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窪田正孝演じる裕一は朝ドラ史上最も“ピュアな愛妻家” 『エール』“並んで歩いた”夫婦の旅路

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 いよいよ最終週を迎えるNHK連続テレビ小説『エール』。主人公・裕一(窪田正孝)と妻・音(二階堂ふみ)の旅も終わりが近づいてきた。ここでは、「夫」としての裕一について考えてみたい。

 『エール』に加え「なにかを生み出す」夫が登場した近年の朝ドラですぐに思い浮かぶのが『ゲゲゲの女房』と『まんぷく』。『ゲゲゲの女房』では「漫画」、『まんぷく』では「即席麺・カップ麺」がドラマの重要なファクターとなっていた。裕一が創作するのはもちろん「音楽」だ。

 この3作に共通するのは「夫が天才的な人物」であること。漫画家・水木しげるをモチーフにした村井茂(向井理)、日清食品の創業者・安藤百福がモデルと思われる立花萬平(長谷川博己)、そして昭和の国民的作曲家・古関裕而がモチーフの古山裕一。3人とも作品や商品を世に送り出し、それを大ヒットさせる類まれな才能を宿したキャラクターである。

 では、それぞれの夫婦像はどうだろうか。

 『ゲゲゲの女房』の茂と布美枝(松下奈緒)、『まんぷく』の萬平と福子(安藤サクラ)を一言で言えば「夫唱婦随型」の夫婦。つまり、天才型の夫を妻が後方から支えるという関係性だ(勿論、互いの愛情の下地があってのことだが)。

 それに対し、裕一と音の夫婦は少々違う。

 結婚後も自身の夢を追い、妊娠がわかるまでは音楽学校に通う音。そんな彼女を裕一も心から応援し、ふたりで将来の夢を語りあう。また、音は作曲家として売れない裕一を、時にハッタリすらかましながらレコード会社に売り込み、彼女の覇気に背中を押される形で裕一は曲を書き続ける。このふたりは「夫唱婦随型」ではなく「横並びの夫婦」との印象が強い。

 その関係性が成立する大きな要因のひとつが裕一のパーソナリティだ。

 いくら音が活発な性格で、結婚後も夢を叶えるために学校に通い、舞台に立ちたいと願っても、裕一がそれを否定すれば話は終了。なぜなら、当時の日本では「妻は夫に従う」夫婦の形がデフォルトだったから。が、裕一は音に対して1度も「女だから」「結婚したのだから」「お前はもう母親だから」という理由で彼女の道を閉ざさなかった。むしろ、娘の華(古川琴音)が成長し、音がふたたびクラシック歌手の夢に向かおうとオペラのオーディションを受けた時も満面の笑顔で喜び、彼女を鼓舞する。さらに、その夢が一旦しぼんでしまった際は、音の音域に合わせて「蒼き空へ」を作曲し、仲間が見守る教会でそれを歌わせることで、彼女と音楽とをふたたび繋げる手助けをする。

 その後の流れで印象深かったのが第23週「恋のメロディ」で描かれたエピソード。ラジオドラマから舞台の現場に移ると宣言した池田(北村有起哉)とともに、裕一も以前から切望していた国産ミュージカルやオペラで作曲や指揮の仕事をすることに。その時、彼は音にこう言う「音も手伝ってよ、曲を提出する前に音が歌ってくれたら舞台でどんな感じになるか想像できるから」。彼女の返答はこうだ「嬉しい! やらせていただきます」。作曲家と舞台に立つ歌手という関係性とは違う形だが、ふたりはここにきて、同じ作品にかかわる仕事仲間ともなった。

 夫としての裕一をこれまで見続けてきて思うのは「まったく邪気がない人」ということ。創作の過程で行き詰まって、音に酷い言葉をぶつけたり傷つけたりすることもなく、他者に対して語る妻の愚痴レベルはせいぜい「八丁味噌に慣れなくて」程度。舞台の公演中、楽屋を訪ねる音の着物姿を見てなんら照れることなく「綺麗だね」と笑顔を見せる。若い時分に家出事件(?)はあったものの、近年の朝ドラで、ここまでピュアな愛情を照れずに妻に示し続けた夫は他にいない気もする。

 そんな両親を見て育った華が、運命の人として選んだ相手がロカビリー歌手のアキラ(宮沢氷魚)というのも興味深い。

 どこか調子の良さはあるけれど、アキラからは裕一と同じく邪気のなさや人の好さがダダ漏れているし、音楽について語る彼の目はいつもキラキラ輝いている。そういえば、アキラを「この人!」と決めてからの華は、裕一に恋をし、ひたむきに突っ走っていった娘時代の音にそっくりである。

 作曲家・古山裕一は天才だ。が、夫としての彼は、大人になってもクリームを口の周りにつけたまま笑い、時に向う見ずなモードで突っ走る妻・音を100%受け容れ、彼女に恋し続ける少年のようである。それは幼い頃、教会で歌う音の姿を見た時から変わらない裕一の想いなのかもしれない。

 夫婦として並んで歩きながら、互いにエールを送り続けた裕一と音の長い旅がもうじき終わる。それはとても寂しいことだが、この禍の中、ふたりの前向きで明るい姿にわたしたちもエールをもらった。そのことを思い返しながら、裕一と音の旅の終わりを見届けたい。

■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/