『鋼の錬金術師』エドが旅の先に得たものとは? 意味深なラストを考察
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2001年から約10年にわたって『月刊少年ガンガン』で連載された荒川弘『鋼の錬金術師』。アニメ化だけではなく、実写映画、ゲーム、ドラマCDとさまざまなメディアミックスもなされ、多くのファンを魅了した。
そんな『鋼の錬金術師』の主人公となるのが、エドワード・エルリックだ。「鋼」の二つ名を持つエド。まさに『鋼の錬金術師』は彼の旅の物語だ。彼が旅の先に得たものとは一体なんなんだったのだろうか。
研究者で自己中で人情家 全てがエドワード・エルリック
三つ編みにした金髪の長い髪に金色の瞳。赤いマントを翻し、機械鎧の右腕と左足。文字にするとなんとも騎士然とした風貌である。しかし、身長が低く「チビ」など低身長に関わる単語を聞けばところ構わずブチギレるし、幼少期もどちらかという悪ガキで悪知恵を働かせることに長けていた。ワガママだし、素直じゃない。直情的な部分もある。一方で、非常に勉強家で錬金術師として研究にも手を抜かない。自己中心的かと思いきや、人情家で正義感も強い。ただの正義の味方じゃない、人間らしさを持っている人物だ。
父はある日突然出ていき、大好きな母は流行病で亡くなってしまう。それから弟のアルフォンスと共に錬金術で母を蘇らせるために研究と錬金術の鍛錬を積んできた。結果的に人体錬成に失敗、その引き換えとしてエドは右手と左足を失い、アルは体そのものを奪われてしまった。それからアルの体を取り戻すために12歳で国家錬金術師となり、『賢者の石』を探す旅に出た。錬金術師としては一流の能力を持っているため、その名を知る者も多いが、エドはそんなことはどうでもいい。
物語スタート時は15歳。たった15年の人生の中でエドが見た現実はあまりに過酷なものであり、常人が一生かかっても見ることのない地獄を見た。命の尊さ、禁忌とは何なのかも知っている……その上で、エドは大切なことが何かを見極めている。アルの体を取り戻すこと以外に興味はないのだ。
死なない 死なせない 孤独の恐ろしさを知っている強さ
「たった一人の弟なんだよ!」
人体錬成を行い、アルが持っていかれてしまったときに叫んだエドの言葉だ。弟の体を取り戻すための旅、と言えば聞こえがいいが、エドはひとりになりたくないのだ。同時に、弟をひとりにしたくない。ある意味、これも等価交換なのかもしれない。いざというときは弟のために命を投げ出すことも厭わないが、アルをひとりにしないために極力死ぬことは選ばない。これは強さか弱さか。人によって解釈が分かれるところだろう。
エドの人情家なところは孤独の恐ろしさを知っているからこそ、かもしれない。ただ、博愛主義者という訳ではなく、エドは欲張りだから、「本音は全ての人を助けたい」と思っているが、自分が助けられる人は限られていることも心得ている。錬金術を持ってしてでも、助けられない人のほうが圧倒的に多い。命をかけたギリギリのトライ&エラーを繰り返してきたからこそエドは、本当に助けたい人のことしか守らない、と決めたのではないだろうか。
目的を達成したその先に
アルの体を取り戻し、エドは錬金術の力を手放したが最大の敵を倒したことで旅は一旦終わりを告げた。大きな目標を達成したことで、燃え尽き症候群になるのではないか。それとも、穏やかで静かな日々が訪れて幸福な時を過ごすのではないか。そんな読者の想像を他所に、エドとアルはもっと多くの人を助けたいと新たな旅に出る。錬金術で苦しむ人を少しでも助けられるように。
なぜそのような思考に至ったのか。それはきっと、アルの体を取り戻すまでにたくさんの人の力をもらったからだろう。エドには才能があるが、完全無敵のヒーローではない。心が折れることもあるし、泣きもするし、自分の不甲斐なさに怒ることもある。それでも旅を全うすることができたのは、仲間や信頼できる人たちがいたからだ。すでにたくさんのものはもらった。それを返すために、再び旅に出る。
「俺の人生半分やるからお前の人生も半分くれ」
これはエドがヒロインであるウィンリィに向かって言ったプロポーズの言葉だ。プロポーズでさえ“等価交換”なのだから、エドはこれまでにもらった優しさ、恩を全て返さなければ気が済まないだろう。くれた人に返せなかったとしても、その分、別の誰かに。
アルの体を取り戻すことは、エドにとって始まりに過ぎなかった。新たな自分の役割を見つけ、たとえ錬金術師じゃなくなったとしても、1人の人間としてたくさんの人を助ける。そう決意したエドの長い長い旅路は、まだ始まったばかりなのだ。
(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))
■書籍情報
『鋼の錬金術師』(ガンガンコミックス)27巻完結
著者:荒川弘
出版社:スクウェア・エニックス
ガンガンONLINE『鋼の錬金術師』サイト