『恋する母たち』が描くいろいろな恋の形 吉田羊演じる優子の過去も明らかに
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杏(木村佳乃)と斉木(小泉孝太郎)、優子(吉田羊)と赤坂(磯村勇斗)、まり(仲里依紗)と丸太郎(阿部サダヲ)……ひとつの恋だけでも1本のドラマとして成立しそうなところを、3つの恋が同時並行で描かれる金曜ドラマ『恋する母たち』(TBS系)。母たちの恋は、パートナーや、その元パートナー、さらには息子たちまで巻き込んで、より複雑さを増していく。
夫・慎吾(渋川清彦)との離婚が成立して、独身となった杏。だが、斉木との関係はなぜかこじれていく一方。とにかく斉木が元妻・由香(瀧内公美)とコンタクトを取っているのが気に食わないのだ。由香がガンを患っており、多額の借金を抱えていると聞き、見放すことはできずに会っていると話す斉木にも、「私なら優しくしない」と食って掛かる。杏にとって由香は慎吾を奪われた経験もあり、どうにも穏やかではいられないのだ。さらに息子・研(藤原大祐)が、斉木との複雑な関係にショックを受けて家出をしたことも加わって、ピリつきが止まらない。ついには斉木から「めんどくせぇな」と言われてしまう始末だ。あの新しい恋へのウキウキはどこへ……これが“食べる直前が一番おいしい“状態というやつなのだろうか。
そんな恋愛格言を相変わらず、さらりと言ってのけるのが丸太郎だ。夫・繁樹(玉置玲央)が愛人・のり子(森田望智)からの呼び出しでひとり温泉旅館に取り残されたまりのもとに、めんどくさがらずサプライズで登場してみせる。その上、肌を重ねる直前で「やっぱり……」と言われても、決して無理強いしない余裕も。まりが息子・繁秋(宮世琉弥)を思うあまりに暴走しても、何が良くて何がダメなのかを優しく諭しながら、「かわいい」と慰めてみせるのだ。斉木に比べてやはり丸太郎は恋愛に関して何枚も上手だ。それもそのはず、丸太郎はバツ3。しかも、最初の妻を大事にできなかったことを忘れておらず、2回目、3回目の結婚も元妻の影によりうまくいかなかったのだと、斉木に語りかけ経験値の違いを見せつけた。
しかし経験値で言えば、負けていないのが優子だ。今回は、優子の過去がこちらもさらりと明かされる。赤坂とキスをする優子を見て、驚きはするものの、努めて冷静に「メガネをかけなさい」と告げたシゲオ(矢作兼)。その言動からは、いつかこんな日が来ることを覚悟していたようにも見える。実は、優子の息子・大介(奥平大兼)はシゲオとの子ではなかったのだ。独身時代から上司と不倫をしていた優子。不倫相手との子を身ごもったと知ると、シゲオはそのまま自分の子として入籍したのだという。
ところが今では、シゲオと大介の親子の絆は、血が繋がっているはずの優子よりも強い。シゲオが優子と赤坂の関係を知っても離婚しないのは、大介の父と母であることを大切にしたいと願ってのことだろう。シゲオは優子の女性としての貪欲さも含めて愛してきた。その結果、生まれてきた大介のこともまるごと。「限界だ」と言ったのは、どんなに自分が愛を持って接しても、優子から恋しく思われることがないこと。そして優子が仕事も恋も手放して、与論島で妻として母親として生きていく未来が見えないということ。
そして優子は1人、静かに千葉支店への転勤を引き受けていた。営業としての経験を積むことでいよいよ役員候補としての歩みを進めるためだが、何よりも赤坂との関係を断つためだった。しかし、そんな優子に与論島へと立とうという大介から、研に恋をしていることをカミングアウトされる。
大介の恋心に、まったく察することができなかった優子。しかし振り返ってみれば、変化は確実にあった。クラスメートになかなか心を開こうとしなかった大介が、研のために率先してテスト対策のプリントを用意していたこと。研と会う時は表情がキラキラとしていたこと……。実際に、繁秋はその密かな想いに気づいて「立つ前に会ったほうがいい」と背中を押していた。でも、優子がそこに意識がいかなかったのは、自分の恋に夢中になっていたからだろうか。
手の置き場に困ったような落ち着かない様子から、いかに勇気が必要な告白だったかが伝わってくる。立場上、秘めなければならないのは、母たちの恋愛であるはずなのに。実際は、むしろ楽しんで語り合っていた。だが、大介の恋は法に触れることもないのに、こんなにも怯えて苦しんでいる。人を愛する気持ちは尊いものなはずなのに……その不条理な現実に胸が詰まる。
このドラマを観ていると、実にいろいろな形の恋があるのだとつくつづく考えさせられる。杏と斉木は同じ傷を持つ慰め合う恋。まりと丸太郎はまるで精神年齢的に親子のように甘え、甘えさせる恋。赤坂と優子は性欲的に求め合う恋。大介から研に向けられた淡い恋もあれば、繁樹とのり子の征服欲的な恋も……。どれも「めんどくせぇ」ことにしかならないのに、恋は突然やってくる。
感情は事情を理解してくれない。だから、タブーとされる恋もあるけれど、その全てを否定しなくてもいいのではないかと、優子の美しい涙が訴える。だが、それでも誰かを傷つける恋は、その代償を払うことになるのだ。杏はあれだけ「自分がされて嫌なことはしないで」と言いながら、元夫・慎吾に助けを求められ、斉木と似たような状況になり、まりは「平気でウソをつく夫にうんざり」と言いながらテレビの前で家庭円満を演じた結果、のり子の逆襲に遭う。そして優子は、シゲオの支えも、赤坂の癒やしもない状況で、不慣れな営業職に奮闘する。深入りするほど、そのツケが大きくなることを肝に銘じながら、それぞれの恋の行き着く先を見届けたい。
■放送情報
金曜ドラマ『恋する母たち』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:木村佳乃、吉田羊、仲里依紗、小泉孝太郎、磯村勇斗、森田望智、瀧内公美、奥平大兼、宮世琉弥、藤原大祐、渋川清彦、玉置玲央、矢作兼、夏樹陽子、 阿部サダヲ
原作:柴門ふみ『恋する母たち』(小学館 ビックコミックス刊)
脚本:大石静
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:佐藤敦司
演出:福田亮介
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS