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麻生祐未、『テセウスの船』に続き重要な役どころに 『危険なビーナス』終盤の鍵を握るのは……?

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 隣に座る親族の誰かはよく知る別の誰かとつながっていて、姉弟だと思っていた2人は実は親子だった。なんてことが起きるはずがないとは限らないのが『危険なビーナス』(TBS系)だ。

 第7話で禎子(斉藤由貴)の死の真相を追う伯朗(妻夫木聡)と楓(吉高由里子)が目にしたのは、取り壊されたはずの母の実家だった。明人(染谷将太)が残した手紙から、犯人の手がかりを探る2人の前に意外な人物が現れる。康治(栗原英雄)から家の管理を託された伊本(石井愃一)は、禎子の生前に佐代(麻生祐未)が訪れていたこと、その際に鍵を貸したことを明かす。伯朗は、佐代が禎子を殺したのではないかと疑念を抱く。

 失踪した明人と矢神家の遺産をめぐる本作は「ラブサスペンス」と銘打たれているが、誤解を恐れずに言うと、サスペンス要素はそこまで強くない。代わりに伯朗と楓によるバディものミステリーとしての色合いが出ている。なかなか真相が明かされず、もどかしい時間を過ごす視聴者も少なくないと思われるが、行ったり来たりしながら徐々に進行する謎解きを、まったりと味わうのが本来の楽しみ方かもしれない。

 伯朗が話を聞きに行った佐代は、勇磨(ディーン・フジオカ)の母親であり、先代・康之介(栗田芳宏)の愛人から養子になった経歴の持ち主。勇磨とともに矢神家の遺産を狙う「したたかな女」というイメージを強調しておいて、伯朗に対して別の顔をのぞかせる切り替えが鮮やかだった。バイプレイヤー女優・麻生の日曜劇場出演は『テセウスの船』(TBS系)以来。同作で事件の鍵を握る重要な役どころを演じ、視聴者をハラハラさせたことは記憶に新しい。

 『危険なビーナス』の矢神家では、今のところ骨肉相食むドロドロの争いには至っていないが、白でも黒でもなく、味方か敵かも判然としないグレーな関係性は、より一般的な親族のリアルを映し出しているように見える。これは、麻生や戸田恵子、安蘭けいたちベテラン女優の巧みさに支えられている部分が大きい。

 伯朗は、佐代から両親の真実を聞かされる。佐代は、康治と禎子のなれそめを知っており、伯朗から尋ねられて、伯朗の実父である一清(R-指定)のことを話し出した。楓が登場するまで、伯朗は両親や康治の過去を知らず、楓という存在が、何重にも重ねられた矢神家の秘密のヴェールを取り去る結果になっていることは興味深い。

 ドラマ終盤のキーを握りそうなのが、康治が集めていた「フラクタル図形」の絵だ。フラクタル図形は、部分が全体を表し、全体が部分の集合になっている規則的な図形であり、海岸線や雪の結晶に見られる。晩年の一清が描いていたのも、フラクタルに似た図形だった。なぜ、康治はフラクタル図形を集めていたのか? また、一清の絵は康治の研究と関係があるのか? 康治の共同研究者だった牧雄(池内万作)や数学者である伯朗の叔父・憲三(小日向文世)が手がかりを握っていそうだ。

 もう一人、露出は少ないが、伯朗と楓の裏で着々と真相に迫っているのが勇磨である。佐代の息子で、矢神家の内幕を見てきた勇磨が、矢神家に眠る「価値あるもの」に気付いていても不思議ではない。ラストの描写は、勇磨がその謎に王手をかけていることをほのめかしていた。そして前回、動いている姿を見せた明人は、いつ姿を見せるのか? フラクタル図形のように謎が謎を呼ぶ本作で、すべて明らかになった時、そこにあるのはどんな光景だろうか?

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
日曜劇場『危険なビーナス』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:妻夫木聡、吉高由里子、ディーン・フジオカ、染谷将太、中村アン、堀田真由、結木滉星、福田麻貴(3時のヒロイン)、R-指定(Creepy Nuts)、麻生祐未、坂井真紀、安蘭けい、田口浩正、池内万作、栗原英雄、斉藤由貴、戸田恵子、小日向文世
原作:東野圭吾『危険なビーナス』(講談社文庫)
脚本:黒岩勉
プロデューサー:橋本芙美(共同テレビ)、高丸雅隆(共同テレビ)、久松大地(共同テレビ)
演出:佐藤祐市、河野圭太
製作:共同テレビ、TBS
(c)TBS