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おとな向け映画ガイド

今週の公開作品から、人間は弱くて強い、そう感じる2本をご紹介します。

ぴあ編集部 坂口英明
20/11/22(日)

イラストレーション:高松啓二

今週のロードショー公開は21本(ライブビューイング、映画祭企画を除く)。全国100スクリーン規模以上で拡大公開される作品は『10万分の1』『君は彼方』の2本。中規模公開とミニシアター系の作品が19本です。その中から、2本を厳選し、ご紹介します。

『アンダードッグ』



『ロッキー』を始めとする、アンダードッグ(負け犬)が、最後のプライドを賭けて戦うというボクシング映画の系譜に、またひとつ名作が生まれました。主人公を演じるのは森山未來。女性ボクサーに安藤サクラを起用した『百円の恋』で強烈な印象を残し、大成功を収めた監督・武正晴、脚本・足立紳、プロデュース・佐藤現のチームが、再集結。前編・後編あわせてなんと4時間36分の、どうだ!文句あっか、という男の映画です。

晃(森山未來)は、元日本ライト級1位。タイトル戦に敗れて以降、鳴かず飛ばず。今や、若手ボクサーの踏み台にされる「かませ犬」という立ち位置で、なんとかボクシングの世界にしがみつき、デリヘルの運転手をして糊口をしのいでいます。そんな彼が、ふたりの男と宿命ともいえる出会いをし、リングで対決することになるのです。バラエティ番組の企画で初めてボクシングを経験するお笑い芸人の宮木(勝地涼)、そして、晃を倒すことを夢見てきた前途あるボクサー龍太(北村匠海)。ふたりにとっても、晃との試合が人生の大きな岐路となります。

かつて晃に夢を託したこともある父(柄本明)、別れた妻(水川あさみ)と息子(市川陽夏)、デリヘルで働く謎の女性(瀧内公美)とその娘(新津ちせ)、対戦相手の宮木や龍太をとりまく環境など、細部がきっちり描かれているし、意味深な伏線もあとできっちり回収されて、複雑な人間ドラマを観ていると時折感じるフラストレーションはありません。長時間でも飽きさせません。中心となる3人だけでなく、登場人物の多くが、それぞれどこか「アンダードッグ」的な裏面をもち、そこからはい出そうとしている、群像劇のようでもあります。

鬱屈した感情の爆発する象徴がファイトシーン。鍛えられた肉体がぶつかりあい、ほとばしる血と汗、それを撮るカメラワークもリアル、生半可なものではありません。特に、ダンサーでもある森山の身体能力と肉体が、活きています。

早朝の町。スカイツリーを近くに見上げる下町が、晃のトレーニングコースです。スタローンはフィラデルフィアの薄汚れたダウンタウンを、『あゝ、荒野』では菅田将暉とヤン・イクチュンが新宿の朝を駆け抜けました。ボクシング映画でファイト場面と並んで、いつも感動するのは、朝のシーンです。

『ヒトラーに盗られたうさぎ』



ヒトラーの台頭に身の危険を感じ、ドイツをあとにした、ユダヤ人一家の亡命の旅。ベルリンから、スイス、フランス、そしてイギリスへ。世界的に有名な絵本作家ジュディス・カーが、少女時代の実体験をもとに著した『ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ』という小説、その映画化です。監督はドイツ出身のカロリーヌ・リンク。『名もなきアフリカの地で』で米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した女性監督です。

9歳の主人公アンナ。父親は、ドイツでは知られた演劇批評家。辛口の批評で敵は多い。ヒトラーを批判した政治がらみの発言も鋭く、ナチスが政権をとれば、弾圧の対象にされるに違いありません。母は音楽好きで社交家。いざとなると父よりも頼りになります。少し年上の兄がひとり。それまでは自分がユダヤ人であることすら意識していなかったアンナでしたが、大好きなうさぎのぬいぐるみをおいて、ベルリンの思い出深い家をあとにします。

この時代、演劇批評家では外国で食べていくのは大変です。職を求めて、父と母は奔走します。そんななかで、すこしずつ成長していくアンナの日常が描かれます。言葉を覚え、友だちを作り、トラブルに立ち向かう姿はポジティブです。豊かな感受性は、将来の絵本作家の片鱗を感じさせます。同じ時代のユダヤ人の子どもの映画というと、東欧で家族と離れ、ひとり地獄の日々をすごした少年が主人公の『異端の鳥』や、不安におびえる『アンネの日記』のような、つらい物語が多いですが、この話は、のびやかで明るく、いいあと味が残る映画です。「帰る場所は、土地ではない、家族のいるところ」、という言葉が印象的です。

首都圏は、11/27(金)からシネスイッチ銀座他で公開。中部は、12/12(土)から名演小劇場で公開。関西は、12/4(金)からシネ・リーブル梅田で公開。