Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 『エンタの神様』、『ゴッドタン』、『キングオブコント2020』……お笑い番組から紐解く“歌ネタ”の変遷

『エンタの神様』、『ゴッドタン』、『キングオブコント2020』……お笑い番組から紐解く“歌ネタ”の変遷

音楽

ニュース

リアルサウンド

 芸人たちが自作楽曲で笑わせる『歌ネタゴングSHOW 爆笑!ターンテーブル』(TBS系)、『ただ今、コント中。』(フジテレビ系)のなかの人気音楽番組をパロッたコーナー「ただ今、歌謡祭」、狩野英孝がMCをつとめるYouTube番組『歌ネタキングダム』など、歌ネタをメインとした番組やコーナーが増加中だ。

 歌ネタとは、お笑いと音楽要素を織り交ぜたネタのこと。その歴史を紐解くと伎楽、散楽まで遡らなければならず、本稿ではさすがに語り切れないが、ここ50年ほどのポピュラーな歌ネタ史に絞れば、コミックソングなどもやっていたザ・ドリフターズ、「なんでか?フラメンコ」の堺すすむ、「嘆きのボイン」の月亭可朝、「お前はアホか」のリズムでノコギリを叩く横山ホットブラザーズらを起点に、音楽に乗せたお笑いネタが数多く発案されてきた。

『エンタの神様』や『爆笑レッドカーペット』が歌ネタブームの火付け役?

 1990年代であれば嘉門達夫の『替え歌メドレー』が大ヒットを記録したし、清水アキラ、コロッケ、ビジーフォー、栗田貫一のものまね四天王も人気を呼んだ。『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)にも音楽を使ったネタはもちろんあった。1990年代後半、若かりし頃の千原兄弟、ケンドーコバヤシ、野性爆弾らがしのぎを削った『すんげー!Best10』(朝日放送系)にも歌ネタ、リズム系ネタで印象深いものがあった。ジャリズムの「葬式DJ」や「キン肉マンの続編をラッセンに描かせる」は大傑作。千原ジュニア、陣内智則らによる、準備運動のときの「1、2、3」のリズムにあわせてメガネを上げ下げする「メガネ部」も秀逸だった。

 『ボキャブラ天国』シリーズ(フジテレビ系)では「地獄のスナフキン」こと金谷ヒデユキが高く評価された。今では珍しくないギターの弾き語りによる替え歌のスタイルだが、当時は爆笑問題、ネプチューンらに囲まれるなかで異質な存在感だった。それはやはり歌ネタが今ほどシーンの主導権を握っていなかったからだ。ジャンル化されたのは先の話。1990年代まではコントの一部として、もしくはものまねをはじめとする特技的な様相が強かった。

 空気が変わったのが2003年、『エンタの神様』(日本テレビ系)の放送開始だ。ここで歌ネタの大波が到来。お茶の間向けの構成を徹底していた同番組は、漫才やコントのようにタメを効かせて大笑いを生むものよりも、手数が多くて満遍なく笑える芸を重宝し、どのタイミングでチャンネルを合わせても理解できる、入り込みやすい笑いを求めていた。そのスタイルにマッチしたのか、番組では歌ネタ芸人が目立った。

 2007年スタート『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)の存在も大きい。同番組は「一瞬で笑える」を掲げており、わずか1分というタイトな持ち時間のなかで爪痕を残さなくてはならない。ストーリー仕立てや、視聴者の想像を膨らませていく時間的な余地はほとんどない。パッと見聞きして、頭に入ってきやすい歌ネタ、リズムネタが有効打となった。

 両番組からは、小島よしお、はんにゃ、鳥居みゆき、天津木村、ジョイマン、オリエンタルラジオ、ムーディ勝山、藤崎マーケット、2700、テツandトモ、波田陽区、コウメ太夫ら、歌系&リズム系の芸人が全国区に。そして、このあたりからお笑いは早業勝負の時代へと切り替わっていった。

 天津木村、ムーディ勝山、藤崎マーケット、2700あたりは全国ブレイク前、関西限定で年末にオンエアされている『オールザッツ漫才』(MBS系)で真っ先に歌ネタで爆笑をさらっていた。同番組も持ち時間はタイト(特に若手枠)。歌ネタはやはり印象に残りやすかった。ちなみに天津木村のエロ詩吟は同番組でネタを見せた際、あまりに卑猥な内容から、深夜放送でありながら「不適切な表現がありました」と謝罪テロップが出される伝説を刻んだ。

YouTube、SNSなどで求められた高クオリティな歌ネタ

 2010年代、テレビやライブだけではなくYouTubeやSNSもネタ見せの場として加わった。YouTube、SNSではよりシビアに瞬発力が求められた。アタマ10秒くらいで視聴者の興味を掴まなければ、すぐにチャンネルチェンジに遭ってしまうほどだ。

 だから、冒頭からキャッチーにいかなくてはならない。そういう場面でもやはり歌ネタは視聴者をツカみやすい。さらに必要なのは、画面にくぎ付けにさせる持続性。“あらびき芸”的なものより、歌・演奏・踊りの上手さが年々求められるようになっていった。確かに、普段おバカなことをやっている芸人が、声を出した瞬間に歌がめちゃくちゃ上手かったら、それだけでグッと引きつけられるし、「歌が上手いけど、この後はどんな笑いを持ってくるんだろう」と期待もさせられる。

