「ぶつかりあって生まれる熱量を届けたい」 『オレステスとピュラデス』鈴木仁×濱田龍臣インタビュー
ステージ
インタビュー
濱田龍臣(左)、鈴木仁(右) 撮影:杉映貴子
杉原邦生が手掛けるギリシャ悲劇シリーズ『オレステスとピュラデス』が11月28日(土)よりKAATで幕を開ける。オイディプス王をラップで彩った『オイディプスREXXX』、トロイア戦争を主軸とした物語を実に10時間の上演時間で描いた『グリークス』に続き、最終章となる今回は「失われた(現存しない)」ギリシャ悲劇を描き出す。主人公のオレステスを演じる鈴木仁、その無二の友人であるピュラデスを演じる濱田龍臣に話を聞いた。
「描かれていない」ギリシャ悲劇への挑戦
――まずは『オレステスとピュラデス』のオファーを最初に聞いたときの感想から教えてください。
鈴木 僕は舞台自体が初めてで、しかも題材がギリシャ悲劇という現代の日常とかなり距離のあるもの。だから楽しみも不安も、とても大きかったです。今はとにかくこの舞台に貢献して、お客さんに届けられるように頑張ろうと思っています。
濱田 自分は今年2作目の舞台になるんですが、今回は何度も共演していて、同じ歳の仁さんと一緒ですごく心強いなと思いました。自分もそうだったように、今回初舞台の仁さんにもいろんな方からいろんなことを教えてもらって、舞台の楽しさを知ってもらえたらいいなと感じています。
――オレステスは、杉原さんが前回演出した『グリークス』で描かれたトロイア戦争のギリシャ軍大将・アガメムノンの息子であり、神託を受けて母を殺します。今作ではその後、復讐の女神の呪いに苛まれたオレステスが、それを解くために母殺しを手伝った親友ピュラデスとともに旅をする物語と聞いています。瀬戸山美咲さんによって新たに紡がれた戯曲を読んでみて、物語やご自分たちの役柄についてどんなふうに捉えていますか?
鈴木 ギリシャ悲劇の中でも描かれていない物語ということは、もちろん難しさもありますが、新しいものを自分たちでイチから作りあげられる自由さもあるなと思っています。ギリシャ悲劇の世界に触れてみて感じたのは、現代とは人を殺す感覚がちょっと違うのかな、ということ。戦争もありますし、オレステスのように親子の間での殺し合いもありますし。もちろん、オレステス自身は母を殺したことを深く捉え、罪悪感を覚えて囚われて生きていますけど、今の自分に単純に置き換えるのとはちょっと違う面があるのかなと思いながら脚本を読みました。
濱田 そうですね。昔の作品ということもあって、人間の感情がすごくストレートにあらわれているという印象が強いです。それが直接行動にもつながっていきますし。現代だと、どうしてもSNSをはじめとして、感情を間接的に表すことが多い。人対人で、直接感情がぶつかり合うのが新鮮だし、その豊かさが作品の面白さにつながっていくんじゃないかな、と思います。復讐に囚われているふたりが、どうやって周りと感情をぶつけあって視野を広げていくのかというのは、稽古をしていてもすごく楽しみな部分ですね。
日々進化する作品
――稽古場の雰囲気はどうですか?
鈴木 初めての舞台稽古なので他と比べることはできませんが、演出の杉原さんは、「こういうセリフ回しはどうですか?」とか「こういう演技で大丈夫ですか?」といった僕たちの差し出すものに、すごく的確に応えてくださるんです。だからセリフへの理解を少しずつ深められるし、素直に楽しみながら稽古に取り組めています。
濱田 台本では真面目なシーンにもくすっと笑えるセリフが入っているんですが、そのときの邦生さんがすごい楽しそうな、本当に無邪気な少年みたいに笑うんですよね。それによってすごく稽古場の雰囲気がよくなっているなと思います。もちろん演劇に対してすごく熱いものをもってらっしゃるので、毎日話し合って、日々作品が進化していくのを感じられるのはすごく楽しいですね。
――同年代のおふたり、舞台経験では濱田さんが先輩になりますが、鈴木さんにアドバイスをすることは?
鈴木 もう、大先輩です!
