るのがとてもうまいんですよ。インフルエンサーがやってるものを少しだけアレンジしながら真似るんです」(宇都宮)

今年に入って中高生の間で流行した「あざまる水産」という言葉がある。大坪さんによると「『ありがとう』が『あざす』に変換されたあと、語尾に『まる』を付ける風習の中で『あざまる』という言葉が出てきたんです。それが(海鮮居酒屋チェーン店である)『磯丸水産』と結び付いた」と言う。

「そうやって1つの言葉をアレンジしていくんですね。ダンス動画でも同じことが起きていて、あるダンスにアレンジが加えられながら広まっていくんです」(宇都宮)

ある振り付けにアレンジが加えられ、独自のものが生み出されていくという創造のメカニズムは古くから盆踊りや伝統芸能の世界で行われてきたものである。だが、現代においてそうした伝播はSNSを経由しながら、それも猛烈な早さで行われているわけだ。また、宇都宮さんは十代におけるもう1つの傾向を指摘する。

「十代は自己承認欲求が強いと同時に、炎上に対する恐怖心が大人よりも強いんですね。イジメられたりハブられることへの恐れがある。だからこそ、何かを表現するときも単独ではなく集団でやる傾向があると言えます。“双子ダンス”もそうですし、“シミラールック”もその一例です」

MixChannelの人気がピークを迎えた2015年から2016年にかけて、“双子ダンス”と呼ばれる動画が大量に投稿された。それに先駆けて“双子コーデ”というペアルックが十代の間でブームとなったが、双子ダンスはそのダンス版。常に共犯者を伴った双子ダンスは、仲間たちからハブられないための彼女たちなりの防衛本能の現れなのかもしれない。

地方の中高生にとっては数少ない自己表現の場

では、Tik Tokにおいて拡散されやすいダンスの傾向とはどのようなものなのだろうか。

「K-POPもあれば『め組ダンス』のように少し懐かしい曲のカバーも、海外のものもあるわけですが、『簡単で、楽しくて面白い』というダンスが選ばれているようですね。“カッコいいもの”はあまりウケないようです」(宇都宮)

ここ数カ月大きな盛り上がりを見せているのが“#だれでもダンス”。これはフィリピンのEDM系プロデューサーで、リミキサーでもあるDJレッドコアの「Kiat Jud Dai」に合わせて踊るというもので、ダンスのスキルを問わない単純な振り付けはまさに“簡単で、楽しくて面白い“もの。そうした傾向に則っていれば、BGMのジャンルや国籍、時代を問わないところもTik Tokの特徴だ。宇都宮さんはTik Tok上にダンス動画をアップしている中高生の特徴をこう分析している。

「クラスの人気者がやっているかと言うと、必ずしもそういうわけでもないようなんです。ある子に聞いたのは、ごくごく普通の子が学校にバレないようにこっそりアップしていると。また、Tik Tokは地方在住の子も多いようですね。都心に比べて自分を表現する場所が少ない子たちにとっては、Tik Tokがそういった場所になっているようです」

Tik Tokにおいて影響力を持つ人物のことを“ティックトッカー”と呼ぶが、代表的なティックトッカーである渡辺リサは広島出身、ねおは鹿児島出身であり、現在中学生のゆなたこは北海道出身。ちょっとしたタレント以上の知名度を誇る彼女たちに憧れ、ダンス動画をアップする地方在住の中高生も少なくないと言う。そこから見えてくるのは、ダンスがクラスの目立ちたがり屋だけでなく、ごくごく普通の子供たちにとっても自己表現や承認欲求を満たすための手段になっているということだ。また自分という存在を、学校や地元の友人たちではなく、Tik Tokの限定的なコミュニティの中で認めてほしいという、高校ダンス部の生徒たちとは明らかにタイプの異なる中高生の姿も浮かび上がってくる。

もちろんTik Tokには多種多様な動画がアップされているため、ここまでに定義付けた流れからこぼれ落ちる(ある種の“異端”とも言える)ダンス動画も存在している。だが、そうした動画がティックトッカーに“発見”され、大きなブームとなるケースもあるわけで、Tik Tokにおけるヒットの構造が決して単純なものではないことも最後に強調しておきたい。

<つづく>

取材・文 / 大石始