 2000年代はムーディ勝山、ジョイマンなどローファイ系な歌ネタがウケていた一方で、渡辺直美、友近、藤井隆ら芸達者勢も活躍し、フットボールアワー後藤の「ジェッタシー」を誕生させた『ゴッドタン』(テレビ東京系)の「芸人マジ歌選手権」など、本格的なサウンドにのせて笑わせるガチ系歌ネタの傾向もできあがっていた。

 現在は、そういったガチ系歌ネタの流れの方が強い。先述した渡辺直美、友近らクオリティが高いガチ勢が、歌ネタの標準値を上げたのではないだろうか。

 2016年「PERFECT HUMAN」で数千万再生を叩き出したオリエンタルラジオ(アーティスト名はRADIO FISH)、ピコ太郎の「PPAP」、あと歌ネタ王決定戦のチャンピオンであるラニーノーズ、さや香もハイレベル。トニーフランク(馬と魚)はブレイクし切れないところが歯がゆいが、「もしもaikoが桃太郎のテーマを歌ったら」などは間違いなくモノが違う。

 YouTubeでの芸人による「歌ってみた動画」のクオリティも今や凄まじい。流れ星・ちゅーえいによるビリー・アイリッシュ「bad guy」のカバーは中毒性抜群。もともと歌ウマで知られたココリコ・遠藤章造による尾崎豊「I LOVE YOU」のカバーは声の伸びがヤバい。チョコレートプラネットの長田庄平がカバーした瑛人「香水」も歌唱力抜群。アイデンティティはお得意の野沢雅子の声マネで嵐の「A・RA・SHI」などを披露し、ものまね系歌ネタをアップデート。

『キングオブコント2020』で歌ネタはメッセージ性の時代に?

 歌が上手いだけではなく、考察や批評をしたくなるほど味わい深い歌ネタも出てきた。『キングオブコント2020』(TBS系)は、前年のどぶろっくの優勝もあってか歌ネタが大半を占めた。歌ネタが被り過ぎた傾向自体は「どうだろう」と感じるが、ただ、現代の芸人たちが歌ネタとコントを混ぜ合わせるとこれほどメッセージ性があらわれるものかと驚きがあった。

 ジャルジャルの1本目「野次ワクチン」は、競艇場でのライブに招かれた歌手が、事務所社長から楽屋で「野次対策」を講じられるもの。「何を言われても歌い切る練習」をさせられる。ありきたりな日本語の歌詞を口ずさむ後藤に、しつこく野次る福徳。後藤は、野次が気になってなかなか歌いきれない。共通言語を持つ者同士ゆえに噛み合わず。物事が順調に前に進まないという奇妙な捻れを訴えた。

 ニッポンの社長は、上半身が人間で下半身が馬の男が、顔が馬で胴体から下が人間の女性に一目惚れ。恋に落ちた瞬間をあらわす楽曲がHYの「AM11:00」だ。男は日本語で歌い、女は理解できない咆哮で応じる。言葉が通じ合わないデュエットでありながら、心のなかの歌でふたりは結びついていく。

 ニューヨークは、結婚式で楽器演奏の余興をすることになった男が、余興レベルを超える凄技の数々を披露。豊富な練習量を経て、言葉にできないほどの、溢れんばかりの祝福を音楽に託す。

 歌ネタではないものの、空気階段は1本目で口寄せが上手くいかないイタコの話、決勝ネタで定時制に通う美女と滑舌の悪いオジさんの恋愛模様を披露。言葉が通じることは決して当たり前ではなく、そんななかで想いが通じあえば、それは奇跡なのだという感動的なコントをやりきった。

 それらを踏まえた上でジャルジャルの決勝ネタは絶品。ひとりの泥棒(後藤)が、緊張が高まるとタンバリンを鳴らす相棒(福徳)のせいで捕まりそうになる。「うるさい」と口すっぱく注意されても、福徳は聞かない。タンバリンを打ち鳴らし続ける福徳を一度は見捨てそうになるが、次の瞬間、後藤は福徳をグッと抱きしめる。もう言葉はいらないのだ。そしてタンバリンの音が鳴り止んだとき、『キングオブコント2020』の数々の歌ネタが回収された気がした。

ハライチが「この時代に替え歌!?」と驚いた

 歌の上手さ。本格的なサウンド。深読みさせるメッセージ性。歌ネタは進化と洗練の時期を迎えた。逆に高い完成度の揺り戻しが来ているのか、吉本新喜劇・島田珠代は勢いと捨て身感で押し通す「パンティーテックス」や「おばちゃんダンス」でブレイク寸前。彼女の歌ネタからは、かつての“あらびき芸”的なものの復権を感じられる。

 11月2日オンエアの『ワラリズム』(フジテレビ系)では、ニューヨーク、チョコプラら技巧派が揃うなか、電気代の支払いの苦しみを「残酷な天使のテーゼ」の替え歌を披露した横山天音がハネた。あまりのベタさに意表を突かれたのか、ハライチの「この時代に替え歌!?」という感想が象徴的だった。

 そういった原点回帰な歌ネタのほか、ロバート・秋山竜次のナイロンDJ、土佐兄弟がカーテンを引く音で奏でるパリピ曲など、アイデアや目の付けどころの良いものがこれからブームを巻き起こす予感だ。

 丸山礼ほか、歌ネタで触れておかなくてはならない芸人はまだたくさんいる。しかしそれは別の機会に持ち越すとして、多様性が生まれまくっている歌ネタというジャンルは、今後ますますおもしろくなっていきそうだ。

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter