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ホラー漫画家・伊藤潤二の「猫日記」が斬新すぎる! 不気味なタッチで描かれる愛猫家の日常

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リアルサウンド

 猫漫画や猫系コミックエッセイは、かわいらしいイラストにほっこりさせられるもの……。『伊藤潤二の猫日記 よん&むー』(伊藤潤二/講談社)はそんな考えを打ち砕く、新感覚の猫漫画。作者の持ち味が色濃く反映されている本作は、他の猫作品と一線を画している。

 伊藤氏は、日本を代表するホラー漫画家。これまでに、笑いの要素も含んだホラー作品を多数生み出し、読者を斬新な世界へ誘ってきた。そうした作風は本作にも表れており、ちょっぴりゾッとしてしまうようなタッチで、猫の愛くるしさや猫飼いのコミカルな日常を描いている。

犬派だったホラー漫画家が猫と暮らしてみたら……?

 作中で伊藤氏は、ホラー漫画家Jとして登場。Jは犬派だったが、婚約者の希望で猫と暮らすことに。購入して間もない新居にやってきたのは、婚約者の実家で暮らしていた「よん」。Jはよんを「呪い顔の猫」と恐れ、口では「認めない」と言いつつも、キャットタワーを組み立てたり、ひっかき防止シートを家中に張り巡らせたりと協力的。

 そんなJに向け、婚約者は売れ残りのノルウェージャンフォレストキャットも家に迎えたいとお願い。2匹も飼うなんて認めない――。そう言いつつも、Jは婚約者を車に乗せて会場へ行き、子猫を引き取る。「むー」と名付けられたその子猫は、よんとすぐに仲良くなった。

 こうして始まった、初めての猫飼い生活はJにとって驚きの連続。婚約者のように上手く猫じゃらしを操れなくてもどかしくなったり、フードで猫をおびき寄せるも、心までは掴めずに落胆したりと、学ぶことが多い日々。なんとか猫と心の距離を縮めようと躍起になるJの姿は禍々しいタッチで描かれているのに、微笑ましく見えてしまう。

 やがてJの想いは猫たちにも伝わり、よんは婚約者にしかしなかった「指チュッチュ」をJにも行うように。こうした変化に触れ、Jはさらに猫への愛を強めていく。

 中でも、面白かったのが仕事でひとり、豪華なホテルに泊まった時の話。Jは婚約者にホテルを自慢し、いい気分になっていたが、返信メールでむーが真っ暗な部屋の中で自分の脱いだ洋服に寄り添っていることを知り、何とも言えない気持ちに。ホテルの一室で、「自分だけ贅沢してごめん」と叫んでしまう。家に残してきた愛猫の心境を想像し、深い後悔を抱いてしまうJ。彼は、もはや立派な猫好きだ。

 Jの猫愛は、日常生活からもうかがい知れる。例えば、脱走を試みるよんのため、家中の網戸にカギを取り付けるなど、猫のことを考え、自発的に行動するように。仕事中には、キャスターがついた椅子の下で眠る猫たちを踏んでしまわないよう、ガムテープを車輪にはめ込み、「猫踏まずあめんぼう」を完成させた。こんな風に、回を増すごとにどんどん猫の魅力にハマっていくJの姿に読者は、つい自分を重ね合わせてもしまう。

 人間の心をがっちり掴んで、二度と離さない。そんな力を持つ、猫という動物はもしかしたら、幽霊やお化けよりも恐ろしい存在なのかもしれない。ホラーと笑いが入り混じる本作は、猫の魔力を改めて痛感させられる一冊でもある。

■古川諭香
1990年生まれ。岐阜県出身。主にwebメディアで活動するフリーライター。「ダ・ヴィンチニュース」で書評を執筆。猫に関する記事を多く執筆しており、『バズにゃん』(KADOKAWA)を共著。

■書籍情報
『伊藤潤二の猫日記 よん&むー』
著者:伊藤潤二
出版社:講談社
出版社サイト