濱田 いやいや、アドバイスなんて大層なものはないですが、「喉気をつけてくださいねー」とか「これいいらしいですよー」とか、僕自身が先輩に教えていただいた受け売りを話したりしています(笑)。
鈴木 僕、喉がすごく弱くて、稽古が始まった頃に喉を1回壊してしまって。たっちゃんだけでなく、周りの先輩方から「これ飲んだほうがいいよ」とか「この漢方効くよ」とかたっくさん教えていただいたんです。いままであまり意識を向けたことのなかった自分の身体と向き合うところから僕の舞台は始まりました。そういう基本中の基本からみなさんに教えていただけたのは本当によかったなと思います。
まっすぐセリフをぶつけることで成り立つ関係
――オレステスとピュラデスのふたり旅を軸として物語が進む、ロードムービーのような作品ということですが、稽古中にふたりで役について話し合うことはありますか?
鈴木 それはあまりないですね。ただ、稽古中の席が横並びなので、自然と読み合わせがはじまります。
濱田 「ここはこうしよう」と事前にしゃべるよりも、実際に芝居としてぶつけたほうが説得力があるかなと思うので。自分が考えてきたピュラデスを、稽古で邦生さんと仁さんにぶつけていく感じです。
鈴木 シーンごとに違うオレステスの感情って、言葉で説明するのが難しくて。登場人物たちは感情をまっすぐ伝える人ばかりだから、セリフに潜む感情を説明するより、セリフそのものをぶつけちゃったほうが成り立つのかなって思います。
――ふたりのぶつかり合いで作品が作られているんですね。
鈴木 そうですね。日々悩んで、正解はわからないけれど、でも正解に近づけるように戦っています。オレステスってピュラデスに甘えるというか、かなり頼りっぱなしなんですよね。僕自身は実生活では弟がいて長男なので、あまり甘えたり頼ったりする感覚がなくて。だから難しさを感じつつ、日々新鮮な感覚で稽古しています。でも、できてるのかな?どう?
濱田 大丈夫(笑)。
濱田 たしかに、自分自身との違いという点で言えば、僕はこれまでたくさんの作品でいちばん年下のポジションが多くて、周りに甘える立場だったというのはありますね。こんなふうにお芝居全編で「ついて来いよ」という感じで引っ張るキャラクターは僕にとっても新しい挑戦です。ちゃんとできてるか、僕も心配……。
鈴木 しっかりしてるから大丈夫だよ!
――おふたりの関係性が、作品にもいい形で反映していきそうですね。「ここはぜひ注目してほしい」というポイントやシーンがあれば教えてください。
鈴木 もちろん物語そのものを味わいつつ、僕らはずっと舞台上を走り回っていると思うので、「走ってるな〜」と楽しんでいただけたら、と思います。マスクをつけながら稽古しているんですが、その状態で走り回っているので、ちょっとした高山トレーニングのような状態で(笑)。
濱田 かなりハードですね(笑)。でもそんな状況の中、役者たち一人ひとりがもがきながら一生懸命走り回っているのを見ていただけたらと思います。役者たちがぶつかりあって熱量の高い舞台になると思うので、ぜひ観て「演劇っていいな」と感じていただけたら嬉しいです。
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取材・文:釣木文恵 撮影:杉映貴子
公演情報
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
『オレステスとピュラデス』
作:瀬戸山美咲
演出:杉原邦生
音楽:Taichi Kaneko
振付:北尾亘
出演:鈴木仁 / 濱田龍臣 / 趣里 / 大鶴義丹 / 内田淳子 / 高山のえみ / 中上サツキ / 前原麻希 / 川飛舞花 / 大久保祥太郎 / 武居卓 / 猪俣三四郎 / 天宮良 / 外山誠二
2020年11月28日(土)~2020年12月13日(日)
会場:KAAT 神奈川芸術劇場 ホール
■本公演を映像作品として配信予定(詳細は公式サイト https://www.kaat.jp/d/orestes_and_pylades にて後日発表)
■ポストトーク開催!
開催日:登壇者
・12月3日(木):山形治江(ギリシャ悲劇研究家・翻訳家)、杉原邦生(演出)
・12月4日(金):瀬戸山美咲(作)、杉原邦生(演出)
・12月7日(月):白井晃(演出家・俳優・KAAT神奈川芸術劇場芸術監督)、杉原邦生(演出)
・12月9日(水):鈴木仁、濱田龍臣
・12月11日(金):鈴木仁、濱田龍臣、趣里
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